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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
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しおりを挟む「それでシェリー・カークスの魔眼によって何が起こったのだ?」
ユールクスは聞いていた話と若干違うと首を捻りながら、治療が終わったシェリーに尋ねた。
シェリーはユールクスの言葉に答えず、目の前にあるグラスを手に取り、冷えた果汁水で喉を潤した。
ここはダンジョンの2階層にある休憩所の一角だ。今いる場所は山林のコテージをモチーフにしたのか、木のぬくもりを感じる建物の窓の外には青々とした木々が目に映った。
喉の乾きを潤したシェリーは改めて目の前の人物を見た。チート過ぎてラースの魔眼を軽く見ていた炎王が珍しく落ち込んでいる様子が伺える。その横には番であるリリーナが心配そうに炎王の姿を見ていた。
そして、90度斜め横にはユールクスが珈琲を飲みながらシェリーに視線を向けている。その背後には配下であるナーガのスイが控えていた。
シェリーはというと、カイルの膝の上に抱えられていた。定位置である。
「何が起こったか。ユールクスさんはその目で見ていましたよね」
シェリーはその場にいたのだから、説明は必要ないだろうと言葉にする。
「確かに見ていた。だが、あの鬼子が変化した意味がわからない。その昔あのような姿をした者がいたのは知ってはいる。そうだろう?エン」
ユールクスはリオンが変化した姿と似た者が存在したと炎王に同意を求めてきた。そう、変化したリオンの姿を見て声を上げた炎王にだ。
「リリーナの兄。イゾラだ」
炎王はその人物の名を上げた。リリーナが性格が悪かったと称した兄の名前だ。
「ええ、···鬼化したお兄様の姿でした」
リリーナは戸惑ったように”鬼化”と言葉にした。確かリリーナは鬼化には何かしらの準備が必要だと言っていなかっただろうか。この様に簡単に鬼化をすることができるのだろうか。いや、己の最大限の力を引き出されるラースの魔眼だ。その者が持つ潜在能力すら引き出すということなのだろう。
「その者は我が知る限り、姿が変わることはなかったが?」
「いや、イゾラも元の姿は普通の鬼族と変わらなかった」
炎王がユールクスの言葉を首を横に振って否定をした。
「だが、あのように自分の力に耐えきれないように肉体が裂けることはなかった」
「だから言ったではないですか。リオンさんは魔眼に対する耐性も無ければ、レベルも足りないと」
炎王の言葉にシェリーは呆れながら答えた。シェリー自身はきちんと忠告をしたと。
「リオンさんは炎王とは違うのです。これでも私からすれば、一番低レベルで魔眼を使用したのです。もし、リオンさんが魔眼に対して抵抗する力があるのであれば、自我を保ちある程度の力の制御も可能だったでしょう。レベルが足りていれば肉体の変化にも体は耐えきれたでしょう」
肉体の変化。鬼族からすればそれは鬼化ということのだろう。獣人であれば、黒狼クロードが見せた獣化であり、竜人であればカイルが第2形態と称した翼が生えた姿のことに当たるのだろう。
その姿を取ることができる存在は限られている。現にシーラン王国で獣化できる存在はシェリーがキングコングと呼んでいるギルドマスターだた一人であり、第6師団長であるクストは獣化と言っていいかわからない形態に変化をした。肉体の変化をすることができる存在は二人だけなのだ。それも一人は超越者であり、一人は変革者であるクロードの直系だ。
普通の者ではないのだ。
それに比べリオンはどうだろか。変革者である炎王の血を持つ者ではあるが、戦いに戦いを繰り返し、戦場で鍛えられたクストとは比べるまでもなく、足りないモノがありすぎるだろう。
「ただ今回助かったのはリオンさんが魔術が使えないことですね。あの状態で魔術を使えば恐らく魔脈回路が焼き切れていた可能性があります。物事には順序というものが必要だと思いませんか?」
シェリーは魔眼を使うように勧めてきた二人に向かって問いかけた。否定をしているにも関わらず、無理に施行したがために起こった人災だと、シェリーは炎王とユールクスに言っているのだ。
「そうだな。確かにそうだ。それでリオンは目を覚ますにはどれぐらいかかりそうなんだ?ステータス的には回復しているようだが?」
炎王は部屋の隅に用意されていたベッドの上に寝かされているリオンを視て言った。シェリーは聖女だ。そのシェリーが回復の魔術を使ったのだから回復はしている。だが、まだリオンは目を覚ましてはいなかった。
「いくら私が回復したといっても、急激な肉体の変化に体がついていけなかったのです。休息は必要でしょう」
「そうか。ユールクス。リオンが目を覚ますまで、ここを使わせてもらって構わないか?」
すると炎王の言葉にユールクスは眉をひそめ嫌そうな表情をした。
「それは、我にこのままここに居るように言っているのか?」
「まぁ、そう言うことだな」
炎王は苦笑いを浮かべてユールクスの言葉を肯定したのだった。
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