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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
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しおりを挟む「神の加護?」
リオンは強要という言葉よりも、シェリーが言った頼りにするなら神の加護の一点だけだという言葉の方が気になったようだ。
神の加護という言葉に思い当たる事を探すように下げていた頭を上げ、首を傾げていた。
リオンだけでなく、シェリーの番である彼らに贈られた····いや押し付けがましく与えられた春を司るウエール神の加護『心蝕の穏守』。これによりカイルは普通以上の早さで魔眼に対して抵抗力を上げることができ、ユールクスが創り上げた悪魔の魔眼に抵抗できたのだ。
「『心蝕の穏守』のことだ。リオンもあるだろう?」
カイルに指摘され、確かにその様な加護が与えられたことを思い出すリオン。
「ただ、加護は所詮加護だ。神にも位はある。女神ナディアと春神ウエールどちらが力を持つか。それに頼り切ることは危険だと心の隅に刻んでおくと良い」
そう、あの時。ウエール神から加護を与えられた時はドルドール遺跡のダンジョンの魔物から魔眼の耐性を得る話をしていたのだ。魔物の精神攻撃から守るための加護であって、女神ナディアの血族からの魔眼攻撃に対しての加護ではない。それはそうだろう。神として信仰を集めているのはどちらの方か。信仰により力を得ているのはどちらの方か。わかりきっていることだ。女神ナディアの方が神として位が上だということ。
そんな女神ナディアの血と力を受け継いでいる末孫のシェリーの魔眼に対してウエール神の加護は効果があるのか。ウエール神の側にいたテロス神を殴りつけたシェリーの行動をみてわかるように、シェリーの方が強いことが伺える。
シェリーは『頼りにするとすれば』と言葉を濁したが、同じ加護を持つカイルの感覚からすれば、神の加護は当てにはできないと言いたいのだろう。
「わかった」
リオンはカイルの言葉にうなずいた。そして、リオンは腰に佩いていた刀を抜き、呆然と立っている黒い巨体に対して青く透き通る刃を向けた。
「シェリー。頼む」
ただ一言リオンは言った。それが、己にどのような結果を招くかわからないというのにも関わらず、リオンはシェリーに魔眼を使ってくれるように願い出た。
その言葉にシェリーはため息を吐き、施された魔眼の封印を解いた。
「『目の前の敵を駆逐しろ』」
シェリーはリオンに対して魔眼を使い命令をだした。とても強い言葉でだ。
その途端、リオンに変化が起こった。黒い髪が真っ白に変化し、額から生えた白い二本の角が真っ赤に染まり、大きく天を突くように倍の大きさに変化した。
「あっ」
リオンの姿を見ていた炎王から声が漏れ、その横にいるリリーナを見れば信じられないと言わんばかりに目を見開き口元に手を当てていた。
その間にもリオンの体に変化が起きており、体が一回り大きくなったように膨れた。いや、筋肉が増したと言えばいいのだろうか。
そして、リオンはかがんだかと思えば、その場から消え去り、頭部がない黒い巨体の右腕を斬り落としていた。まるで瞬間移動したような速さだった。
リオンは黒き巨体を斬り刻むように四肢を切り落とし、最後には胴を縦に真っ二つにするように首元から腹部に掛けて切り裂いたのだった。斬り裂かれた胸の辺りから次元の悪魔の核が出てきたが、その核を素手で掴み、りんごを握り潰すように破壊したのだった。
時間にすれば一瞬と言っていい間だっただろう。魔眼に操られたリオンは動かない案山子と表現していい次元の悪魔だったが、ものの見事に倒しきったのだ。そう、先日は皮を切り裂くだけが精一杯だったリオンがだ。
「ちっ!」
次元の悪魔を倒したリオンに対して舌打ちをするシェリー。
「こういうことだったの?シェリー」
カイルはリオンを見ていた目を閉じて、シェリーが魔眼を使うことに対して拒否をした本当の理由を理解した。
しかし、シェリーはその言葉に答えず、別の言葉を口にする。
「『眠って回復しろ』」
リオンに対して回復の眠りを指示したのだ。すると、意識を失ったように倒れたリオン。その姿は黒髪のいつもの姿に戻っていたが、あちらこちらが血に塗れていた。そして、リオンの周りには赤い水溜りが徐々に広がっている。
すぐさまシェリーは駆け寄り、回復の魔術を使った。
「『聖女の慈愛』」
いつもなら瞬時に治して、その場を離れるシェリーだが、顔を歪めながらリオンの治癒を続けている。
「すまない。佐々木さん。ここまでだとは思ってもみなかった」
治癒の魔術を使い続けるシェリーに対して炎王が謝った。その隣りにいるリリーナもオロオロと視線を漂わせている。
「いえ、これがオーウィルディア様であれば、ここまでにはならなかったでしょう。そもそもリオンさんの本来の力を引き出すことはできず、先程の6割程度の力で戦う事ができたでしょう」
それがシェリーとオーウィルディアの魔眼の力の差だと。ただ、リオンが耐えきれる最大限の力で強化した肉体で刀を振るうだけで済んだと、額に汗を滲ませながら治癒を続けるシェリーは言葉にしたのだった。
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