上 下
486 / 775
25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

474

しおりを挟む

「ですから、私は必要ないと····」

 シェリーは首を横に振って、魔眼を使うことを拒否する言葉にしていると、頭を下げるリオンを目にしてシェリーは言葉を止めてしまった。

「お願いしたい」

 今まで頭を下げる立ち場でなかったリオンがシェリーに対して頭を下げて頼み込んだのだ。

「俺に魔眼を使って欲しい」

 と。その言葉にシェリーはため息を吐く。そこまで、頼み込むことなのだろうかと。

「ラースの魔眼には個人差があります。私の魔眼は大公に立つミゲルロディア閣下と同じぐらいだと評価されました。この意味がわかりますか?」

 シェリーは頭を下げ続けているリオンに問う。大公に立てる程の魔眼を持っている。その意味はラース公国の全国民を操り、国を守るための神兵に仕立て上げることができると言っているのだ。

「下手をすると死にますよ?」

 ただ操るだけというのにシェリーは脅すような言葉を口にした。しかし、シェリー自身は何度か魔眼を使用している。猛将プラエフェクト将軍は勿論のこと、アフィーリア避けとして炎王に、そして、訓練としてカイルにも使用している。
 しかし、この3人には共通点がある。そう、3人共レベル200超えの超越者であるということだ。

「それでも構わない」

 リオンはシェリーの脅しの言葉に屈せず、それでも使って欲しいと言葉にした。リオンはシェリーの言葉をどこまで本気で捉えているのだろうか。操られるぐらいで死ぬとは思っていないのかもしれない。いや、番であるシェリーからの言葉だ。そして、番であるシェリーから与えられる死であれば、喜んで受け入れてしまえるのかもしれない。

「はぁ」

 ただ、シェリーからは了承の返事の代わりに、ため息がこぼれた。そして、腰にある鞄から赤いブローチの様な物を取り出す。それは赤い魔石に金色の装飾が施され、魔石の中にはラース公国の紋章が浮かび上がったものだった。
 それにシェリーの魔力を流すと魔石が仄かに光り出した。

『シェリーミディア様どうかされましたか?』

 その赤いブローチから声が聞こえてきた。遠く離れたラース公国にいる魔眼の使用を管理していクルバの声だろう。

「次元の悪魔の出現のため魔眼を使用します」

『あの?毎回言わせていただきますが、最近使いすぎではありませんか?』

「····訓練ということで」

 シェリーは自分が使いたいと言っているわけではないと、どことなく匂わす言葉を言った。そう、カイルに頼まれ魔眼の抵抗性を上げるための訓練と同じ言い訳をしたのだ。 

『そうですか。この事は大公閣下に報告させてもらいますよ。それにしてもギラン共和国にも次元の悪魔が出現したのですか』

 恐らくあの壁一面にある大陸の地図上でシェリーの位置を把握しての言葉なのだろう。管理者であるクルバからはシェリーがどこにいるなど、ひと目でわかってしまうのだから。
 クルバの報告するという発言にシェリーは思わず聞いてしまった。

「ミゲルロディア大公閣下は何事もなく、お過ごしなのでしょうか?」

 シェリー自身がミゲルロディアに大公の座に戻ってくれるように頼んだものの、魔人である彼は何事もなく過ごしているのか、内心半信半疑だったのだ。

『ええ、シェリーミディア様には感謝を。まるで以前のヴァンジェオ城に戻ったようです』

 クルバの言葉にシェリーの胸の支えがとれたように、ふわりと笑みを浮かべた。アリスの言葉を信じないわけではなかったけれど、間違った選択肢ではなかったと。

「それは、よかっ····カイルさん、返してください」

 リオンは未だに頭をシェリーに向けて下げていたので気が付かなかったが、カイルはシェリーの笑みを目にして思わず、赤いブローチを取り上げたのだ。そう、シェリーの笑みを引き出したここには居ないクルバに嫉妬して、シェリーの魔力で起動している魔道具をシェリーから取り上げたのだ。

 取り上げた赤いブローチは直ぐにシェリーの手元に戻ってきたが、カイルから返されたブローチは通信機能は既に途切れており、クルバの声は聞こえることはなかった。赤いブローチを鞄にしまい、シェリーはリオンに声をかける。

「リオンさん。私が魔眼を使ったことで起こる不調を全て治せるわけではないと、理解してください。はっきり言ってリオンさんは魔眼に耐えるように訓練をしていません。それに加え体が耐えきれるレベルには達していません」

 レベル100を超えているリオンに対して、それでもレベルが足りないとシェリーは言った。

「ただ、頼りにするであれば、神の加護の一点のみ。それでも私に魔眼を使うように強要をしますか?」

 強要。リアンはシェリーに頼んでいる立ち場であるので、強要しているわけではない。しかし、魔眼を使いたくないシェリーからすれば、強要されていることと同じだった。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

【第一章完結】半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...