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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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 ユールクスの言葉にシェリーと炎王は視線を交わす。これは現状がどうなっているか知るいいチャンスだと。

「エン様!なんですか!二人で見つめ合って!」

「だから、リリーナ違うからな。ユールクス。悪いが国境まで連れて行ってくれ。それで問題が起こるかどうかがわかるんだ」

 炎王 は半刻一時間後までに魔道具の設置と発動を行わないといけないため、行くのであれば、今直ぐの方がいいと判断した。

「良いだろう」

 ユールクスのその言葉と同時に一瞬にして、風景が変わった。その風景は荒野が広がり、遠くには高い山々がそびえ立っているのが見える。
 流石、国土の全域をダンジョン化したユールクスだ。一瞬で国境まで移動したのだろう。

「それでな。ユールクス。これが今回の問題の魔道具なんだが···」

 炎王は空間のどこからかゴブレット型の魔道具を地面に置き出した。そう、炎王がユーフィアの一点物の魔道具を犯罪まがいに複製した結界発生装置と言う名の全方位攻撃物だ。

「ん?アルテリカの火を使っているのか?」

 ユールクスは瞬時にゴブレットの中に収められている赤い鉱石がアルテリカの火だと見抜いた。

「このままで使えるのか?これが問題点なのか?」

「使えますよ。オリジナルは結界を張ることはできたようです。まぁ、使ってみないと問題が起こるかどうかはわかりません」

 シェリーはこの魔道具に検証実験が必要だと口にする。正確には魔道具に問題があるのではなく、次元の悪魔の方に問題があるのかもしれないということだが。

「それでですね。この下を回すと結界が100メルメートル発生します。これはアルテリカの火の特性と同じですが、起動と解除はこの魔道具で行わないといけませんですから、中に誰か入ったままになるか、ユールクスさんの方でどうにかしてもらうか、どちらかになります」

 これも問題点といえば問題と言われることだろう。粉にしたアルテリカの火の起動と解除は柏手によって行われるため、使用者がアルテリカの火の中にいようが、外にいようが関係ないのだ。しかし、元々商船に結界を張るために作られた魔道具である。結界の外から操作するようには作られてはいなかった。

「ああ、それぐらいならどうとでもなる」

 ユールクスが地面に並べられたゴブレットに手をかざすと、そのゴブレット型の魔道具は姿を消した。そして、少し離れたところで赤い半円状の膜が次々に出現しだした。あの結界が現れたところが国境に当たるのだろう。
 しかし、ユールクスもユールクスでチート過ぎる。彼はきっとダンジョン内であれば出来ないことは無いのだろうか。
 そのことで、ふと気になったことをシェリーはユールクスに尋ねる。

「そう言えば何故帝国側の悪魔の位置が正確にわかるのですか?そこはダンジョンの外だと思うのですが」

 そう、ユールクスは今回も前回も次元の悪魔の位置を把握しているような言い方をした。これはおかしなことでもある。ダンジョンの外の事まで把握しているなんて···。

「ああ、それは空に偵察の目を飛ばしている」

 どうやらユールクスはダンジョン外の事も把握出来るように対策をとっているようだ。確かに敵は国内だけでなく、他国からの侵略も視野に入れておかなければならない事だろう。

「エルフ族がいつ敵意を持って侵攻してくるかわからないからな」

 ああ、これはこの国を築いたアマツの意志を汲んでの対策なのだろう。エルフ族から人族と獣人を解放するために戦ったアマツの意志を。

「そうですか。それで、モルテ神の祝福は受け取ってくださいましたか?」

 シェリーのその言葉にユールクスはニヤリと笑った。

「あの時、何故その魔眼を使わなかった?」

 ユールクスはシェリーの質問の答えではなく、シェリーに質問をしてきた。しかし、あの時とはいつのことだろうか。

「そこの竜人を操れば、あの程度の悪魔など簡単に滅ぼせたはずだろう?」

 ユールクスの言葉にシェリーは不快感を顕にした。あの枯れ枝のような老人の悪魔との戦いの事を言っているのだ。そう、悪魔に操られそうになっているカイルに対して上からラースの魔眼で操って戦わせればよかったのだとユールクスは言っているのだ。

「操る者の力を最大限に引き出し、戦わせる事がラースの一族の戦い方だろう?何故、そうしなかった。お前に番が複数いるのもそのためだろう?」

 ユールクスの言葉にこの場にいるカイルとリオンの視線がシェリーに突き刺さる。それは本当のことなのかという驚きの視線だ。

「何故そうしなかったですか。私は必要性を感じなかっただけです」

「ほぅ?決め手となる一撃が全く通らなかったのにか?」

 確かにシェリーの攻撃は悪魔に対して致命的なものとはならなかった。ただ皮一枚を切り裂き魔核に対してはキズ一つ付けることができなかった。

「魔物に対してはその魔眼を使うが、人に対して使うことに躊躇しているのだろう?結局、考えが甘いのではないのか?ラースの姫君」





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