上 下
466 / 780
25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

454

しおりを挟む

「無理だ」

 ライターはきっぱりと言い切った。それも教えないという拒否ではなく、教えること自体が無理だという否定だった。

「あのな、種族という壁はどうしても超えられないんだ」

 ライターは呆れながら言葉にする。しかし、蛇人を気絶させておいて説得力はあまりにもない。

「百歩譲って剣術を教えても、エルフ族じゃモノにはならないだろう」

 エルフ族では剣術を己のモノにすることができないときっぱりといった。しかし、それだと····

「プラエフェクト将軍はどうなのです。彼はエルフ族で魔剣を扱い世界を蹂躙しました」

「いや、そんな歴史上の人物を出されても俺は知らんが、そもそもだ。エルフ族は白き神から何かしらの力を与えてもらっているんだろう?白き神が与えた力の上に剣神様が守護を与えるかという話だ」

 神など崇めていなさそうな厳ついおっさんから神の名が出てきた。それも一度は聞いたことがある剣神レピダの名が出てきたのだ。

「俺たちは魔剣術と言っているが、それが扱えるのは魔神ましんリブロ神と剣神レピダ神の加護を持つものだけだ「え?」あ?もしかしてルークも魔剣術が使いたいと思っていたのか?」

 そう、ライターの言葉に反応したのはルークだった。

「確かにルークには、基礎となる扱い方は教えたが、それを魔剣術になるまでにするには加護は絶対に必要だ」

 そうこれは剣聖ロビンにも言われた言葉だ。剣神レピダの加護を持っていなければ、剣術を神剣術まで極めることはできないと。

「どうすれば、神からの加護を貰えるのですか?」

 ルークはここ最近よく耳にする神からの加護をどうすれば貰えるのかライターに聞いてみた。
 すると、ライターは呆れるように言葉にする。

「俺たちの祖は大魔女エリザベートだが、グローリア国を作ったのはアレクオールディア・ラースだ」

「ラース!」

「そうだ。元々はラース国の大公に成る者だったが、女神ナディアを恨み、カウサ神教国を恨み、元々ラース公国だった今のグローリア国の地を開拓し、新たに国を作った者の名だ。だから、エルフ神聖王国の侵略も退ける事ができた。その時はラース公国の属国としてだったらしいが。だから、我らの国には多くの神々がおられた。居場所を無くした神々がだ。これがどういう意味かわかるか?」

 思いがけないグローリア国の歴史にルークもスーウェンも驚きを隠せない。そして、ライターは自国だったグローリア国の歴史を語っているようで、意味がある話のようだ。
 しかし、この話はシェリーのプラエフェクト将軍の言葉の裏付けとなる事柄ではないのだろうか。信仰を失った神々は自分たちを崇める最北の地の民に信仰という居場所を見出したと。

「神々を祀る神殿が各地にあったのだ。だから、グローリア国は多くの魔導師が存在し特異的な者たちが存在したんだ。だが、今はどうだ?」

 ライターは肩をすくめて疑問を投げかける。多くの神々の拠り所となっていた国はその国に召喚された勇者の手によって壊滅状態にされ、多くの壊された建物の中には神々を祀る神殿もあった。
 再び信仰を失った神々はどうなるのか。ある者は消え去るしかない運命だろう。ある者は細々と崇めてくれる者達に寄り添うことで存在し続けられるだろう。

「どうやって神の加護を得るかって?崇めもしない者になぜ神々が守護を与えるのか俺の方が聞きたいな。もし、それで神の加護がもらえるのであれば、それこそ、神々の気まぐれだろう」

 そう、神々の気まぐれ。
 女神ナディアは己とラースの血族に守護を与えている。
 光の神ルーチェは己を崇めてくれるのであれば、頭を撫でてやろうぞという女神だ。
 死の神モルテと闇の神オスクリダーは可哀想な者たちに慈悲を与え、加護がない場所では生きにくい者たちを創り出した。

 その信仰の得方はそれぞれ思うところはあるだろうが、この神々は己の信仰の場を作り出すことに成功したと言っていいだろう。

 だが、他の神々はどうだろうか。個人的に気に入った者に守護を与えているにすぎない。

 その神々の中で、一番の力を持ち信仰も得ている白き神の与えた加護の上から、どの神が守護を与えようと思うだろうか。よっぽどの事がない限り与える事はないだろう。

 ロビンが言っていた

『悲観することはないよ。僕は『今の君は』と言ったよね。神々は努力をするものに慈悲を与えてくれる。気に入れば加護を与えてくれる。生半可なことでは駄目と言ったのはこういう事だよ』

 と。力のある神の加護の上から更に追加で加護を得ようと思えば、並大抵のことではないだろう。

 では、プラエフェクト将軍はどうだったのかという話になるのだが、彼は聖女の〝つがい″という役目を与えられたが、白き神からの加護を得ているわけではなかった。だから、彼の努力のすえ、魔神ましんリブロ神や剣神レピダ神の加護や他の神々の加護を得ることができた。
 そう、世界は白き神の信仰に統一はされていない時代だった。カウサ神教国は大陸の半分ほどしか支配できていなかった。まだ、彼を含めたエルフ族は白き神の加護ではなく、他の神々の加護を得いていたのだった。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完結】あの子の代わり

野村にれ
恋愛
突然、しばらく会っていなかった従姉妹の婚約者と、 婚約するように言われたベルアンジュ・ソアリ。 ソアリ伯爵家は持病を持つ妹・キャリーヌを中心に回っている。 18歳のベルアンジュに婚約者がいないのも、 キャリーヌにいないからという理由だったが、 今回は両親も断ることが出来なかった。 この婚約でベルアンジュの人生は回り始める。

処理中です...