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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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 グレットは説得に説得を試みて、二人から渋々護衛の了承を得ることができた。護衛と言っても本当の意味では必要ないことは理解してる。ただ、二人の側に軍人が居れば、護衛対象の要人だと人々が理解してくれるだろうという思惑に過ぎなかった。
 現に二人が列車の座席に座り、警邏を担う第6師団の軍服を着た者が側に立っていると、人々は遠巻きに彼らを見るだけで、騒ぎ立てる者はいなかった。

「それで、南地区でいいんっすよね」

「そうだよ。僕の剣の先生に会いに行って、残りの冬期休みの間、もう一度一から教えてもらえるか、お願をしようと思って」

 ルークはニコニコと答えるが、その言葉にグレットは慌てた。

「え?通うっすか?」

「そうだけど?先生のところに泊まるって言ったら、姉さんが泣いてカイルさんに怒られたから、無理かな?あ!グレットさんも一緒に説得してくれるのなら「無理っす」」

 グレットはルークの言葉を遮るように否定する。

「自分にSランクの冒険者と事を構える力量は無いっす。命は惜しいっす!」

 彼は己の保身にすぐさま走った。その言葉にルークはSランクとの力を様々と見せつけられたルークは遠い目をして、笑顔を浮かべていた。

『南教会前ー。南教会前ー。左側の扉が開きます』

 車内にアナウンスが流れると、降りる人たちは降りる準備を始める。ルークもそのアナウンスで席を立った。

「え?もう立つんっすか?」

 普通は列車が止まってから座席を立つのが一般的だが、シェリーの列車が駅に着いた時に降りれば、人の出入りがスムーズになるからという教えでルークもそれに倣っているに過ぎなかった。しかし、ここは時間に追われていた世界ではない。そのため、停車時間は余裕を持って取られている。

「うん。その方がいいって姉さんに言われているから」

 ルークはそう言って一番近い扉に向って行く。その後ろからスーウェンがついていき、グレットは首を傾げながら後を追う。
 これは、シェリーのズレた常識が、ルークの常識となってしまった一つに過ぎなかった。

 そのまま、グレットは二人の後をついて行った。要人を護衛する軍人のようだが、行き先がわからないため、見た目のいい二人の後をつける怪しい人物に見えない事をグレットは祈りつつ、南地区の雑多とした路地を進んでいく。
 本当にこんなところにルークの剣の師という人物がいるのかと、辺りを警戒しながら歩み続ける。長い間第3層の警邏に携わっているが、そんな人物が南地区にいるなんて聞いたことがないと。

 ルークは1軒の建物の前で足を止めた。見た感じはこの辺りによくある集合住宅の一つだ。三階建の建物で入り口は一つだが、配達物の投函ポストが6つあるのがうかがえるため、6世帯が住める建物なのだろう。しかし、そのポストには1世帯分の名しか刻まれていなかった。

『ヴァーリシク』

 聞いたことが無い名に、グレットは首を傾げる。いや、頭の奥では掴みきれない何かが漂っている。

 ルークはその建物のドアノッカーをガンガンガンガンと叩く。少し待つと中から女性の声で『はーい。少し待ってくださいね』という声が聞こえてきた。

 建物の扉にある備え付けの格子窓が開く。

「あら?ルークちゃん。今日はどうしたの?」

 こちらからは中が暗くよくわからないが、女性が対応してくれているようだ。

「先生はいらっしゃいますか?」

「ふふふ、いつもと同じ中庭で剣を振るっているけれど····今日はなぜ軍人さんがいらっしゃるのかしら?」

 女性の硬質した声が聞こえてくる。軍服の人物に警戒感を顕わにしているようだ。

 その言葉にルークは後ろを振り向いて、グレットを見る。護衛という名目ならここに来た時点で、終わっているはずだ。なのに、グレットはまだここにいる。

「自分は騒ぎが起きそうだったので、護衛という名目でいるのですが、ルーク君の剣の先生という人に少しお願いがあるのです。会わせていただくことは可能でしょうか?」

 『っす』が口癖のグレットだが、いざというときには、きちんと話すことができるようだ。

「どういうご用件か聞いてもいいかしら?」

 女性は何かを警戒しているようだ。

「いえ、ただ単にルーク君の剣の修業をカークス邸でお願い出来ないものかと思いまして。もし、彼に何かあればメイルーンが火の海になりかねませんので····」

 グレットはシェリーが暴れるという想定で話しているのだ。間違いはない。間違いはないのだが、そこに否定する言葉が響き渡る。
 建物の扉が勢いよく開け放たれた。

「あんな、変な生き物に殺されかけられる化け物屋敷の敷地など一歩も入りたくない!!絶対に嫌だからな!」

 金髪の白髪混じりのガタイのいい50歳ぐらいの男性が立っていた。その人物の右目は眼帯に覆われ左の青い目をグレットを睨みつけるように向けていたのだった。

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