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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

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「あ、えっと。本当はあと三人くる予定だったんだけど、第6師団長が自ら迎えに来たってことで萎縮してしまって····僕は知らなかったんだけど。英雄なんだって第6師団長。だから、今ここにいるのは僕一人なんだ」

 その言葉にシェリーは立ち上がり、ルークの手を取る。

「ルーちゃん。一緒に帰ろう」

 しかし、ルークは首を横に振る。

「あと、5日あるから帰らないよ。それに第二王子のランフォンス殿下にもお声をかけてもらっているんだ。明日は殿下と第一師団の方に行く予定になっているから、姉さんが心配することはなにも無いよ」

 第二王子ランフォンス・シーラン。シェリーは何処かでその名を聞いたような気がすると首をかしげる。ルークからはお声をかけてもらったと、その名を口にしたが、そうではなく、その前に聞いた気がした。

 シェリーの目の端に白い色がかすめた。白い髪の女性が食堂を利用しようと入って来ていただけだが、その白い髪を見てシェリーは思い出した。
 第2師団長のアンディウムがその名を口にしていたのだ。聖女に仕立てようとしていたアイラが名を口にしていたと。

 恐らく第2王子は何かの役目を世界から与えられたものなのだろう。その人物とルークが接触してきたということは、何かが動いている?
 シェリーは天井のその先を睨みつけるが、答えが返って来るわけではない。考えすぎかもしれない。
 シェリーは進級の祝いにと渡すつもりだった物を鞄から取り出す。必要ないかもしれないが、念の為と再びルークの前に腰を降ろし、一本の小瓶をルークの前に差し出した。

「これは?」

 ルークは小さな小瓶を手に取り、首を傾げた。

「ルーちゃん。これは神水なの。中々手に入らない貴重な水。これは、どんな病も怪我も治せる奇跡の水。持っていて」

「え?」

 思わずルークは小瓶を手放す。

「おねぇちゃんが側にいれば、ルーちゃんがどんな怪我をしても治してあげられるけど、側にいられないから持っていて」

「そ、そんな貴重な水を僕にだなんて、父さんが作った薬を持っているから、これは姉さんが持っていたほうが」

「あ、それは大丈夫よ。ダンジョンマスターと交渉すればいつでも手に入るし、おねぇちゃんは回復魔術が使えるからいらないの」

 そう言って、シェリーはルークの手に小瓶を握らせる。そして、ここに来た目的を口にした。

「それでね。この見学が終わったら旅行に行かない?」

「りょこう?」

 シェリーの口から思ってもみない言葉が出てきて、ルークは困惑をしているようだ。

「そう、旅行。ルーちゃんはどこに行きたい?ルーちゃんが行きたいところに、おねぇちゃんと一緒に遊びに行こう」

 ルークはシェリーが本気で旅行に行こうと言っているとわかり、真剣に考えだした。その姿をシェリーは嬉しそうに眺める。

「じゃ、魔導王国のグローリア国n····」

 ルークはそれ以上言葉を続ける事ができなかった。ルークの前では姉としての態度を崩さないシェリーの顔が能面のように表情が無くなった。

 そのシェリーの姿に流石のルークも慌てて言い直す。

「ギラン共和国がいいな。一度行ったけど、あまりゆっくりとできなかったしね」

「ギラン共和国ね。わかったわ」

 シェリーはルークにニコリと微笑んで立ち上がった。

「ルーちゃん。怪我をしないように気をつけてね」

 そう言って、シェリーはこれ以上ルークの邪魔をしてはいけないと言わんばかりに、さっさと食堂から出ていく。その姿をルークは呆然と眺めていた。ルークの前では決して見せない表情をしたシェリーが気になったのだろう。
 カイルはシェリーの姿を視線で追いながら、ルークに向かって言う。

「ルーク。グローリア国の事を知りたければ、オリバーに聞いた方がいい」

「え?父さんに?」

 ルークは何故だ言わんばかりの表情だ。まさかルークにオリバーは話していないのだろうか。グローリア国は自分の出身国であり、王族の血が流れていると。
 これ以上はカイルは話すべきではないと、ルークに背を向け、シェリーの後を追った。





 二人の背中を呆然と見送るルークに声をかける人物がいた。

「やぁ。見学二日目だけど、どうかな?」

 ルークは声の方に視線を向けると、その人物は先程シェリーが座っていた場所に座っていた。

「今日は私の騎士団の見学だったけど、皆楽しい奴らばかりだろう?」

 そう言っているのは、先程メルスを連れて帰ったレイモンドだった。
 いつの間にか近衛騎士団長が戻って来たことにルークは慌てて立ち上がる。それに対しレイモンドはニヤリと笑い。

「いいよ。いいよ。そのまま座ってくれれば、少し感想を聞かせて欲しいだけなんだ」

 先程のレイモンドと何だか雰囲気が違うが、ルークが緊張しないように、気安く話しかけてくれているのだろうか。

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