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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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「という感じですので、実験半ばというところでしょうか」
シェリーは理科の実験を失敗したように、大したことなどないと言わんばかりに淡々と言った。
それに対してイーリスクロムとルジオーネは頭が痛いと言わんばかりに頭を押さえ、同時にため息を吐く。
「君がそういう考えだというだけで、まだ同じようなことがこの国で起こるとは言い切れないだろう?」
イーリスクロムはそう何度も同じ事が起こるはずはないと言う。こちらも今回のことで警戒を持つのだ。その警戒をかい潜って同じこと起こさないだろうと。
イーリスクロムの言葉にシェリーは呆れたような目でおめでたい考えを持つ狐を見る。
「第9師団が担当した大量殺戮の事件の原因はわかりました?」
シェリーたちがギルドの依頼で受けた屋敷の地下で見つけた。儀式のような惨状の殺害現場のことだ。
シェリーにそのような視線を向けられたイーリスクロムは少しムッとしながら答える。
「まだ、わかっていない。恐らく事件があって10年程は経っているんだ。わかるはずないよね。で?それが今、何の関係があるのかな?」
何が関係あるのか。イーリスクロムからすれば最もな質問だ。
「何が?それもマルス帝国が関わっているからですよ。恐らく、同じことを幾度も繰り返したのでしょうね。5年前にはある程度の道筋を見つけたようですよ」
シェリーの言葉にイーリスクロムは腰を上げて、シェリーに問い詰めようとしたが、カイルに睨まれ、再び同じところに腰を下ろす。
「はぁ。知っているなら、その時にファスシオンに教えてほしいものだよ。彼、あの事件に頭を抱えていたからね」
ファスシオン。第9師団長はかなり困っていたようだ。確かに意味のわからない猟奇的な現場だった。
「それは、その後にいくつか情報をもらって導いた答えですので、あのときにはわかりませんでしたよ。5年前という情報はユーフィアさんからの情報ですので」
シェリーの言葉にイーリスクロムの視線がユーフィアを捉える。しかし、名を出されたユーフィアは首を傾げ、そんな事を言っただろうかという雰囲気だ。
「マルス帝国は我が国で何をしていたのか言ってもらえないか?」
イーリスクロムは王として、言葉を発した。言葉を掛けられたユーフィアは何の事だろうと、オロオロしてシェリーに助けを求める。
「あ、あの···私、何か言いました?マルス帝国の船の偽装の件ですか?あ!頼まれてたい結界を張る魔道具は出来上がりましたよ!」
全く違う答えがユーフィアから出てきた。ユーフィアらしいと言えばユーフィアらしいが、そうではない。
ユーフィアにそのような事を元々期待などしていなかったシェリーが代わりに答える。
「ユーフィアさんが5年前に炎国を訪れた時に、光の巫女と間違われて攫われたことです。帝国は光の巫女を使うことで目的を達成するという答えにいきつきました」
シェリーの言葉にユーフィアは『ああ!』と納得をし、ルジオーネはウンウンと頷いているので、クストから聞いていたのだろう。
そして、イーリスクロムは光の巫女を攫おうとした帝国に驚きを顕にする。
「光の巫女って炎国の要人だよね。その光の巫女を攫うって!ん?でも光の巫女と大量殺戮現場とは関係ないよね」
「関係無いようで、一つの線で繋がっていますよ。面倒なので、説明はしませんが」
「「ここまで話して説明しないってないです!」よね!」
ルジオーネとイーリスクロムから面倒だと言ったことを否定されてしまった。シェリーが言いたかった事は、帝国は目的のためになら手段を選ばず、何度も繰り返して目的を達成するという執念深さを言いたかっただけなので、二人の言葉を無視する。
「ですから、今回も満足できる結果が得られるまで繰り返されると考えられます」
「問題児!説明をしなさい!」
「この国でしなくてもいいのに」
ルジオーネはしつこくシェリーに説明を求めるがシェリーは『過去に終わったことですので』っと言って、あくまでも説明をしないという態度を崩さない。
イーリスクロムの嘆きに近い言葉には
「そんなもの、この国の警備が甘いからに決まっているからではないですか」
と言ってぶった切る。
マルス帝国に隣接している国の中で、脆弱な部分を突かれたのがシーラン王国なのだ。
グローリア国はそもそも国としては成り立っていない。
ラース公国は大公の目と女神ナディアの眼があるため、容易には手出しができない。
モルテ国の国民は人の域を逸脱しているので、話にならない。
シャーレン精霊王国は入国が厳しく、入り込める者が少数になってくるため、実験には不向きだ。
ギラン共和国は表向きの警備という点においてはシーラン王国とさほど変わらないが、おイタが過ぎるとユールクスからの制裁が加えられる。ギラン共和国にとって敵意となるモノに対してはユールクスは容赦はしない。
これらのことから、国を守護する神も、影なる絶対的守護者も、他国民を管理する魔導術も使いこなさないシーラン王国が標的にされてしまったのだ。
シェリーは理科の実験を失敗したように、大したことなどないと言わんばかりに淡々と言った。
それに対してイーリスクロムとルジオーネは頭が痛いと言わんばかりに頭を押さえ、同時にため息を吐く。
「君がそういう考えだというだけで、まだ同じようなことがこの国で起こるとは言い切れないだろう?」
イーリスクロムはそう何度も同じ事が起こるはずはないと言う。こちらも今回のことで警戒を持つのだ。その警戒をかい潜って同じこと起こさないだろうと。
イーリスクロムの言葉にシェリーは呆れたような目でおめでたい考えを持つ狐を見る。
「第9師団が担当した大量殺戮の事件の原因はわかりました?」
シェリーたちがギルドの依頼で受けた屋敷の地下で見つけた。儀式のような惨状の殺害現場のことだ。
シェリーにそのような視線を向けられたイーリスクロムは少しムッとしながら答える。
「まだ、わかっていない。恐らく事件があって10年程は経っているんだ。わかるはずないよね。で?それが今、何の関係があるのかな?」
何が関係あるのか。イーリスクロムからすれば最もな質問だ。
「何が?それもマルス帝国が関わっているからですよ。恐らく、同じことを幾度も繰り返したのでしょうね。5年前にはある程度の道筋を見つけたようですよ」
シェリーの言葉にイーリスクロムは腰を上げて、シェリーに問い詰めようとしたが、カイルに睨まれ、再び同じところに腰を下ろす。
「はぁ。知っているなら、その時にファスシオンに教えてほしいものだよ。彼、あの事件に頭を抱えていたからね」
ファスシオン。第9師団長はかなり困っていたようだ。確かに意味のわからない猟奇的な現場だった。
「それは、その後にいくつか情報をもらって導いた答えですので、あのときにはわかりませんでしたよ。5年前という情報はユーフィアさんからの情報ですので」
シェリーの言葉にイーリスクロムの視線がユーフィアを捉える。しかし、名を出されたユーフィアは首を傾げ、そんな事を言っただろうかという雰囲気だ。
「マルス帝国は我が国で何をしていたのか言ってもらえないか?」
イーリスクロムは王として、言葉を発した。言葉を掛けられたユーフィアは何の事だろうと、オロオロしてシェリーに助けを求める。
「あ、あの···私、何か言いました?マルス帝国の船の偽装の件ですか?あ!頼まれてたい結界を張る魔道具は出来上がりましたよ!」
全く違う答えがユーフィアから出てきた。ユーフィアらしいと言えばユーフィアらしいが、そうではない。
ユーフィアにそのような事を元々期待などしていなかったシェリーが代わりに答える。
「ユーフィアさんが5年前に炎国を訪れた時に、光の巫女と間違われて攫われたことです。帝国は光の巫女を使うことで目的を達成するという答えにいきつきました」
シェリーの言葉にユーフィアは『ああ!』と納得をし、ルジオーネはウンウンと頷いているので、クストから聞いていたのだろう。
そして、イーリスクロムは光の巫女を攫おうとした帝国に驚きを顕にする。
「光の巫女って炎国の要人だよね。その光の巫女を攫うって!ん?でも光の巫女と大量殺戮現場とは関係ないよね」
「関係無いようで、一つの線で繋がっていますよ。面倒なので、説明はしませんが」
「「ここまで話して説明しないってないです!」よね!」
ルジオーネとイーリスクロムから面倒だと言ったことを否定されてしまった。シェリーが言いたかった事は、帝国は目的のためになら手段を選ばず、何度も繰り返して目的を達成するという執念深さを言いたかっただけなので、二人の言葉を無視する。
「ですから、今回も満足できる結果が得られるまで繰り返されると考えられます」
「問題児!説明をしなさい!」
「この国でしなくてもいいのに」
ルジオーネはしつこくシェリーに説明を求めるがシェリーは『過去に終わったことですので』っと言って、あくまでも説明をしないという態度を崩さない。
イーリスクロムの嘆きに近い言葉には
「そんなもの、この国の警備が甘いからに決まっているからではないですか」
と言ってぶった切る。
マルス帝国に隣接している国の中で、脆弱な部分を突かれたのがシーラン王国なのだ。
グローリア国はそもそも国としては成り立っていない。
ラース公国は大公の目と女神ナディアの眼があるため、容易には手出しができない。
モルテ国の国民は人の域を逸脱しているので、話にならない。
シャーレン精霊王国は入国が厳しく、入り込める者が少数になってくるため、実験には不向きだ。
ギラン共和国は表向きの警備という点においてはシーラン王国とさほど変わらないが、おイタが過ぎるとユールクスからの制裁が加えられる。ギラン共和国にとって敵意となるモノに対してはユールクスは容赦はしない。
これらのことから、国を守護する神も、影なる絶対的守護者も、他国民を管理する魔導術も使いこなさないシーラン王国が標的にされてしまったのだ。
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