上 下
390 / 775
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

379

しおりを挟む
「という感じですので、実験半ばというところでしょうか」

 シェリーは理科の実験を失敗したように、大したことなどないと言わんばかりに淡々と言った。

 それに対してイーリスクロムとルジオーネは頭が痛いと言わんばかりに頭を押さえ、同時にため息を吐く。

「君がそういう考えだというだけで、まだ同じようなことがこの国で起こるとは言い切れないだろう?」

 イーリスクロムはそう何度も同じ事が起こるはずはないと言う。こちらも今回のことで警戒を持つのだ。その警戒をかい潜って同じこと起こさないだろうと。

 イーリスクロムの言葉にシェリーは呆れたような目でおめでたい考えを持つ狐を見る。

「第9師団が担当した大量殺戮の事件の原因はわかりました?」

 シェリーたちがギルドの依頼で受けた屋敷の地下で見つけた。儀式のような惨状の殺害現場のことだ。
 シェリーにそのような視線を向けられたイーリスクロムは少しムッとしながら答える。

「まだ、わかっていない。恐らく事件があって10年程は経っているんだ。わかるはずないよね。で?それが今、何の関係があるのかな?」

 何が関係あるのか。イーリスクロムからすれば最もな質問だ。

「何が?それもマルス帝国が関わっているからですよ。恐らく、同じことを幾度も繰り返したのでしょうね。5年前にはある程度の道筋を見つけたようですよ」

 シェリーの言葉にイーリスクロムは腰を上げて、シェリーに問い詰めようとしたが、カイルに睨まれ、再び同じところに腰を下ろす。

「はぁ。知っているなら、その時にファスシオンに教えてほしいものだよ。彼、あの事件に頭を抱えていたからね」

 ファスシオン。第9師団長はかなり困っていたようだ。確かに意味のわからない猟奇的な現場だった。

「それは、その後にいくつか情報をもらって導いた答えですので、あのときにはわかりませんでしたよ。5年前という情報はユーフィアさんからの情報ですので」

 シェリーの言葉にイーリスクロムの視線がユーフィアを捉える。しかし、名を出されたユーフィアは首を傾げ、そんな事を言っただろうかという雰囲気だ。

「マルス帝国は我が国で何をしていたのか言ってもらえないか?」

 イーリスクロムは王として、言葉を発した。言葉を掛けられたユーフィアは何の事だろうと、オロオロしてシェリーに助けを求める。

「あ、あの···私、何か言いました?マルス帝国の船の偽装の件ですか?あ!頼まれてたい結界を張る魔道具は出来上がりましたよ!」

 全く違う答えがユーフィアから出てきた。ユーフィアらしいと言えばユーフィアらしいが、そうではない。
 ユーフィアにそのような事を元々期待などしていなかったシェリーが代わりに答える。

「ユーフィアさんが5年前に炎国を訪れた時に、光の巫女と間違われて攫われたことです。帝国は光の巫女を使うことで目的を達成するという答えにいきつきました」

 シェリーの言葉にユーフィアは『ああ!』と納得をし、ルジオーネはウンウンと頷いているので、クストから聞いていたのだろう。
 そして、イーリスクロムは光の巫女を攫おうとした帝国に驚きを顕にする。

「光の巫女って炎国の要人だよね。その光の巫女を攫うって!ん?でも光の巫女と大量殺戮現場とは関係ないよね」

「関係無いようで、一つの線で繋がっていますよ。面倒なので、説明はしませんが」

「「ここまで話して説明しないってないです!」よね!」

 ルジオーネとイーリスクロムから面倒だと言ったことを否定されてしまった。シェリーが言いたかった事は、帝国は目的のためになら手段を選ばず、何度も繰り返して目的を達成するという執念深さを言いたかっただけなので、二人の言葉を無視する。

「ですから、今回も満足できる結果が得られるまで繰り返されると考えられます」

「問題児!説明をしなさい!」
「この国でしなくてもいいのに」

 ルジオーネはしつこくシェリーに説明を求めるがシェリーは『過去に終わったことですので』っと言って、あくまでも説明をしないという態度を崩さない。

 イーリスクロムの嘆きに近い言葉には

「そんなもの、この国の警備が甘いからに決まっているからではないですか」

 と言ってぶった切る。

 マルス帝国に隣接している国の中で、脆弱な部分を突かれたのがシーラン王国なのだ。

 グローリア国はそもそも国としては成り立っていない。
 ラース公国は大公の目と女神ナディアの眼があるため、容易には手出しができない。
 モルテ国の国民は人の域を逸脱しているので、話にならない。
 シャーレン精霊王国は入国が厳しく、入り込める者が少数になってくるため、実験には不向きだ。
 ギラン共和国は表向きの警備という点においてはシーラン王国とさほど変わらないが、おイタが過ぎるとユールクスからの制裁が加えられる。ギラン共和国にとって敵意となるモノに対してはユールクスは容赦はしない。

 これらのことから、国を守護する神も、影なる絶対的守護者も、他国民を管理する魔導術も使いこなさないシーラン王国が標的にされてしまったのだ。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...