上 下
388 / 775
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

377

しおりを挟む
「うっ!」

 シェリーの言葉にうめき声を上げたのは、魔道具を作っているユーフィア自身だった。

「魔術の基礎がなってなくて、ごめんなさい」

 突然のユーフィアの謎の言葉に困惑しながら、クストとマリア、そしてセーラがユーフィアを励ます。

「ユーフィア。魔術はすごいぞ」
「奥様。奥様の作り出す物は素晴らしいものばかりです」
「奥様!落ち込むことないです!」

 しかし、シェリーがその三人の言葉をぶった切る。

「ユーフィアさんの魔術の基礎がなってないのはわかりきっているので、謝らなくていいです」

 ユーフィアもシェリーと同じくここではない世界の基準が幼少の時からあるからこそ、ユーフィアでしか作れない物を作れているのだ。そして、ユーフィアはユーフィア自身で勉強し、今に至るのだ。彼女は無知ではなく、独自の基準を用いているだけ。
 だから、この世界の魔術の基礎という意味ではなっていなのだろう。

「おい!これ以上ユーフィアを貶めるというなら、相手になるぞ!」

 クストのイライラ度が増しているのか、この部屋の圧迫感が更に増した。エルフの女性はというと、ガタガタ震えながら『もうやめて』と言葉を繰り返している。

「貶めていないですよ。ユーフィアさんは物を創り出すという点に置いては、神より祝福を得ていますので、何も問題にはなりません。師団長さん、少し落ち着いてもらえません?話ができないではないですか」

「嬢ちゃんがそうさせているんだろうが!」

 本当にクストがいるとまともに話ができないと、シェリーは再びため息を吐く。これは押さえつける人物が必要とシェリーは手を空いている方向に突き出す。

「『亡者招来死者の召喚』」

 そこに顕れたのは、仏頂面で不機嫌な感じを隠そうとしていない黒狼クロードの姿があった。

「あ゛?今度は何だ?」

 火に油を注ぐが如く、部屋に満ちている圧迫感が増していった。これにはエルフ族の女性も耐えきれず、ソファにもたれかかって気を失ってしまった。

「クロードさん。カントリーマ○ムのチョコ味で、そこの目つきの悪い師団長さんの相手をしてもらえません?」

「カントリーマ○ム!!」

 シェリーの言葉に反応したのは交渉しているクロードではなく、ユーフィアだった。シェリーはユーフィアの言葉を無視して更に続ける。

「そこの師団長さん。獣人の域を逸脱しましたよ」

「ほう」
「なんで、テメーがその事を知っている!」

 シェリーの言葉を聞いたクロードは興味津々な目をクストに向ける。そして、クストの首根っこを掴んで、叫んでいるクストを連れて部屋を出ていった。

 機嫌の悪い二人が出ていったことで、部屋の空気は普通に戻っていく。シェリーは鬱陶しいクストが居なくなったことで、これで話を進める事ができると思っていると

「シェリーさん、カントリー○アムがあるのですか!」
「問題児!なぜその事を知っているのですか!」
「あれ、どう見ても『雷牙の黒狼』だよね!どういうことかな!」

 ユーフィアが、ルジオーネが、イーリスクロムがシェリーに詰め寄って来た。

 話が進まない。

 シェリーは舌打ちをしながら、鞄から小さな袋を取り出し、ユーフィアに投げ渡す。この世界にはないプラスチック製の袋だ。
 ユーフィアは驚きの目で袋とシェリーを交互に見ている。

 次にシェリーはルジオーネに視線を向ける。

「ダンジョンマスターと知り合いなので」

 その一言で終わらした。イーリスクロムクロムには

「本人ではなく、ただの幻影です。気にしないでください。話の続きですが「「ちょっと待って!」ちなさい!」····ちっ!」

 そう言って、話の続きを話そうとすると、納得できない二人から止められてしまった。ユーフィアはというと口をモゴモゴさせている。

「ダンジョンマスターと知り合いってどういうことですか!」
「幻影っていうよりも実体があったよね」

「それは後でいいですか?師団長さんが居ない間にさっさと話を進めたいのですが?」

 番のユーフィアの事になると、如何せん話が進まなくなってしまうので、黒狼クロードに相手をしてもらっている間に済ませてしまおうと、シェリーは二人からの質問を後回しにする。そして、出来ればそのまま有耶無耶にしてしまおうという魂胆だ。

「話を戻しますが、召喚者がユーフィアさんの残した書物だけを読んで独学で創り上げたモノがコレになります。ユーフィアさん説明をお願いします」

 シェリーはユーフィアに灰色の液体の説明を求めた。恐らくシェリーとは違う観点でこの【隷属の触媒】が視えているはずだ。

「えっと、これはなんと言いましょうか」

 ユーフィアが歯切れ悪く言い始める。

「この制御石というか、今は液体なのですが、人の脳に直接入り込んで、人の意思をこの制御石が奪って、体を制御しまうのです。ですから、ただ単に命令を聞く人が出来上がってしまうのです。恐らくどんな理不尽な命令も実行してしまうでしょう」

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...