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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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破壊された壁から入ってきたのは、青狼獣人のクストだった。シェリーの睨みつけながら、ジャリジャリと残骸を踏みつけ、中に入って来た。
「で?何が許さないって?」
再度、同じことをシェリーに尋ねるが
「旦那様。出入り口はこちらではありません。出直してくださいませ」
怒りを顕にしているクストに向かって、マリアは淡々と出直してこいといった。
「ああ゛?!そこの扉からじゃ入れないじゃないか!」
どうやら、ここに案内されたのは意味があったようだ。ユーフィアが仕事をしている作業部屋に通じる扉は、この家の主であるクストが入れないようになっているようだ。
恐らく、作業をしているユーフィアの邪魔をして、入れないようにされてしまったのだろう。
「入れないからと言って、屋敷を破壊するのは如何なものかと思います。ユーフィア様はこのマリアが付いていますので、仕事にお戻りくださいませ」
「そこの問題児が突然屋敷に現れたと聞けば、戻ってきて当然だ!」
クストはシェリーを指で差した。どうやら、この屋敷の者から第6師団の方に連絡が行ったようだ。
「この駄犬!!仕事に戻れと言っているのが、わからないのですか!毎度毎度、何かと戻って来やがって、どれだけ周りに迷惑をかければ気が済むので、いやがるのでしょうか!」
マリアは気が立っているのか、威嚇をしながらクストに言った。毎度毎度という事は、仕事をさぼる事が常習になっているようだ。
「そうですよ。団長、いきなり駆け出さないでください」
クストの後ろから、同じく青狼獣人であるルジオーネが、ため息を吐きながら現れた。クストが仕事を放り出して駆け出して行ったので、副師団長であるルジオーネが追いかけてきたのだろう。
そのルジオーネが現れた瞬間、シェリーがカイルの手を押しのけ、ルジオーネに向かって飛び出していき、右手を握りしめて振り切った。
「このクソ狐が!胸糞悪い仕事を押し付けやがって!」
シェリーが拳と共に心の内を吐き出すように言葉汚くルジオーネを罵った。それもクソ狐と言って。
ルジオーネが居た場所には金髪の九尾の人物が倒れていた。九尾。その人物はこの国には一人しかいない。
シーラン王国の王であるイーリスクロムだった。
「陛下!」
「シェリーさん!兄に逃げられてしまいました!」
クストの声とイーリスクロムと連絡を取るために出ていっていたセーラの言葉が重なった。
ユーフィアの作業部屋の壁が破壊されてしまったので、別の部屋に通されたシェリーの前には、イライラとした雰囲気を隠す気もなく、ユーフィアを抱き寄せたクストがソファに座っている。
その雰囲気に怯えたように身を縮こませたエルフ族の女性が、一人がけのソファにそれも端に身を寄せている。少しでもクストから遠ざかりたいのだろう。
エルフ族の女性の向かい側にはニコニコと笑っているイーリスクロムが座っている。シェリーに殴られても大して問題がないようだ。
「で、問題児は何をしに、このナヴァル家に来たのですかね」
クストの後ろに控えるように立っているルジオーネからの質問だ。勿論このルジオーネは本物だ。セーラの後ろから、師団長であるクストを追いかけて来たところ。壁が破壊された部屋に国王が倒れているという惨状に出くわしたのだった。
そのルジオーネの質問にシェリーは、エルフ族の女性に指を差して言った。
「そこにいる女性を預かってもらおうと思いまして」
すると、一斉に部屋にいる全ての視線が一人の女性に集中した。
「エルフ族ですか」
ルジオーネが嫌そうな顔をしながら言った。エルフ族に持つ印象は良くないようだ。
「あ?なんで、預からないといけないんだ?エルフ族なんて、さっさとシャーレン精霊王国に帰ればいい」
クストも嫌そうな顔をしながら言っていることから、きっとユーフィアに関わることなのだろう。
シェリーはそんな二人を前にして堂々と言い切った。
「なぜって、それはマルス帝国をぶっ潰すためです」
しかし、何処をどうしたら帝国をぶっ潰すことに行きつくのか、さっぱりわからない二人は、怪訝な表情をシェリーに向ける。
そんな表情を向けられたシェリーは、今度はイーリスクロムに視線を向ける。
「それにしても今回はあまりにも酷いのではないのでしょうか?」
「なんの事かな?」
イーリスクロムはニヤニヤと笑いながら答える。わかっているが敢えて聞いている風だ。
「国の尻ぬぐいさせられた事です」
「あー。あれはブライが、君が適任だって言うからさぁ。今度は僕じゃなくってブライを殴ってくれるかな?」
ブライ。暗部の第4師団長からの情報を受けて、シェリーに依頼を持っていったようだ。
今度はブライの方に矛先を向けて欲しいと言われたシェリーはイーリスクロムに言い切った。
「第4師団長さんからの情報だろうが、結局それに対して、指示を出したのは陛下ではないのですか?上司は責任を取るためにいるのなら、殴られるのは陛下ですよね」
「「「違う!!」」」
「で?何が許さないって?」
再度、同じことをシェリーに尋ねるが
「旦那様。出入り口はこちらではありません。出直してくださいませ」
怒りを顕にしているクストに向かって、マリアは淡々と出直してこいといった。
「ああ゛?!そこの扉からじゃ入れないじゃないか!」
どうやら、ここに案内されたのは意味があったようだ。ユーフィアが仕事をしている作業部屋に通じる扉は、この家の主であるクストが入れないようになっているようだ。
恐らく、作業をしているユーフィアの邪魔をして、入れないようにされてしまったのだろう。
「入れないからと言って、屋敷を破壊するのは如何なものかと思います。ユーフィア様はこのマリアが付いていますので、仕事にお戻りくださいませ」
「そこの問題児が突然屋敷に現れたと聞けば、戻ってきて当然だ!」
クストはシェリーを指で差した。どうやら、この屋敷の者から第6師団の方に連絡が行ったようだ。
「この駄犬!!仕事に戻れと言っているのが、わからないのですか!毎度毎度、何かと戻って来やがって、どれだけ周りに迷惑をかければ気が済むので、いやがるのでしょうか!」
マリアは気が立っているのか、威嚇をしながらクストに言った。毎度毎度という事は、仕事をさぼる事が常習になっているようだ。
「そうですよ。団長、いきなり駆け出さないでください」
クストの後ろから、同じく青狼獣人であるルジオーネが、ため息を吐きながら現れた。クストが仕事を放り出して駆け出して行ったので、副師団長であるルジオーネが追いかけてきたのだろう。
そのルジオーネが現れた瞬間、シェリーがカイルの手を押しのけ、ルジオーネに向かって飛び出していき、右手を握りしめて振り切った。
「このクソ狐が!胸糞悪い仕事を押し付けやがって!」
シェリーが拳と共に心の内を吐き出すように言葉汚くルジオーネを罵った。それもクソ狐と言って。
ルジオーネが居た場所には金髪の九尾の人物が倒れていた。九尾。その人物はこの国には一人しかいない。
シーラン王国の王であるイーリスクロムだった。
「陛下!」
「シェリーさん!兄に逃げられてしまいました!」
クストの声とイーリスクロムと連絡を取るために出ていっていたセーラの言葉が重なった。
ユーフィアの作業部屋の壁が破壊されてしまったので、別の部屋に通されたシェリーの前には、イライラとした雰囲気を隠す気もなく、ユーフィアを抱き寄せたクストがソファに座っている。
その雰囲気に怯えたように身を縮こませたエルフ族の女性が、一人がけのソファにそれも端に身を寄せている。少しでもクストから遠ざかりたいのだろう。
エルフ族の女性の向かい側にはニコニコと笑っているイーリスクロムが座っている。シェリーに殴られても大して問題がないようだ。
「で、問題児は何をしに、このナヴァル家に来たのですかね」
クストの後ろに控えるように立っているルジオーネからの質問だ。勿論このルジオーネは本物だ。セーラの後ろから、師団長であるクストを追いかけて来たところ。壁が破壊された部屋に国王が倒れているという惨状に出くわしたのだった。
そのルジオーネの質問にシェリーは、エルフ族の女性に指を差して言った。
「そこにいる女性を預かってもらおうと思いまして」
すると、一斉に部屋にいる全ての視線が一人の女性に集中した。
「エルフ族ですか」
ルジオーネが嫌そうな顔をしながら言った。エルフ族に持つ印象は良くないようだ。
「あ?なんで、預からないといけないんだ?エルフ族なんて、さっさとシャーレン精霊王国に帰ればいい」
クストも嫌そうな顔をしながら言っていることから、きっとユーフィアに関わることなのだろう。
シェリーはそんな二人を前にして堂々と言い切った。
「なぜって、それはマルス帝国をぶっ潰すためです」
しかし、何処をどうしたら帝国をぶっ潰すことに行きつくのか、さっぱりわからない二人は、怪訝な表情をシェリーに向ける。
そんな表情を向けられたシェリーは、今度はイーリスクロムに視線を向ける。
「それにしても今回はあまりにも酷いのではないのでしょうか?」
「なんの事かな?」
イーリスクロムはニヤニヤと笑いながら答える。わかっているが敢えて聞いている風だ。
「国の尻ぬぐいさせられた事です」
「あー。あれはブライが、君が適任だって言うからさぁ。今度は僕じゃなくってブライを殴ってくれるかな?」
ブライ。暗部の第4師団長からの情報を受けて、シェリーに依頼を持っていったようだ。
今度はブライの方に矛先を向けて欲しいと言われたシェリーはイーリスクロムに言い切った。
「第4師団長さんからの情報だろうが、結局それに対して、指示を出したのは陛下ではないのですか?上司は責任を取るためにいるのなら、殴られるのは陛下ですよね」
「「「違う!!」」」
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