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22章 獣人たちの騒がしい大祭
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シェリーはカイルの背を見ながら、本当に短時間でここまで来たことに内心驚いていた。
シェリーが道案内をしているとは言え、殆ど走りながら、大剣一本でこの裏ダンジョンの魔物を屠っていた。魔術を使わず、大剣だけでだ。
シェリーが同じ事が出来るかといえば、無理だと答える。流石に、いくらスキルがあるとは言え体力的に限界を迎えるのが先だ。
魔眼を使って全力で走り切るからこそ、1日で50階層を攻略できたというもの。
そして、4刻程で32階層まで来たのだ。少し息が上がっているが、まだまだ余裕が感じられる。流石、竜人。侮れない。
「カイルさん。もう少し先に分岐点がありますのでそこを斜め右上に、その先の行き止まりが目的地です」
「わかった」
斜め右上……そう、裏ダンジョンを複雑にしている要因の一つだ。蟻の巣のように縦横無尽に広がる洞窟。
ただ、下に向かえばいいと言うわけではなく。階層の概念を覆すかのように、広がるダンジョン。32階層とは言ってはいるが、33階層からしか行けない32階層なのだ。
そんな複雑怪奇な裏ダンジョンでなぜアルテリカの火という物があるのを発見できたかというと、それは勿論、ここのダンジョンマスターを神の一歩手前までに至らしめる事を画策した黒髪のエルフ、アリスの導きがあってのことだ。
アリスが未来へ残した同族であるエルフに対する対抗策だった。そのアルテリカの火はこのギラン共和国で英雄と呼ばれた者たちが対エルフ戦で大いに用いられた物だったのだ。
シェリーとカイルは一面が真っ赤に染まった岩壁の前に立っている。行き止まりになっている壁の一面が赤い鉱石でできていた。
そうアルテリカの火と呼ばれるものだ。採掘するならツルハシでもあればいいのだろうが、急遽依頼されたことであり、時間も限られていた事から、用意はしていない。だから、シェリーは風の刃を放って削り取る。
「うーん。効率的じゃない」
思ったより鉱石が硬かった。爪ほどの鉱石の破片が5つほど落ちたぐらいだった。
そのシェリーの横でカイルが大剣を一振りし、斬撃を飛ばすと岩壁に大きなキズが一直線に付いた。それを数度繰り返して、抱えられる程の大きさの鉱石が10個ほどが目の前に転がっていた。
流石にここまで大剣一本でたどり着いただけはある。
「まだ、いる?」
カイルがシェリーに尋ねる。必要分は足りそうかと聞いているのだろうが、使用時はこの鉱石を粉にして、円状にして使わないと効力を発揮しない代物だ。だから、足りるかと問われればどうだろう。
シェリーは首を横に傾ける。
「どうでしょう?帝都を囲むならまだいるのでしょうか?」
『十分だ』
洞窟のような空間に低い声が響き渡った。シェリーは後ろを振り返ると、そこには緑の髪の裾の長い衣服を纏った男性が立っていた。ここのダンジョンマスターであるユールクスだ。
『全部取ると次からダンジョンに入れないからな』
どうやら、根こそぎ取って行かないように釘を刺しに来たようだ。
「流石に全部は取っていきませんよ」
シェリーは呆れるように言う。
「それで、そんな事を言いにわざわざ出てきたのですか?」
『いや、伝言を聞かなかったのかと思ったのだ。ここではなく西のダンジョンに行けばよかったのではないのか?』
フィーディスの者が言っていたことかとシェリーは思ったが、ここに来たのは互いの譲歩をすり合わせた結果の行動なのだが、やはり長命だと時間間隔が違うらしい。
西の港町エルトは転移の登録をしていないので、自力でたどり着かなければならない。その場合、騎獣でも半日はかかってしまうので、フェクトス総統の思惑を考慮すると時間という問題が出てくるのだ。
いや、それぐらいユールクスなら分かっていそうなものなのだが、急いでそこに行かなければならないことでもあるのだろうか。
シェリーは真意を探るようにユールクスを見る。しかし、シェリー如きが、神に至ろうとしているユールクスの真意など分かるはずもない。
「はぁ。急ぐ必要があるのですか?」
シェリーは素直に聞いてみることにした。
『さて、我には黒のエルフが何を記しているかは知らぬが、事は徐々に動き出している。ラースがこの国を去って2日後に20年ぶりに闇を纏いしモノが顕れた。お前達が悪魔と呼んでいる存在だ』
シェリーが考えてもいなかった事をユールクスから聞かされてしまった。この国に悪魔が出現したと。
「ギラン共和国に悪魔が?流石それは……」
シェリーは言葉を止めて考え込んでしまう。流石にそれはおかしいと。
シェリーが道案内をしているとは言え、殆ど走りながら、大剣一本でこの裏ダンジョンの魔物を屠っていた。魔術を使わず、大剣だけでだ。
シェリーが同じ事が出来るかといえば、無理だと答える。流石に、いくらスキルがあるとは言え体力的に限界を迎えるのが先だ。
魔眼を使って全力で走り切るからこそ、1日で50階層を攻略できたというもの。
そして、4刻程で32階層まで来たのだ。少し息が上がっているが、まだまだ余裕が感じられる。流石、竜人。侮れない。
「カイルさん。もう少し先に分岐点がありますのでそこを斜め右上に、その先の行き止まりが目的地です」
「わかった」
斜め右上……そう、裏ダンジョンを複雑にしている要因の一つだ。蟻の巣のように縦横無尽に広がる洞窟。
ただ、下に向かえばいいと言うわけではなく。階層の概念を覆すかのように、広がるダンジョン。32階層とは言ってはいるが、33階層からしか行けない32階層なのだ。
そんな複雑怪奇な裏ダンジョンでなぜアルテリカの火という物があるのを発見できたかというと、それは勿論、ここのダンジョンマスターを神の一歩手前までに至らしめる事を画策した黒髪のエルフ、アリスの導きがあってのことだ。
アリスが未来へ残した同族であるエルフに対する対抗策だった。そのアルテリカの火はこのギラン共和国で英雄と呼ばれた者たちが対エルフ戦で大いに用いられた物だったのだ。
シェリーとカイルは一面が真っ赤に染まった岩壁の前に立っている。行き止まりになっている壁の一面が赤い鉱石でできていた。
そうアルテリカの火と呼ばれるものだ。採掘するならツルハシでもあればいいのだろうが、急遽依頼されたことであり、時間も限られていた事から、用意はしていない。だから、シェリーは風の刃を放って削り取る。
「うーん。効率的じゃない」
思ったより鉱石が硬かった。爪ほどの鉱石の破片が5つほど落ちたぐらいだった。
そのシェリーの横でカイルが大剣を一振りし、斬撃を飛ばすと岩壁に大きなキズが一直線に付いた。それを数度繰り返して、抱えられる程の大きさの鉱石が10個ほどが目の前に転がっていた。
流石にここまで大剣一本でたどり着いただけはある。
「まだ、いる?」
カイルがシェリーに尋ねる。必要分は足りそうかと聞いているのだろうが、使用時はこの鉱石を粉にして、円状にして使わないと効力を発揮しない代物だ。だから、足りるかと問われればどうだろう。
シェリーは首を横に傾ける。
「どうでしょう?帝都を囲むならまだいるのでしょうか?」
『十分だ』
洞窟のような空間に低い声が響き渡った。シェリーは後ろを振り返ると、そこには緑の髪の裾の長い衣服を纏った男性が立っていた。ここのダンジョンマスターであるユールクスだ。
『全部取ると次からダンジョンに入れないからな』
どうやら、根こそぎ取って行かないように釘を刺しに来たようだ。
「流石に全部は取っていきませんよ」
シェリーは呆れるように言う。
「それで、そんな事を言いにわざわざ出てきたのですか?」
『いや、伝言を聞かなかったのかと思ったのだ。ここではなく西のダンジョンに行けばよかったのではないのか?』
フィーディスの者が言っていたことかとシェリーは思ったが、ここに来たのは互いの譲歩をすり合わせた結果の行動なのだが、やはり長命だと時間間隔が違うらしい。
西の港町エルトは転移の登録をしていないので、自力でたどり着かなければならない。その場合、騎獣でも半日はかかってしまうので、フェクトス総統の思惑を考慮すると時間という問題が出てくるのだ。
いや、それぐらいユールクスなら分かっていそうなものなのだが、急いでそこに行かなければならないことでもあるのだろうか。
シェリーは真意を探るようにユールクスを見る。しかし、シェリー如きが、神に至ろうとしているユールクスの真意など分かるはずもない。
「はぁ。急ぐ必要があるのですか?」
シェリーは素直に聞いてみることにした。
『さて、我には黒のエルフが何を記しているかは知らぬが、事は徐々に動き出している。ラースがこの国を去って2日後に20年ぶりに闇を纏いしモノが顕れた。お前達が悪魔と呼んでいる存在だ』
シェリーが考えてもいなかった事をユールクスから聞かされてしまった。この国に悪魔が出現したと。
「ギラン共和国に悪魔が?流石それは……」
シェリーは言葉を止めて考え込んでしまう。流石にそれはおかしいと。
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