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22章 獣人たちの騒がしい大祭

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「俺は無理かな」

 グレイが残念そうに耳をへにょんと折りながら言っている。
 ここは、冒険者ギルドの二階だ。そこの受付けでカイルが黒いカードを受付けの女性に手渡している。今現状でSランクはカイルのみなので、カイルが依頼を受ける形になるのだ。

 その隣の休憩所のテーブル席にシェリーはリオンの膝の上に座らされ、依頼が受領されるのを待っている。

 今話をしていることは裏ダンジョンに行くかどうかということだ。グレイは未だレベルが100に達していないので、付いていくのは難しいと判断したようだ。
 リオンは裏ダンジョンに行く気であるようだが、スーウェンは難しい顔をして考えており、オルクスは出されだお菓子を黙々と食べていた。

 シェリーは彼らがどの様な行動を取ろうが、別に構わない。アルテリカの火を手に入れることが今回の目的だからだ。フェクトス総統から思ってもみない物の名が出てきたことで、結界と言うものを気にせずに済みそうだと思っていた。

 そこにカイルがギルドマスターを連れてこちらにやって来た。

「フェクトスがまさか苦肉の策として黒いカードを用いるとは」

 ニヤニヤと笑うギルドマスターの背後に垣間見える白く斑模様の尻尾がゆらゆらと揺れていた。楽しいのだろうか。

「アルテリカの火か。オルクス、その魔力はどうした?以前来たときはそこまでの魔力はなかったよな」

 黙々とお菓子を食べているオルクスをギルドマスターは覗き込む。
 オルクスは視線を上げ、首を傾げる。

「いつの間にか?」

「はぁ。オルクス。魔力はそんなに急激に増えないぞ」

 確かに魔力が急激に増える事は皆無と言っていい。しかし、外因的要素が加わることでありえない事が起こってしまうのだ。

「まあいい。付いて来い地下の扉を開けよう」

 そう言ってギルドマスターは背を向け歩き出した。



「それで、どうするか決まったのか?」

 カイルがこの後どうするか聞いてきたのだ。

「俺は無理そうだから、表ダンジョンの続きの31階層から行こうと思う」

 そうグレイが答えた。確かに、以前は30階層までだった。攻略をするのであれば、31階層から50階層まで潜るのが妥当だろう。

「あ、それいい」

 お菓子を食べていたので話を聞いていたのかわからなかったオルクスだが、どうするか迷っていたようだ。
 オルクスは立ち上がって、ギルドマスターの後を追って行くその姿を見たスーウェンも立ち上がり

「一度はきちんと攻略することも必要でしょうね。ここ最近、私が未熟なのは痛感していますから」

 そう言って、オルクスに続いて地下へと続く扉に向かっていった。クロードに1対4で手足も出なかったことを言っているのだろうか。

 シェリーの上からため息が降ってきた。

「はぁ。それを言われてしまったら、50階層まで行くべきなのだろうな」

 先程まで裏ダンジョンに行くと言っていたリオンが何かを諦めたようなため息と共に立ち上がった。シェリーを抱えて。

「リオンさん、下ろしてください。自分で歩きます」

 シェリーがリオンに向かって下ろすように言うが、無視されそのまま地下へと続く扉を潜っていく。


「スーウェンが未熟だっていうなら俺はなんだ?」

 落ち込んだようなグレイの声が後ろから聞こえてきた。しかし、グレイのレベルは85だ。普通でもここまでレベルを上げるのは難しい。ただ、上には上がいるということを見せつけられてしまっただけだ。
 シェリーは何も言わないし、言うべきではない。
 それに女神ナディアの言葉がある。何も焦ることは無いのにとシェリーは内心思ってはいるが、口に出すことはない。グレイ自身がどう在るべきか考えなければならないことだからだ。

 階段を降りる靴の音だけが響いている。
前方でガシャンと音がすることから、ギルドマスターがダンジョンへ続く扉の鍵を開けたのだろう。

「気をつけて行って来い」

 扉の鍵を開けたギルドマスターはやる事が終わったとばかりに、そう言葉を残して降りてきた階段を上って行った。

 扉を開けた先に広がる近代的な光景。狭い空をシェリーは見上げる。ああ、相変わらず心を引っ掻きまわす景色だ。ギリッと奥歯を噛みしめる。

『はーい。ポートをご利用のお客様はこちらですぅー』

 赤レンガの外壁から添乗員姿で小旗を持ったレイスの女性が顕れた。ポート・・・10階層ごとに記録をしていけば次からはその階層に転移して進むことが出来るシステムだ。

 シェリーはリオンから舗装された地面に降り立ち、添乗員姿のレイスに付いていく4人の背中を見送りながらため息を吐く。 
 一瞬リオンが振り返ったような気がしたが気の所為だろう。

 このダンジョンはレベル上げにも素材採取的にもいいダンジョンなのだが、この一階層だけは気に入らない。目線を地面か空に固定しておかないと、無意識に探してしまう。何をとは言わない。また、思わずため息を漏らしてしまった。

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