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21章 聖女と魔女とエルフ

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 マリアを先頭にして王城内を歩き、扉の前にたどり着いた。そして、マリアは扉を開き中に入るように促す。

「ここは会議場の控室となっております。この隣が会談の会場となっておりますので、お時間までお待ち下さい」

 そう言ってマリアは頭を下げる。しかし、なぜナヴァル家の侍女であるマリアがここまで案内をしているのだろう。王城には侍女も侍従もいるはずだ。

 シェリーは控室の入り口で立ち止まり、マリアに尋ねる。

「なぜ、マリアさんがここの侍女のような事をなさっているのですか?」

 すると頭を下げていたマリアが顔を上げフンと鼻を鳴らし、廊下の方に目線を送る。

「ここの者達は根性がなさ過ぎですので、奥様に対することは私がすることにしております」

 意味がわからない返答が返ってきた、なぜ、根性云々が関わってくるのか理解できない。まぁ、主を得た狼族の習性だろうとシェリーは思うことにした。

 控室の中に入っていけば、そこにはすでにイーリスクロムがソファに座ってくつろいでいた。なぜ一国の国王がこの場にいるのだ。
 普通は王族の控室があるのではないのだろうか。

「やぁ。よく来てくれたね」

 座ったままでシェリーに声を掛けるイーリスクロムの後ろには近衛騎士団長のレイモンドが立っており、向かい側には見慣れた軍服姿ではないクストとカチカチに緊張しているユーフィアが座っていた。

「そこに座るといいよ」

 示された場所はイーリスクロムから斜め90度の位置だった。シェリーはそこに座り、隣にはカイルが座る。他の4人はその後ろに立った。

「しかし、報告通りその姿のままなんだね」

 ニヤニヤしながらイーリスクロムがシェリーに尋ねる。あの場にいた癖に何を言っているんだと睨みつけるような視線をシェリーはぶつける。

「ステルラ様の神気にあてられてた人に言われたくありませんね」

 シェリーの言葉にイーリスクロムはブルリと震えた。あのときのことを思い出しでもしたのだろう。

「あ・・うん。今回の会談で一つ頼みごとがあるのだけどいいかな?」

 いきなり話を変えてきたイーリスクロムにシェリーは怪訝な表情を見せる。

「なんですか?」

「出席するのは君一人でお願・・・本当に勘弁して欲しい」

 イーリスクロムは途中で言葉を切って心の声を漏らした。5人からの殺気を浴びて言葉を止めたようだか。それでも平然としているのは、これでも目の前の人物が一国の国王だということなのだろう。現にイーリスクロムの後ろで控えているレイモンドは青い顔をして、若干ブルブルしている。いや、経験の差という物だろう。

 斜め前のクストを見てみても・・・。いや、見なかったことにしよう。

「はぁ。はっきり言ってこの会談に他の国の影響を匂わすことはしたくないのが本音なんだよ。本当に君は恐ろしいよね。ラース公国だけでなくシャーレン精霊王国にギラン共和国、炎国、セイルーン竜王国。世界を牛耳れるんじゃないのかな。彼の魔導師も入れればグローリア国もか。はぁ。」

 イーリスクロムのため息がひどい。それをわかった上で聖女になって欲しいと頼んだのではないのか?

「こちらとしては譲歩できて、冒険者としてのカイル君だけなら会談に同席してもらっていい。流石に教会の影響がないセイルーン竜王国の第3王子の情報は持ち合わせてないだろう?僕も竜王と第1王子としか面識がなかったからね」

「王子!」

 イーリスクロムの言葉にユーフィアが反応した。しかし、皆の視線がユーフィアに向き顔を赤らめてユーフィアは俯いてしまう。

「私は一人でかまいませんよ」

 シェリーはイーリスクロムに向かって言う。その言葉に5人の視線がシェリーに向けられた。シェリーはいつもの事なので気にはしていないが、イーリスクロムの方が慌てて

「流石に一人は駄目だよね。カイル君に同席をお願いするよ」

 と言ってきた。その時丁度扉がノックされ、人族の男性が『失礼します』と言って入って来た。その男性はイーリスクロムの近くまで来て

「シャーレン精霊王国ご一行様が到着されました」

 そう言って頭を下げている。その言葉にイーリスクロムが立ち上がり人族の男性に視線を向けた。

「予定通り転移の間かな?」

「はい」

「それじゃ隣の会議室でお出迎えしようか」

 そして、イーリスクロムが隣の部屋に続く扉に向かって歩き出す。その後にレイモンドが付いていき、クストがユーフィアを連れて隣の部屋に向かって行く。

 シェリーも向かう為に立ち上がろうとしたとき、上から影が落ちてきた。見上げるとキラキラした目をした狐獣人のセーラが立っている。

「シェリーさん!凄いです!あんなにオロオロした兄は初めて見ました!私──イッ」

「セーラ。貴女のやるべきことはなんですか?」

 セーラの後ろから手刀を頭に落としているマリアが低い声を出して立っていた。

「駄犬の監視です!」

 涙目で答えるセーラは早足で去っていく。

「鉄牙はおっかねーな」

 オルクスがボソリと呟いた言葉にマリアはキッと睨みつけ

「オルクス。最近体が鈍って来ているのですよ。久しぶりに訓練でもしましょうか?」

 目が笑っていない笑顔をマリアはオルクスに向けていた。

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