上 下
194 / 775
16章 英雄の国

184

しおりを挟む
「英雄、英雄って言っていましたけど、本当の英雄の力も見たことも無いくせに、その子孫ってだけで威張らないでもらえます?そんな弱っちい子犬様に英雄の力見せてあげますよ。オルクスさん。邪魔なんで、子犬様の面倒見てもらえません?」

 そう言ってシェリーはアマツに向き合う。向き合ったアマツはリルラファールの事が気になるらしく目線がオルクスに引きずられている彼を追っている。

「ねぇ。あの子ソルの子孫なの?」

「そうですよ。」

「やっぱり!出会った頃のソルにそっくり!可愛かったのよ。」

『可愛い?』『団長が?』
 とそんな声が聞こえてくる。可愛いと表現されたリルラファールは地面に項垂れているようだ。可愛いは青年に言っていい言葉ではないだろう。

「じゃ、いくわよ。『龍化!』」

 アマツの龍化の言葉と同時に彼女の顔には青白い鱗が浮き出てきた。いや、見えている首も手の甲も全てが鱗に覆われた。そして、アマツは拳を構える。武器は何も持っていない。いや必要がないのだ。鱗に覆われた皮膚はそれ自体が強固で武器と言っていいのだ。
 アマツに合わせシェリーも拳を構える。シェリーの体術は彼女から習ったといってもいい。剣術は聖剣ロビンから体術は英雄の水龍アマツから戦いの中で学んでいったのだ。

 シェリーはアマツに向かって拳を振るう。アマツも同じ用にシェリーに向かって拳を振るう。二人の拳がぶつかり、その衝撃は空気すら振動させ、衝撃が訓練場一帯に走った。それが合図とでもいうかのように、二人は一旦距離を取り、間合いを取る。

 次はアマツが地面を蹴った瞬間消えた。そして、シェリーは少し体を傾ける。その横に一迅の風が吹き抜け、足元に砂埃が舞い上がり、シェリーはその砂埃をめがけて足を振り下ろす。砂埃からアマツが空に向かって飛び出してきた。

 アマツは消えたわけではなく、目に見えない速さでシェリーに攻撃をしていたのだ。

 そして、シェリーもその場から消えた。空に目をやれば飛び出してきたアマツの姿も見られない。ただ、砂埃と空気の振動が伝わってくることで、目には見えない速さなのだということだけが分かるぐらいだ。

 ただ、カイルとオルクスの目はせわしなく訓練場を行き来しているところを見ると彼らには見えているようだ。

 そして、大きく砂埃が立ち、お互いがお互いの顔面の前で拳を止めている姿で止まっていた。

「佐々木さん。また強くなった?腕一本持っていかれるかと思ったよ。」

 アマツは拳を下ろし、反対側の腕をさすりながら、シェリーにそのようなことを言う。

「まぁ。色々ありまして」

 そう言いながらシェリーも拳を下ろす。色々というのは謎の生命体のちょっかいによって分裂させていた人格を強制的に戻されたことにより、聖女としての力と破壊者としての力を制御して使えるようになったことだ。
 しかし、龍人の鱗を傷つけるシェリーの拳は恐ろしいものだ。

 シェリーはリルラファールを見ると呆然と前を見ており、その横に立っているオルクスは目を輝かせており、『やっぱ、すげーなぁ』と言っている。
 そんな訓練場に駆け込んできた者がいるグレイとスーウェンだ。それともう一人いるようだ。

「だから、ダメな理由を言えと言っているだろ。」

「ああ゛?ダメなものはダメだ。」

 グレイともう一人の人物が言い合っているようだ。

「ねぇ、ねぇ、佐々木さん。もしかしてあの子」

 アマツはグレイと言い合っている人物をさして

「ジェームズの子孫?」

「ジェームズさんって言う方は知りませんが、フィーディス商会の人です。」

「ああ、やっぱり!」

 アマツが指した人物は白い短髪から白い三角の耳が出ており目つきの悪い金色の目をグレイに向けながら、話している白い猫獣人の男性だ。

「あ!シェリー。聞いてくれ!俺たちに店の物は売らないって、この猫が言うんだ!」

「猫じゃねぇ!フィーディスだ!」

 そう言いながら白い猫獣人の男性はシェリーを見て、その隣にいるアマツを見て固まってしまった。

「グレイさん。他の店でも多分同じですから、さっさとダンジョンに行きましょう。」

「いや、流石に10日もダンジョンに潜るのに色々足りない。なんで、売ってくれないんだ?この猫は全然教えてくれないし。」

 シェリーはアマツを連れてグレイとスーウェンに近づいて行く。スーウェンを連れて行けばこうなることを途中で思いだしたが、やはり、物を売ってくれなかったようだ。

「スーウェンさんにエルフの王族の血が入っているからです。ギランとシャーレンの確執です。」

「え?それだけ?」

「それだけです。食料は現地到達すればいいです。」

「ダンジョンで現地調達できるのか?」

「運がよければ。」

「・・・・。」

 運を頼りにダンジョンに潜るほど危険なものはない。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

処理中です...