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16章 英雄の国

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 西の街外れまで歩いて行き、一軒の建物にたどり着いた。そこは3階建ての石造りの建物がポツンとあり、その周りは木々に覆われていた。

 シェリーはその建物のドアノッカーを叩く。しばらく待つが誰も出てこない。
 ちっ。相変わらずここの客に対する対応はなっていない。

「シェリー、今は訓練の時かn・・・あっ。」

 オルクスがこの時間は誰も対応できないと言っている途中で、シェリーは拳を握り、前に思いっきり突出し扉を破壊した。

 扉が砕け散る音と同時に

「頼もう!」

 と、中に声をかける。どこぞの道場破りの様相だ。

 破壊音とシェリーの声を聞きつけ、何処からともなく武装した人族や獣人が集まってきた。それはそうだろう。先程、オルクスが言っていたとおり彼らは朝の訓練中で、そのまま扉を破壊した侵入者を排除しに来たのだから。

「朝っぱらからどこのどいつだ!」

 マリアと同じ金狼獣人の青年が剣を手にして聞いてきた。

「ノックをしても相変わらず誰も出てこない。受付ぐらい用意しろと言いましたよね。」

 シェリーは以前、訪れたときに業務改善を要求したようだ。

「だから誰だって言ってるんだ!」

 その青年の後ろではシェリーのことを覚えているのであろう者たちから『止めておけ』『何しに来たんだ』とか言っており、シェリーの後ろにいるオルクスに気がついた者たちは『団長が帰ってきてくれた。もう限界だったんすよ。』『この生意気なクソ餓鬼痛めつけてください。』とか言っている。どうらや、オルクスの後釜らしいが他の傭兵団の者たちから団長としては不評のようだ。

「誰かシド総帥閣下を呼んできてもらえませんか?」

「おい、俺が誰かと聞いているんだ!お前みたいな人族に父上が会うはずないだろ!」

 シェリーに無視されたことで、噛み付いてきた青年は金狼獣人だったので、シド総帥の血族だとは思っていたが、息子だった。あのマリアと姉弟らしいが性格も容姿も全く似ていない。
 マリアは初代傭兵団長であったことから、強さは勿論のこと人を引きつけるカリスマ性もあり、今は己の主を見出した侍女であるため、主の意を汲むこともできる才女である。その意志の強さ、主への誇りが、容姿に表れており、そこに居るだけで目を引く美しさがある。
 だが、目の前の青年は人の上に立つには何もかも足りない。例えでいうのなら、子供が剣を与えられ振り回しているような危なさと未熟さが共存していると言っていいだろう。

「人に名を聞くのであれば、そちらから名乗ってください。」

「はぁ?お前、俺のこの姿を見て誰かわからないのか?」

「ええ。はじめましてお犬様。」

「プッ。・・・ヤベッ。」

 シェリーのその言葉に傭兵団の誰かが吹き出してしまったようだ。

『知らないヤツからしたらわからないかもな。』『犬族と狼族の違いか・・・。』『獣人には分かるが人族にはわからんのだろうか。』などと傭兵団の者たちがコソコソと話し始めた。勿論金狼族の青年もこの話声が聞こえているため、顔を真っ赤にしている。

「ガレーネだ!見れば分かるだろ!」

「何処のガレーネさんで?」

「テメーふざけているのか!英雄ソルラファールの子孫のガレーネだ!」

「別に巫山戯などいませんよ。昨日もマリア・ガレーネさんに会いましたから。どちらのガレーネさんですか?」

「マリア・ガレーネ・・・。」

 シェリーが出した名前を聞いて青年は思考が停止したかのように、マリアの名前を繰り返した。その後ろでは『初代団長と知り合いかよ。』『ああ、その名前を聞くだけで鳥肌が立ってしまった。』『俺、今でもマリア団長にしごかれる夢見るんだぜ。』『俺も俺も』と傭兵団の者たちが好き勝手に話している。

「お前ら、さっきから好き勝手に喋りやがって、俺が今の団長なんだぞ!わかっているのか!」

 傭兵団の者たちに苛立ちを顕にし、後ろに向かって文句を言っているが、その言葉に反応したのは傭兵団の者たちではなくオルクスだった。

「へぇー。お前が俺の後釜なんだ。弱そう。」

「テメー・・・オルクス・ガナート。なぜここにいる。戻ってきたのか。しかし、今の団長は俺だ!」

 金狼獣人の青年はオルクスに向かって団長であることを宣言するが、その言葉をシェリーがぶった切る。

「別に団長が誰かなんてどうでもいいので、いい加減にシド総帥閣下を呼んでください。じゃないと、以前の二の舞にしますよ。」

「「「はっ!」」」

 その言葉に、以前のシェリーの訪問を知っている傭兵団の者たちが一斉に右手の拳を左胸に当てて敬礼をする。直ぐに呼んでまいりますと数人が入り口正面にある階段を駆け上がって行った。
 しかし、その光景を見ていた金狼獣人の青年は大声で階段を上がって行った者たちを引き止める。

「テメーら!誰の命令を聞いているんだ!団長は俺だぞ!人族の小娘の命令なんて聞くんじゃない!」

 だが、階段を登って行った者たちからの返事は彼にとって理解不能なものだった。

「「「死体に殺されるのは御免です!」」」

 と。・・・どうやらシェリーはここでもスキル亡者ドールの強襲を使ったようだ。
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