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14章 黒の国

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 シェリーはとある一室に連れて来られた。炎王の奥方の部屋である。そこは古い日本家屋のように外廊下で各建物が繋がっており、入り口の建物から外履きを脱ぎ、木の廊下を幾度か曲がった先にある一室だった。
 因みにシェリーのツガイたちは炎王からお茶でも飲んで待っているように言われ、庭が見える一室で待たされている。

「ここだ。」

 そう言って炎王に通された部屋には中央に置かれた寝台の上で、黒髪の女性が眠っていた。その女性はこの国に多く見られる鬼族だった。

 シェリーはその眠っている女性を視た。
 確かに呪われており、ゆっくりと死が近づいていた。

「呪われていますね。後一ヶ月程で死にます。」

 シェリーは事実をそのまま口にする。

「で、治るのか治らないのか。」

「治ります。」

 炎王の言葉にそう答え、寝ている女性の上に手をかざし

「『呪術浄化』」

 聖魔術を施行した。すると、眠っている女性の瞼がピクリと動き、薄く目が開いた。

「リリーナ!」

 炎王は薄く目が開いた女性に呼びかける。女性は何かを言葉にしようと口を開くがヒューと息が漏れ咳き込みだした。

 シェリーは果実水の入ったコップを取り出し、飲ますように炎王に差し出す。

「エン様。どうしたのですか?」

 果実水を飲んで喉を潤した女性は倒れた記憶が無いようで、炎王に尋ねている。

「南方の商人から果実をもらったのを覚えているか?」

「ええ。」

「それは呪いが込められた果実だった。それから、リリーナはずっと眠りっぱなしだった。」

「そうだったのですか、それで、光の巫女が私を治してくれたのですね。」

「いや。光の巫女でも癒せない呪いだった。だから、佐々木さんに来てもらったんだ。」

 リリーナと呼ばれた女性の視線が炎王からシェリーに移動した。シェリーの姿を捉えたリリーナは今まで眠っていたと思われない様な速さで炎王に詰め寄り

「エン様。浮気ですか!番の私が居るにも関わらず、新しい女ですか!番が分からないからと言って、どれだけの女を引っ掛ければ気が済むのですか!」

「引っ掛けないから!あれはあいつ等が・・・この話は止めよう。佐々木さんは6番目の聖女だ。リリーナの呪いを解くために来てもらったんだ。」

「聖女?」

 そう言ってリリーナはもう一度シェリーに視線を向ける。

「初めまして、炎王の奥方様。炎王には佐々木と名乗っていますが、シェリーと呼んでください。6番目の聖女ですが、公言しているわけではありませんので、ただのシェリーです。」

 シェリーは名乗り、リリーナに対して聖女と呼ぶなと言っている。

「シェリー・・・その名前どこかで聞いたことありますね。」

 リリーナは会ったことのないシェリーの名前をどこかで聞いたようで、探るような視線をシェリーに向ける。

「リア姫がよく言っている名前だ。」

「そうそう。アフィーリアがシェリーが遊びに来てくてたと言っていた、シェリーですか?」

 確かにシェリーは炎王に招かれた時に花冠を作ってあげた少女に会うことがある。しかし、それはアフィーリアと言う少女と遊ぶ為ではなく、炎王と取引の為に招かれ、そこにアフィーリアが突撃してくるのだった。

「遊びには来ていません。炎王との取引のためにに来ているのです。」

 そこはきちんと訂正をしておかなけれなならない。

「そのシェリーは王太子の奇行に関わっていると?」

 リリーナの耳にも王太子の異常行動は耳に入っているようだった。

「関わっていません。王太子とは1度しか会っていません。」

 シェリーははっきりと否定をする。そんなシェリーを見てリリーナは何か気が付き

「これはもしかして、エン様と同じですか?番が分からないという。」

「リリーナ、よく気がついたな。佐々木さんは俺と同じ神に選ばれた者だ。それに番に対しても番と認識しないようにしているらしい。」

「わかりますよ。何年共に一緒にいると思っているのですか。番の私がいるのにも関わらず、何人もの女を囲い込んで!」

 リリーナは睨みつけるような視線を炎王に送る。炎王は困ったような顔をして否定し、シェリーに尋ねる。

「囲い込んではいなかった。はぁ。佐々木さん、そろそろあいつも仲間に入れてやってくれないか?」

「嫌ですが?そもそも、人様の家庭の事情に踏み込みたくありませんし、番なんて私には必要ありませんから。」

 炎王からの言葉もシェリーははっきりと否定をした。

「オリビア妃なら夫に番ができたと知れば喜んで身を引くと思うのだがな。」


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