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13章 死の国

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 シェリーは氷の刃を作り、手首から肘にかけてザクリと傷をつける。その行動に反応を示した者達がいたが、視線で牽制をし、魔力と血を混ぜ合わせ、床に落としていく。
 その赤い血は生きているかの如く、床を這いシェリーとルナティーノを中心として、四方八方に伸びていった。
 それを見た王は目を細め

「ほう。よく知っているな、今じゃ使われなくなった契約法だろう。」

「王には普通の契約では意味をなしませんから。」

 そう、神の神力で命を吹き込まれたルナティーノには人が使うような契約では縛ることができないのだ。

「ククク。神を承認者として立てるのか。どの神が我らの契約に立ち会うのか楽しみだ。」

 シェリーが行おうとしている契約は神を承認者として立ち合わせるものだ。この契約を破ると神との契約を破ることに等しく相当重い神罰が下ると言われている契約法だ。

 シェリーとルナティーノを中心に陣が描かれ、その周りには、それを見守る者達で囲まれている。

「これより、契約を施行する。この契約に立ち会う神の降臨を願いただき・・・。」

 シェリーが神の降臨を願う文言の途中で血で描かれた陣が光り出した。シェリーは一瞬何が起こったか分からなかったが、その姿を見て、怪訝な表情になった。
 白い髪に白い肌そして、白い金属を流したかのような目をした神は1柱しかいない。

「いやー。これ使っちゃう?今どきこの契約を使う事ってなくなっちゃったからね。」

 シェリー曰く、謎の生命体がこの場に降臨したのだ。

「何をしに来たのですか?」

 自分で神を喚んでおいて、その言い草は無いだろうとは思うが、シェリーはてっきり、死の神か闇の神が化現してくると思っていたのだ。しかし、現実は白き神と言われる謎の生命体がここに存在している。

 今まで、この契約を見守ろうとしていた吸血鬼の者達もシェリーの番もシーラン王国からの使者も皆一様に床に伏している。この場に立っているのは、ルナティーノとシェリーと白き神のみだけであった。

「酷いね。呼び出されたから来てあげたのに。」

「てっきりモルテ様かオスクリダー様が来てくださると思っていましたが?」

「え?面白そうだったから?二人とも来たがっていたけど、割り込んじゃった。」

 面白そうの一点張りで、多分見守っていた死の神と闇の神の間に割り込んで行ったのだろう。

「変更を要求します。」

「えー。僕で良くない?君もそう思うよね。」

 白き神はルナティーノに尋ねるが、そのルナティーノは目を見開き白き神を見ている。そして、

「あなたが白き神ですか?我らを見捨てた神ですか?」

 そのルナティーノの言葉に白き神はニコリと笑い

「見捨てた?僕が選んだ聖女をいじめ抜いて?僕が選んだ聖女の番を殺しておいて?僕がこの世界の為に役目を与えた聖女を魔人にしておいて、そんなことを言うのかな?」

 笑っているがとても歪んだ笑顔である。白き神の神力が辺りに充満する。あちらこちらでうめき声が聞こえてくるが、白き神はそのまま言葉を続ける。

「確かに君たちに言葉を与えたよ。聖女を迎えて、世界の浄化を手伝ってあげてって言ったけど、それがどうして、王族との婚姻に繋がるのかな?聖女の力を一部の者しか与えられない環境に閉じ込めたのかな?ねぇ。どうしてかな?」

 ルナティーノは言葉を紡げず、白き神の足元に伏すしかなかった。

「なんで、僕が君たちを助けなければならなかったのか、こっちが教えて欲しいぐらいだよ。」

「申し訳ありませんでした。」

「今更だよね。まぁ。君たちもそれなりの報いは受けたようだし、それにアークの呪いは強烈だったみたいだし。モルテとオスクリダーが創った人形があそこまで狂うなんて面白かったよ。君はエリザベートとは違うのだからね。」

「はい。」

 アークと言う言葉が謎の生命体から出てきた。あの国境で見た、わからないモノの浄化した石に表示された『アークの贄』だ。多分聞いても答えてはくれなさそうなので、さっさとお帰り願おう。

「言いたいことを言ったのなら帰ってくれませんか?」

「僕に言いたいことをはっきり言うのはシェリーぐらいだよ。それじゃ、契約を見守ってあげるよ。」

 何がそれじゃ、なのだろう。しかし、先程まで、この空間を支配していた神力はいつもどおりになっていた。

「はぁ。私、シェリーミディア・カークスはルナティーノ・トールモルテに対し番を贈る対価として、マルス帝国から手を引くことを望む。」

 ルナティーノは床に伏したまま契約の言葉を言う。

「私、ルナティーノ・トールモルテはシェリーミディア・カークスのげんに従う。」

 あれ?これだと違う意味に取られてしまう。シェリーは慌てて、ルナティーノに問いただそうとしたが

「この契約を我が名において施行する。」

 謎の生命体が先に契約施行を発言してしまった。その言葉に反応するかのように、陣が光り契約の完了を示された。そして、謎の生命体の声がシェリーの耳を掠める。

死の国モルテの王まで配下にしてしまうなんて流石だね。』

 やはり、そのように捉えられてしまっていた。
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