上 下
149 / 780
13章 死の国

141

しおりを挟む
 シェリーが目を開けると、目の前にカイルの顔が・・・。4人とも寝ていたシェリーの周りにいるようだ。

「何ですか?もう時間ですか?」

 シェリーのいつも通りの言葉に4人はホッとため息を吐く。

「ご主人様に何者かが接触したようでしたから、急いで起こしたのです。時間的にはそれ程経っていません。」

 スーウェンの魔術か何かに反応したのだろう。シェリーを抱き寄せているカイルが心配そうにシェリーの頬を撫でる。

「何があったのかな?」

「モルテ様に喚ばれただけなので問題ありません。ああ、スーウェンさんアイラ嬢から血を少々貰って来てください。傷は綺麗に治してください。」

 シェリーは半分眠りながら、先程モルテに言われた血液の確保をスーウェンに頼む。

「モルテ様?一体どういうことですか?」

 いきなりアイラの血を取るように言われたスーウェンは戸惑いをみせた。

「必要なので・・・。」

 そう言ってシェリーは再び眠りについた。


カイルside
「え?用件を言っただけ?」

 グレイが寝ているシェリーを見ながら言う。どうやら、今回はあの白き高位なる存在ではなく、この国の住人達が崇めている死の神からの接触があったようだ。

「モルテ様ってこの国の王ということですか?」

 確かに、その名前だけでは王の名と勘違いしそうだ。外交を担っているレガートスという男もモルテが死の神の名だとは言っていない。

「モルテ様という方はこの国が崇める神の1柱らしい。その神がシェリーに何かを頼んだみたいだね。」

 しかし、何者かがシェリーに接触した場合、シェリーを起こせばいいと思っていたが、声を掛けても体を揺すっても起きないなんて、やはり神に逆らうことは出来ないのだろうか。
 終いには、シェリーの口を使って話し出したのだ。

『そこまで心配をせずとも良い。聖女に頼み事をしているだけだ。カカカ。』

 シェリーの声ではなく、深く闇を纏ったような重い声の持ち主だった。あれが死の神の声だとしたら納得はできるが、いとも簡単に番に接触されるなんて腹立たしいことだ。

「カイル。シェリーが風邪を引いたら困るから、落ち着いてくれないか?」

 また、グレイに注意をされた。はぁ。シェリーのことになると魔力の制御がおろそかになるのは、なんとかしなければならないな。


シェリーside
 シェリーは黒髪にラース公国で正装に当たる赤いドレス姿で、レガートスの迎えを待っていた。なぜ、赤いドレスか。カウサ神教国であったモルテ国に対する牽制だ。
 カウサ神教国に対して唯一屈服しなかったのがラース公国であり、幾度も神の名のもとに侵攻してきたカウサ神教国の神兵を退けて続けたのもラース公国のみであった。
 ラースの魔眼を持ったシェリーが赤いドレスで正装することで、相手に敬意を示すと共に威嚇の意味も込められているのだ。

 ブライからレガートスの迎えが来たと言われ、宿の外に出ると、アイラ嬢が詰め込まれている黒い馬車と並ぶようにレガートスが用意した黒い馬車が宿の前に停められていた。シェリーの姿を見たレガートスは目を細めニヤリと笑った。無言のまま馬車の扉が開けられ、中に入るように促される。

 シェリーは奥側の席に座り、その隣に正装をしたカイルが座った。グレイ、オルクス、スーウェンは各自の騎獣で向かう事を前もって決めていたので、同乗はしない。シェリーの向かい側の席にレガートスが座り、馬車が動き出す。

「その色のドレスは魔女エリザベートを思い出します。王を訪ねによくこられていましたが、かの魔女も亡くなってから随分と年月が流れました。」

 レガートスがシェリーの姿を見て、魔女エリザベートの名を出した。魔女も好んで赤いドレスを着ていたようだ。

「そうですか。赤は女神の色ですから。」

「ええ。憎らしい程辛酸を舐めさせられ、一向に屈服ぜず、だた一人の魔眼持ちに大敗を喫した、ラースの女神の色ですね。これはわざとですか?」

 レガートスは吐き捨てるように言う。

「ええ。そちらの対応次第で、こちらもそれなりの用意があると言うことです。」

 それに対してシェリーはいつもと変わらず淡々と答える。すべてはあなた達次第だと。

「くくく。我らと対等に交渉でもしようと言うのですか?ただの人族が?」

「その為に手土産を持って来たと言っていいでしょう。」

 レガートスは笑う。とても楽しそうに笑う。

「ははは。貴女が何を提示してくるか楽しみにしておきますよ。本当にこんなにもおかしな事を我らに言いだすのは魔女以来ですよ。」

 そのレガートスの言葉と共に馬車も停止した。どうやら、城に着いたようだ。馬車の扉が外から開き、先にレガートスが降り、次いでカイルが外に出る。最後にシェリーがカイルに手を取られながら地面に降り立った。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...