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12章 不穏な影

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 まさかシェリー自身が心配される立場だったとは思いもよらないことだった。

「やっ・・追い・・た。・・二人とも早・ぎ。」

 息が切れぎれのグレイがやって来た。二人から大分離されていたようだ。
 シェリーにはツガイに対して認識阻害を施しているため、ツガイの気配をたどる事は出来ない。と言うことは、白い炎を目印としてシェリーを探し当てたとなると、浄化の炎を使用して直ぐに現れたカイルが速すぎなのだろう。

「あっ。シェリー!勝手に居なくなるなよ!心配するだろ!」

「心配ですか?迷子になるほど子供ではありませんが?」

 シェリーは本気で不思議がる。なぜ、そこまで心配をされるのか。
 それは全てを一人でやってきた弊害だ。子供ながら、佐々木と言う記憶を持ったシェリーが頼れるものは自分だけという環境で育ち、頼られはしたものの、誰かを頼るということをしなかったことの結果が家族以外の他人に関心が持てない欠落したシェリーだ。

「そうじゃなくて、はぁ。無事ならいい。」

 グレイはシェリーの本気で不思議がるのを感じ、言いたいことを諦めた。

「それで、ここで何があったんだ?」

 グレイが来たときにはもう白い炎は消えていたので、どういう物があったかは見ていない。

「大きな黒い球体がありました。」

「それで?」

「分からないので、浄化しました。断末魔の叫びが聞こえた気がしたので、中身はいたと思われます。」

 それを聞いたカイルはシェリーの手を取り

「分からない物に手を出すのはやめようか。」

「殴っていませんよ。浄化しただけです。」

「「「はぁ。」」」

 シェリーが理解してくれないことに、3人がため息を吐く。戻ってからきっちり説明しなければならないと3人は視線を合わせた。

 今は土砂降りに降っていた雨は止み、星空まで雲の間から見えている。秋の夜の風が肌寒く感じる。
 シェリーは雨で濡れた髪や服の水分を魔術で飛ばし、先程浄化した黒い球体があった場所に足を向ける。その地面には赤黒い歪な石が落ちていた。怪しい石を拾おうと手を伸ばせば、その手もカイルに掴まれてしまった。

「さっき言ったこと分かっていないよね。」

「何であるか分かっていれば良いのですよね。それに、浄化をしていますから問題ないです。」

 今度は怪しい赤黒い石を視る事ができた。

『アークの贄の成れの果て(浄化された、ただの石である)』

 あの黒い球体も生贄だったようだ。それも世界に認識されない程のモノ。

「カイルさん。両手を掴まれてしまうと困るのですが。」

 カイルはシェリーの言葉には答えず、グレイに視線を送る。グレイはシェリーに近づき、シェリーが拾おうとした赤黒い石を拾い、シェリーの左手を握る。シェリー自身、握られている左手がカイルからグレイに代わっただけで、両手が塞がれているのには変わりはない。

「これは何ですか?」

 誰もシェリーの問いには答えず歩きだす。オルクスが先頭に立ち、その後にシェリーを挟んだカイルとグレイが街がある方角に足を進めて行ったのだった。


 そして、シェリーはそのまま宿まで連行された。その間は無言だった。何やら3人は黙って外に出たことに対して怒っているらしいということはシェリーにもわかったが、なぜ悪いのかがさっぱり持って理解できないのだ。宿に戻るまで考えてみてもわからない。
 ツガイが理由だと言われれば、またそのような面倒くさい繋がりかと理解はしたくないが納得はできるものだった。あのナオフミや隷属されるまでのオリバーを間近で見ていたのだから。
 しかし、そうでは無いと言う。シェリーの家に押しかけるようにして来た者たちが一体何が言いたいのかサッパリわからない。ツガイでなくていいと言うならさっさと何処かへ行って欲しいのが本心だ。

 宿の玄関にはスーウェンとブライが立っていた。なぜ、この二人が?という組み合わせだ。

「問題児は何処まで行っていたんだ?」

「旅の行程に支障は出ていないはずですが?なぜ、ブライさんがいるのですか。」

 ブライから尋ねられた問いにシェリーは答えずに、そっちには関係が無いはずだと答える。

「支障がありすぎだ!そいつらを置いていくな。俺はまだ死にたくない!」

 全く持って意味がわからない返答がブライから返ってきた。

「彼らは私に勝手に付いてきているので、置いて行くことぐらいありますよ。」

 シェリーのその言葉を聞いた4人の雰囲気が変わった。ブライは慌てたように『俺は関係ない!』と言いながら宿の中に駆け込んで行く。

「シェリー。部屋に戻ってお話をしようか。」

 カイルは笑顔でシェリーに話しかけるがその目は笑っていない。

「置いて行かれないように手は繋いどかないとな。」

 グレイがシェリーの手を握りしめているが、シェリーが痛いと言ってもその手を緩めようとしない。

「やっぱさ、暴君レイアルティス王は正しかったんじゃないのか?」

 オルクスがレイアルティスを肯定しているのは何を指しているのだろうか。

「そうですね。鳥籠でも作ればいいのでしょうか。」

 スーウェンはその言葉に理解を示し、鳥籠を作ろうと言い出したのであった。

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