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5章 魔人の初源
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魔人ミゲルロディアside
気がつけば砂浜に立っていた。目の前には黒い海、空は重たい雲が頭上を支配している。まるで我の心の内を表しているかのようだ。
この、憎しみ、怒り、悲しみが我の中から無くなることはないだろう。
「あー!きたきた。」
若い女の声がする。わずらわし、我に話かけるな!
声がする方に向かい拳を振るう。
「わっと、その怒りいいね。憎しみもいっぱいだね。」
うるさい。貴様に我の何がわかる。女に向かい炎の矢を放つ。
「あははは、楽しいね。全てを、世界を拒絶する感じゾクゾクするね。」
女が目の前から消え背後から衝撃を感じそのまま砂浜に倒れた。起き上がろうと力をいれれば、我の上から絶対的な魔の力が降り注いできた。
これに逆らうことは出来ないという絶対的力。倒れている我を覗き込むように、黒髪の黒い目が濁った女は視線を合わせ
「あなたの絶望を聞かせて」
と口が裂けるかのような笑みを浮かべて言った。
我、ミゲルロディア・ラースには美しい妹がいた。ビアンカルディア・ラース。4代目の聖女として神託を受けた娘で、薄いピンクの髪にラース家特有のピンクの目を持って生まれて来た。
普通なら初代聖女が生まれたシャーレン精霊王国に嫁ぐこのとになるのだが、世界中に魔物が溢れかえり、グローリア国では空間の裂け目から化け物が出てきたと言うではないか。そんな中、聖女であるビアンは世界を浄化するように神託がくだる。シャーレン精霊王国はビアンを聖女の血を取り込みたかったようだが、それはしないよう神託がくだった。珍しいことだった。
仕方がなく、シャーレン精霊王国は我にエルフ族の族長の娘を宛がった。しかし、エルフ族の娘は人族に嫁ぐことを不服とし、我が近づくのを拒否した。
そして、グローリア国が勇者召喚に成功したとの報告が入る。勇者は直ぐに魔物の討伐、次元の悪魔と名付けられた化け物との戦いに出された。
勇者は共に戦う仲間として聖女を迎えるためにラース公国までやってきた。
勇者はビアンを見て「俺の嫁」と言ってビアンを抱き締めていた。それを見ていた周りの者たちは二人が番であることを認識した。
しかし、我の目には一人の女性しか写っていなかった。我の番を見つけたのだ。だが、周りは、聖女と勇者が番であったことに祝福している。我が番のことを口にすることは憚れた。
このご時世だグローリア国の魔導師で第5王女メルローズをラース公国の大公が第二夫人として娶っても問題ないはずだ。
強引にグローリア国王に話をつけ、メルローズを娶ることができた。事が終わればビアンはグローリア国に住むことになってしまったが、勇者の番なのだからしかたがない。
メルローズとの生活は幸せだった。しかし、世界の情勢は一刻一刻と破滅へ進んでいた。魔王なるものの活動が活発化し始めたのだ。次元の悪魔と同じく破壊行動を行うのは同じなのだが、明確なる意思を持ち、魔物、悪魔を統率し始めたのだ。
討伐隊も100人を切るようになったころメルローズが魔王討伐隊に加わると言い出したのだ。
我は反対した。しかし、番である我と娘のこれからの幸せな生活の為に行きたいのだと言われれば、反対はできなかった。これほど我がただの人族であることを悔やんだことはない。これほど我が魔導師ではなかったことを悔やんだことはない。
討伐隊の本隊にはビアンを慕ってしたの弟が魔導師として討伐隊にいる。弟にメルローズのことを頼むとの手紙を送り、メルローズを送り出した。
しかし、帰ってきたのは、一房の髪のみだけだった。
メルローズは我のため、子の為に死んで行ったのだと無理矢理納得させ生きてきた。ただ、いつも後悔が残るなぜ送り出してしまったのだろうかと。
ここ最近は思うように身体が動かなくなり、ベットから起き上がるのもままならなくなっていた。
時々、目が覚めるが、このままメルローズのところへ早く行きたい。
今日は体が軽い気がする。ふと、意識が浮上し、番という言葉を耳にする。目を薄く開ければ、金髪のピンクの目の少女が我の近くにいる。
確か、ビアンと勇者の最初の子だったか。この子も可哀想に勇者の黒を纏うが故に普通には生きられない子だ。
その子が我に番がいると言っている。誰にも言わず誰にも認識されなかった。ミゲルロディアの番、そしてメルローズの番。
誰かに番として認められるというものはこんなに嬉しいものか。
我の側で誰かの話声で目が覚めた。微かに明るいので夜明け前だろう。
「兄さんとメルローズが番だった?」
「そうらしいわ。」
弟とあのプライドの高い妻がいるようだ。
「あの事は絶対誰にも言ってはいけないわよ。」
「わかってる。メルローズが自殺で死んだなんて、墓場まで持っていくさ。」
なんだと!
「しかし、あんたが唆したんじゃないか。あのラースの血が入っていない息子にラース家を継がせたかったんだろ。もし、メルローズが戻ってきて公子を産んでしまったら。血の繋がらない息子じゃ継げないからな。」
「でも、実行したのはあなたでしょ。討伐隊の獣どもの慰みものとして部屋に閉じ込めたのは」
「まあ、そのあと直ぐに胸を刺して自殺をしたけど、まさか、兄さんの番だったとは、ははは。」
何がおかしい。何がオカシイ。お前が、オマエタチガ、メルローズを死に追いやったのか!
弟にメルローズを託したのが悪かったのか。エルフ族の娘を妻に迎えたのが悪かったのか。番を送り出さず閉じ込めておけばよかったのか。
憎い。ニクイ。お前がオマエタチガ。許さない。ユルサナイ。
スベテをユルサナイ。
「へー。おもしろいね。きみの思いは素晴らしい。ようこそ、ラフテリア大陸へ。ようこそ魔人の楽園へ。私は魔人ラフテリア。一番始めの魔人。よろしくね。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
補足
基本的に魔人自身の力は驚異ですが、明確な意思を持って破壊行動を取っているので、被害者は極端に少なくなります。主に番に関することです。なので、破壊行動にいたる言葉または行動は各魔人ごとに違います。そこさえ気をつければ、穏やかに暮らせることができます。
気がつけば砂浜に立っていた。目の前には黒い海、空は重たい雲が頭上を支配している。まるで我の心の内を表しているかのようだ。
この、憎しみ、怒り、悲しみが我の中から無くなることはないだろう。
「あー!きたきた。」
若い女の声がする。わずらわし、我に話かけるな!
声がする方に向かい拳を振るう。
「わっと、その怒りいいね。憎しみもいっぱいだね。」
うるさい。貴様に我の何がわかる。女に向かい炎の矢を放つ。
「あははは、楽しいね。全てを、世界を拒絶する感じゾクゾクするね。」
女が目の前から消え背後から衝撃を感じそのまま砂浜に倒れた。起き上がろうと力をいれれば、我の上から絶対的な魔の力が降り注いできた。
これに逆らうことは出来ないという絶対的力。倒れている我を覗き込むように、黒髪の黒い目が濁った女は視線を合わせ
「あなたの絶望を聞かせて」
と口が裂けるかのような笑みを浮かべて言った。
我、ミゲルロディア・ラースには美しい妹がいた。ビアンカルディア・ラース。4代目の聖女として神託を受けた娘で、薄いピンクの髪にラース家特有のピンクの目を持って生まれて来た。
普通なら初代聖女が生まれたシャーレン精霊王国に嫁ぐこのとになるのだが、世界中に魔物が溢れかえり、グローリア国では空間の裂け目から化け物が出てきたと言うではないか。そんな中、聖女であるビアンは世界を浄化するように神託がくだる。シャーレン精霊王国はビアンを聖女の血を取り込みたかったようだが、それはしないよう神託がくだった。珍しいことだった。
仕方がなく、シャーレン精霊王国は我にエルフ族の族長の娘を宛がった。しかし、エルフ族の娘は人族に嫁ぐことを不服とし、我が近づくのを拒否した。
そして、グローリア国が勇者召喚に成功したとの報告が入る。勇者は直ぐに魔物の討伐、次元の悪魔と名付けられた化け物との戦いに出された。
勇者は共に戦う仲間として聖女を迎えるためにラース公国までやってきた。
勇者はビアンを見て「俺の嫁」と言ってビアンを抱き締めていた。それを見ていた周りの者たちは二人が番であることを認識した。
しかし、我の目には一人の女性しか写っていなかった。我の番を見つけたのだ。だが、周りは、聖女と勇者が番であったことに祝福している。我が番のことを口にすることは憚れた。
このご時世だグローリア国の魔導師で第5王女メルローズをラース公国の大公が第二夫人として娶っても問題ないはずだ。
強引にグローリア国王に話をつけ、メルローズを娶ることができた。事が終わればビアンはグローリア国に住むことになってしまったが、勇者の番なのだからしかたがない。
メルローズとの生活は幸せだった。しかし、世界の情勢は一刻一刻と破滅へ進んでいた。魔王なるものの活動が活発化し始めたのだ。次元の悪魔と同じく破壊行動を行うのは同じなのだが、明確なる意思を持ち、魔物、悪魔を統率し始めたのだ。
討伐隊も100人を切るようになったころメルローズが魔王討伐隊に加わると言い出したのだ。
我は反対した。しかし、番である我と娘のこれからの幸せな生活の為に行きたいのだと言われれば、反対はできなかった。これほど我がただの人族であることを悔やんだことはない。これほど我が魔導師ではなかったことを悔やんだことはない。
討伐隊の本隊にはビアンを慕ってしたの弟が魔導師として討伐隊にいる。弟にメルローズのことを頼むとの手紙を送り、メルローズを送り出した。
しかし、帰ってきたのは、一房の髪のみだけだった。
メルローズは我のため、子の為に死んで行ったのだと無理矢理納得させ生きてきた。ただ、いつも後悔が残るなぜ送り出してしまったのだろうかと。
ここ最近は思うように身体が動かなくなり、ベットから起き上がるのもままならなくなっていた。
時々、目が覚めるが、このままメルローズのところへ早く行きたい。
今日は体が軽い気がする。ふと、意識が浮上し、番という言葉を耳にする。目を薄く開ければ、金髪のピンクの目の少女が我の近くにいる。
確か、ビアンと勇者の最初の子だったか。この子も可哀想に勇者の黒を纏うが故に普通には生きられない子だ。
その子が我に番がいると言っている。誰にも言わず誰にも認識されなかった。ミゲルロディアの番、そしてメルローズの番。
誰かに番として認められるというものはこんなに嬉しいものか。
我の側で誰かの話声で目が覚めた。微かに明るいので夜明け前だろう。
「兄さんとメルローズが番だった?」
「そうらしいわ。」
弟とあのプライドの高い妻がいるようだ。
「あの事は絶対誰にも言ってはいけないわよ。」
「わかってる。メルローズが自殺で死んだなんて、墓場まで持っていくさ。」
なんだと!
「しかし、あんたが唆したんじゃないか。あのラースの血が入っていない息子にラース家を継がせたかったんだろ。もし、メルローズが戻ってきて公子を産んでしまったら。血の繋がらない息子じゃ継げないからな。」
「でも、実行したのはあなたでしょ。討伐隊の獣どもの慰みものとして部屋に閉じ込めたのは」
「まあ、そのあと直ぐに胸を刺して自殺をしたけど、まさか、兄さんの番だったとは、ははは。」
何がおかしい。何がオカシイ。お前が、オマエタチガ、メルローズを死に追いやったのか!
弟にメルローズを託したのが悪かったのか。エルフ族の娘を妻に迎えたのが悪かったのか。番を送り出さず閉じ込めておけばよかったのか。
憎い。ニクイ。お前がオマエタチガ。許さない。ユルサナイ。
スベテをユルサナイ。
「へー。おもしろいね。きみの思いは素晴らしい。ようこそ、ラフテリア大陸へ。ようこそ魔人の楽園へ。私は魔人ラフテリア。一番始めの魔人。よろしくね。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
補足
基本的に魔人自身の力は驚異ですが、明確な意思を持って破壊行動を取っているので、被害者は極端に少なくなります。主に番に関することです。なので、破壊行動にいたる言葉または行動は各魔人ごとに違います。そこさえ気をつければ、穏やかに暮らせることができます。
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