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4章 人族の権利と獣人の権利

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「いつか、シェリーがこのペンダントを必要としない日がくればいいと思うよ。」

 そんな日が訪れるとすれば、勇者と聖女のようにとじ込もって過ごした場合のみだ。あり得ない。

 シェリーが無言でいると、こんな夜中にこの中庭に駆け込んで来る者の気配がする。そのものは、カイルとグレイの姿を見るなり

「番が番がいなくなった。部屋にも、宿からも、この世界のどこにも存在しない。」

 ツガイの存在は世界中から探せるものなのだろうか。カイルはシェリーが産まれたのがわかったと言っていたので、可能なのか?恐ろしい。

「どこに行った。どこに消えた。どこに隠した。」

 グレイに詰め寄るスーウェン。慌てて駆けつけたのか羽織っている服が裏表逆だ。

「どこに。連れ去った!」

「まてまて、首が絞まる。そこにいる。カイルの側にいる金髪の女性がシェリーだ。」

 スーウェンは『ぐりん』と音が鳴りそうな勢いでシェリーの方に振り向き、凄い勢いで移動をしてきた。思わすシェリーは近くにいたカイルを盾にする。
 スーウェンはカイル越しにシェリーを覗き込み

「色が違う、姿が違う、魔質も違う。どこがご主人様なんですか!」

「エルフ、うるさいです。何刻だと思ってるのですか。」

 だんだん声が大きくなるスーウェンをシェリーがたしなめる。

「瞳はピンクのままだよ。こうやってシェリーが認識阻害をしてしまうから、俺もグレイもシェリーを見失わないようにするのが大変なんだよ。」

「本当にご主人様なのですか 。だったらなぜそこまで魔質が違うのですか。これではわからない。」

 わかってしまったら意味がない。
 はぁ、とため息がでる。折角、宿の人が自慢していた中庭をプラプラしようと思っていたのに、これではできそうもない。カイルの横を通り、スーウェンの横も通り過ぎる。

「シェリー。」

 カイルが呼び止めるが無視をする。が、目の前に壁が

「その姿でどこかに行ってしまったら、見つけられないからダメだ。」

 グレイの壁だった。シェリーはまた、ため息を吐き出す。ツガイとは面倒な生き物だ。

「部屋に戻るだけです。こんな時間に騒いだら迷惑です。」

 グレイの横を通っていく。どうしてツガイというだけで、付き纏うのかサッパリわからない。

「送って行くから、手を繋ごう。」

 とシェリーの手を強引に取る。

「あ、ずるい。」

 駆け寄ってきたカイルにも反対の手を取られる。
 長身の二人に頭一個分低いシェリー。どこぞの確保された宇宙人の感じになっていないだろうか。シェリーの頭が現実逃避を始めた。



 朝日の光を感じ、目を開けた。目の前には誰もいない。目を覚まして、視線も感じなければ、圧迫感もない。なんて素晴らしい朝なんだろう。シェリーは朝のすがすがしさを思う存分感じていた。
 身なりを整え、いつでも出発できるように準備し、ドアを開ける。

「おっふ。」

 ドアを開けたら男三人が廊下で待っていた。これ、絶対邪魔じゃないか。

「シェリーおはよう。」

「シェリーおはよ。」

「ご主人様おはようごさいます。」

 三人はキラキラオーラを振り撒きながら挨拶をしてきた。どこの王子さまだ。あ、そんな身分の者ばかりだった。

「ご主人様、弟のことでご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ありませんでした。弟は日が昇る前には家に送り届けましたので、いつでもグリードへ向かえます。」

 それは、あの後エルフの少年をたたき起こして、家に帰したと言っているのか。
 しかし、他の客からの視線が痛い。イケメンの男三人待たせた人物がこんな女?という視線だ。それも山より高いプライドを持つエルフ族に頭を下げさせ、ご主人様呼ばわりさせているなんて、という視線もある。さっさと、グリードに行こう。

「すぐに行きましょう」

 辺境都市の外門を出て少し歩いた人のいないところで立ち止まる。なぜかシェリーの両手は握られており、自由にならない。それなので、街の中の視線も相当痛かった。

「それでは、夏の離宮で良いのですね。」

「そうだ。」

 スーウェンは場所の確認をして、グレイが肯定するのを聞き、シェリーと同じ高さぐらいの杖を取り出す。

「『転移』」

 目の前の光景が一瞬で変化した。木々が立ち並びその奥には青を基調とした建物と、涼やかな泉が存在した。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
補足
マルス帝国での話が一旦終わりましたが、シェリーのコートドランに対する話の補足としまして、「6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった」の番外編で主人公視点での八年前の事件を書いています。お時間がよろしければそちらもどうぞよろしくお願いいたします。


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