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2章 闇と勇者と聖女
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花の残骸が散らばった花畑を過ぎれば、広い草原に出た。小高く丘になっている上には青い屋根の家が建っている。その草原を勇者ナオフミの後ろに、シェリーとカイルが並び歩いている。
「シェリー、ササーキとは何?名前のような感じだけど。」
「勇者と謎の生命体にしか名乗っていない名前です。それ以外には名乗るつもりはありません。」
カイルはムッとする。番の己に名乗れない名前とはなんだ。
「佐々木さんその言い方やと勘違いしてまうで。」
「関西弁、腹が立ちます。威圧感で押しきり、値切りに値切られた取引先を思い出します。」
「あのときはよう勉強になったやろ。あんな兄ちゃん、俺と佐々木さんは同じ世界におったんや。まあ、仕事でお世話になった顔見知りっちゅう程度やけどな。俺にとって、あの世界が嘘でも夢でもない証拠でもあるんや。だから俺は佐々木さんなんや。」
「シェリーは違う世界から来た?」
「勇者は異世界生まれですが、わたしはこの世界生まれです。」
「佐々木さんは相変わらず頭固いなぁ。」
「父ちゃん」
子供の高い声が話を遮る。黒い髪に目付きの悪い黒い目の12歳ぐらいの少年だ。
「なんや、どないしたんや。」
「いきなり飛んでいって心配したんだ。こいつら誰?」
少年はシェリーとカイルを睨む。
「少年5年振りですが忘れてしまいましたか?」
「少年じゃねー。ユウマだ。お前なんてしらねー。」
「お前のねぇちゃんやって、ゆうたはずやけどなぁ。」
「父ちゃん浮気か。浮気は母ちゃんにおこられるわ。こわー。」
「ちゃうわ。ちゃんと父ちゃんと母ちゃんの子やで。」
「「え?」」
ふたつの声が重なった。
少年とカイルの声だ。
「え、あのお「認めたくはありませんが事実です。」」
シェリーが睨みながらカイルの声を遮った。
「とにかく母さんに会わせてください。」
(同居人の名前も存在も禁句です。)
極小の風魔法を使い、小声でカイルだけに聞こえる様に注意した。
家の中に入るようにナオフミに促される。中はロッジ風の作りになっていた。壁も床も木材でできて入り口は吹き抜けになっており、壁面にパイプラインが引いてあることから冬場に備えての仕様だろう。全体的に暖かみのある内装のようだ。
「上がってや。土足禁止やからな。」
広いワンフロアの奥には、ウッドデッキがありお茶をしている人たちがいる。
こちらに向いて座っている女性はサクラ色の髪にサクラ色の瞳、透き通るような白い肌に目鼻立ちがぱっちりとした美しい容姿でニコニコ微笑みながらイスに座りその周りには二人に似た子供が4人と女性の腕の中に一人いた。
「誰がたずねて来ましたの?」
母親らしき人がナオフミに聞く。
「一番上のねぇちゃんとその番や」
「まあ。シェリーが訪ね てきてくれましたの?でもその髪はどうしたのかしら?」
女性はシェリーの姿を確認し、不思議そうに首を傾ける。
「わたしの髪のことはいいので、聖女の証を渡してください。」
「あんた、いきなり来て、母さんの物を泥棒しに来たの。サイテー。」
9歳ぐらいのサクラ色の髪にキリリとした黒い目の少女が横から話を遮る。
「「サイテー」」
6歳ぐらいのサクラ色の髪にサクラ色の目、黒い髪にサクラ色の目の二人の少女がそれに続く。
シェリーはそれを無視し
「ここ最近、魔物の凶暴化が見られ、公都に至る中核都市で次元の悪魔が出ましたと言えば緊急性がわかりますか?」
ナオフミの目の色が変わる。
「なんやて?それどないしたんや。倒したんか。」
「倒しましたが、残り10年もありません。ですので聖女の証が必要です。」
「おい、お前。姉とかいいながら全然似てないし、母ちゃんの代わりに聖女になろうとしておこがましいのにもほどがある。今すぐ出ていけ。」
ユウマと名乗った少年がシェリーに掴みかかるがその手をカイルが遮る。
「シェリーの背負うものがわからないのに勝手な解釈をしてはいけないな。」
「お前は関係ないだろ。」
ユウマはカイルの手を振りほどき睨み付ける。
「大事な番が寄って集って攻められているのは、癪に障るな。」
カイルの目に殺気が帯びる。
「カイルさんダメですよ。母さんは本当はわかっていらしゃいますよね。聖女の役割を、勇者がしでかしたことをわかっていて目を反らし続けている。」
シェリーはまっすく聖女ビアンカを見つめる。
「シェリー手を」
聖女ビアンカは立ち上がりシェリーの前に立つ。
「母ちゃんそんなやつの言葉をうのみにしたらダメだ。」
シェリーは聖女ビアンカに手を差し出した二人の間に眩い光が放たれる。
「弱いわたくしがいけなかったのよ。大切な仲間を沢山失ってしまったことが、とても恐ろしかったのです。外に出てナオフミを失ってしまうことが一番怖かったのです。あなたに重荷を負わせてしまってごめんなさい。」
光は弾け空中に溶けるように消えた。シェリーは手を振って違和感をとる。今までにない体に巡る力を感じる。
「ビアンカ」
ナオフミがビアンカの肩を抱く。子供たちもその回りに集まってきた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
補足
魔法:魔力元素をそのまま使用すること。
例えば、火をともす。風をふかせる。土を動かす。など
魔術:魔力元素に動きをもたらす術を施行する。
例えば、火を飛ばす。つむじ風を起こす。土壁を作る。など
魔導:魔力元素を混合わせ、複雑な術式を施行する。
例えば、火と水で爆発を起こさせる。土と水で辺り一面汚泥化させる。氷と風で氷河雪原を作り出す。など
「シェリー、ササーキとは何?名前のような感じだけど。」
「勇者と謎の生命体にしか名乗っていない名前です。それ以外には名乗るつもりはありません。」
カイルはムッとする。番の己に名乗れない名前とはなんだ。
「佐々木さんその言い方やと勘違いしてまうで。」
「関西弁、腹が立ちます。威圧感で押しきり、値切りに値切られた取引先を思い出します。」
「あのときはよう勉強になったやろ。あんな兄ちゃん、俺と佐々木さんは同じ世界におったんや。まあ、仕事でお世話になった顔見知りっちゅう程度やけどな。俺にとって、あの世界が嘘でも夢でもない証拠でもあるんや。だから俺は佐々木さんなんや。」
「シェリーは違う世界から来た?」
「勇者は異世界生まれですが、わたしはこの世界生まれです。」
「佐々木さんは相変わらず頭固いなぁ。」
「父ちゃん」
子供の高い声が話を遮る。黒い髪に目付きの悪い黒い目の12歳ぐらいの少年だ。
「なんや、どないしたんや。」
「いきなり飛んでいって心配したんだ。こいつら誰?」
少年はシェリーとカイルを睨む。
「少年5年振りですが忘れてしまいましたか?」
「少年じゃねー。ユウマだ。お前なんてしらねー。」
「お前のねぇちゃんやって、ゆうたはずやけどなぁ。」
「父ちゃん浮気か。浮気は母ちゃんにおこられるわ。こわー。」
「ちゃうわ。ちゃんと父ちゃんと母ちゃんの子やで。」
「「え?」」
ふたつの声が重なった。
少年とカイルの声だ。
「え、あのお「認めたくはありませんが事実です。」」
シェリーが睨みながらカイルの声を遮った。
「とにかく母さんに会わせてください。」
(同居人の名前も存在も禁句です。)
極小の風魔法を使い、小声でカイルだけに聞こえる様に注意した。
家の中に入るようにナオフミに促される。中はロッジ風の作りになっていた。壁も床も木材でできて入り口は吹き抜けになっており、壁面にパイプラインが引いてあることから冬場に備えての仕様だろう。全体的に暖かみのある内装のようだ。
「上がってや。土足禁止やからな。」
広いワンフロアの奥には、ウッドデッキがありお茶をしている人たちがいる。
こちらに向いて座っている女性はサクラ色の髪にサクラ色の瞳、透き通るような白い肌に目鼻立ちがぱっちりとした美しい容姿でニコニコ微笑みながらイスに座りその周りには二人に似た子供が4人と女性の腕の中に一人いた。
「誰がたずねて来ましたの?」
母親らしき人がナオフミに聞く。
「一番上のねぇちゃんとその番や」
「まあ。シェリーが訪ね てきてくれましたの?でもその髪はどうしたのかしら?」
女性はシェリーの姿を確認し、不思議そうに首を傾ける。
「わたしの髪のことはいいので、聖女の証を渡してください。」
「あんた、いきなり来て、母さんの物を泥棒しに来たの。サイテー。」
9歳ぐらいのサクラ色の髪にキリリとした黒い目の少女が横から話を遮る。
「「サイテー」」
6歳ぐらいのサクラ色の髪にサクラ色の目、黒い髪にサクラ色の目の二人の少女がそれに続く。
シェリーはそれを無視し
「ここ最近、魔物の凶暴化が見られ、公都に至る中核都市で次元の悪魔が出ましたと言えば緊急性がわかりますか?」
ナオフミの目の色が変わる。
「なんやて?それどないしたんや。倒したんか。」
「倒しましたが、残り10年もありません。ですので聖女の証が必要です。」
「おい、お前。姉とかいいながら全然似てないし、母ちゃんの代わりに聖女になろうとしておこがましいのにもほどがある。今すぐ出ていけ。」
ユウマと名乗った少年がシェリーに掴みかかるがその手をカイルが遮る。
「シェリーの背負うものがわからないのに勝手な解釈をしてはいけないな。」
「お前は関係ないだろ。」
ユウマはカイルの手を振りほどき睨み付ける。
「大事な番が寄って集って攻められているのは、癪に障るな。」
カイルの目に殺気が帯びる。
「カイルさんダメですよ。母さんは本当はわかっていらしゃいますよね。聖女の役割を、勇者がしでかしたことをわかっていて目を反らし続けている。」
シェリーはまっすく聖女ビアンカを見つめる。
「シェリー手を」
聖女ビアンカは立ち上がりシェリーの前に立つ。
「母ちゃんそんなやつの言葉をうのみにしたらダメだ。」
シェリーは聖女ビアンカに手を差し出した二人の間に眩い光が放たれる。
「弱いわたくしがいけなかったのよ。大切な仲間を沢山失ってしまったことが、とても恐ろしかったのです。外に出てナオフミを失ってしまうことが一番怖かったのです。あなたに重荷を負わせてしまってごめんなさい。」
光は弾け空中に溶けるように消えた。シェリーは手を振って違和感をとる。今までにない体に巡る力を感じる。
「ビアンカ」
ナオフミがビアンカの肩を抱く。子供たちもその回りに集まってきた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
補足
魔法:魔力元素をそのまま使用すること。
例えば、火をともす。風をふかせる。土を動かす。など
魔術:魔力元素に動きをもたらす術を施行する。
例えば、火を飛ばす。つむじ風を起こす。土壁を作る。など
魔導:魔力元素を混合わせ、複雑な術式を施行する。
例えば、火と水で爆発を起こさせる。土と水で辺り一面汚泥化させる。氷と風で氷河雪原を作り出す。など
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