上 下
32 / 775
2章 闇と勇者と聖女

28

しおりを挟む
 食事が終わりお茶を飲んでいる間に、カイルが片付けまでしてくれた。前世も含め一人立ちしてから今まで家事をしてくれる人はいなかったので、シェリーは感動していた。
 このままいけばシェリーがカイルに落ちるのは時間の問題になりそうだ。

「シェリー、今日の次元の悪魔について知っている事を教えてくれないかな。」

 カイルは保管庫から自分用にワインを持ってシェリーの隣に座った。

「すべてオリバーから聞いた話だから、嘘か本当かは確証がない話です。」

「それで構わないよ。セイルーン竜王国では聞いた事がないからね。」

「次元の悪魔は魔物の凶暴化と同じように魔王出現の予兆として言われています。」

「魔王?20年前に倒されたというあの魔王?」

「そう、あと5年から10年程で復活するそうです。」

「え?いきなりそこいっちゃう?それもオリバーさんが言っていたの?」

「この情報は謎の生命体からの提供です。」

「絶対的な情報源だね。」

「30年前から大陸の所々で出現がみられたそうです。外皮が固く剣が通らない。魔術の効力が見られない。まさに人外な化け物ですね。豪腕な種族が外皮を切り、魔導に長けた者が肉体を焼く。それ以外のものたちが陽動に動く。それでやっと倒せるのです。」

「もしかしてトーセイのギルドマスターってその時活躍した人?」

「元々はシーラン王国の統括副師団長だったらしいです。騎士としても実力があって人々から慕われ、国の防衛ラインのギルドマスターなんて、擂り潰すほどこき使われそうな人員配置ですよね。」

 酷い言われようである。
 
「あと、魔導に長けたエルフ族にも協力を仰いだそうですが、あそこはエルフ族以外は滅んでもいいと主張したそうで、魔導王国のグローリア国に頼んだのが運のツキでしたね。」

「異界からの勇者召喚か。」

「多種族混合のシーラン王国、勇者率いる魔導部隊のグローリア国、聖女率いる補助魔術部隊のラース公国、軍国主義の魔道具攻撃部隊のマルス帝国、商業国の補給部隊のギラン共和国。以上の大陸の北部の国で構成された討伐部隊が、次元の悪魔と戦いで100分の1にまで減りました。」

「100分の1。」

「敗戦それも瀕死レベルです。残ったのは100人程です。魔王の戦いでは半数が亡くなり、そのたくさんの犠牲から次元の悪魔の特性がわかったそうです。
 まず、今回のように頭部がない者はザコです。知能が無いので体系の特徴にあった攻撃しかしません。今回の者は武力特化です。
 次に翼が有る者は空中戦になります。機動力特化です。
その次は体のどこかに目が有る者は魔眼を使います。一番厄介だったのが石化の能力だったそうです。
 最終形体は頭部がそれぞれに付随する者です。知能があり、人の心に付け入り同士打ちをさせたり、精神汚染で狂気化を誘発させたり、亡くなった方の8割の原因がこれに当たるそうです。」
  
「ねえ。シェリーは聖女として、全部一人で背負うつもりだったの。」

「そうですね。今回、凶暴化した魔物との戦闘は考えていましたが、次元の悪魔との戦いは想定外でした。聖女が2人存在している現在、わたしの力が万全ではないことは確かです。が、ザコを一発で仕留める事が出来なかったのも事実。あの人をおちょくる謎の生命体の思う通り行くのも癪です。色々考え直さないといけないようです。」 

 少し考えます。と言ってシェリーは部屋を出た。

 ソファに残されたカイルは今後を考える。
 ここの大陸とは遠く海を渡ったところにあるセイルーン竜王国では聞いた事がない話ばかりだった。
 カイルがこの大陸に来たのは魔王討伐の2年後だった。大陸の南側に上陸したため魔王とは噂話か吟遊詩人が歌う勇者の物語ぐらいで平和そのものだった。
 北に行けば行くほど戦いの跡は濃くなって行ったが、脅威が去ったあとの人々は笑顔が溢れていた。だから、このような話は噂にすら不思議なぐらい聞いたことがなかった。
 次元の狭間の話は聞いたことがある、突如として空が割れるのだと。だが、次元の悪魔については何もなかった。見たものが生きていないのか、口をつぐんだのか。その両方なのだろう。
 そして 、シェリーを聖女にしたこの世界の高位な存在はシェリーに凶暴化した魔物、次元の悪魔と魔王を討伐するように神託を示した。
 己を含めシェリーの番がシェリーを支えるために存在する。
 番が一人というのが常識のこの世界で受け入れられるかと言えば、無理だ。それが分かっているからシェリーは一人で背負う事を決めたのだ。
 他の番を受け入れられるか。
 受け入れなければならないのだろう。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...