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2章 闇と勇者と聖女

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 目を覚ませば金色の目が見える・・・。またか、昨日はカイルをソファーで寝るように促し、シェリーはベットで寝ていたはずなのに、毎回、目を覚ますと、この状況におちいっているのはなぜだろう。

「おはよう。シェリー。」

「ちっ。」

 朝から舌打ちをするシェリーだが、一度眠ると起きないシェリーにも問題はある。
 普通、野宿する場合は寝ていても気配ですぐに起きれるよう熟睡しないのだが 、シェリーの場合は大抵の生き物のなら不可侵の結界を張り、空間拡張のテントの中のベットで休息をとることで備わらなかった能力である。

 朝ごはんを食べ、外に出る。廃村には1晩『サンクチュアリ』をかけ続けた効果で黒い靄は発生していない。
 今日も街道沿いの町や村などの跡地で黒い靄を浄化していくつもりだ。もし、多少道を外れていても、シェリーの言う悪心の塊が周囲に被害をもたらしていたらそこまで足を伸ばすつもりでもある。
 なので、今日は公都への分岐点でもある中核都市まで行ければいい方だ。

 カイルに昨日と同じ様に町や村跡を見つけたら立ち寄ることを告げ、村跡を離れた。

 街道沿いの風景は変わらず、焦げた地面に立ち枯れの木、襲ってくる魔物は一様に真っ黒、スライムも一角ウサギも狼も黒い。その様な街道を進み、町や村跡の5箇所目の浄化が終わり6箇所目に差し掛かったとき、今までより大きく、黒い靄が濃く漂っている場所にたどり着いた。
騎獣を降りたカイルがいう。

「さすがに中核都市となるとこんな状態でも人がいるんだね。」

 カイルの目の前には中核都市の外壁と門が見え、その中には住んでいる人がいるそうだ。
 聖域浄化するには中心点で行うのが効率的なのだが、騎獣を降りたシェリーは都市の門の手前で進むのをやめてしまった。

「シェリーどうしたのかな?疲れた?具合が悪い?」

 カイルが心配になってシェリーに話掛けるが、シェリーには1メル程前にいるカイルの顔がやっと判別出来るぐらい何も見えなかった。

 確か5年前ルークの指導してもらう人を探すついでに半年かけて、焦土化した場所にある主要な街の浄化を行ったはずだ。
 
 現に国境沿いの城郭都市は人が住んでおり、黒い靄も辺りに漂う濃度と変わりがなかったので、放置した。今回は5年前に行けなかった小さな町や村を中心に浄化していこうと思っていたら、今までの所と比べてもここの靄の濃さは異常的だ。

「カイルさん、はっきり言うと、わたしはこれ以上進めません。都市の外壁も見えませんし、門に人がいるかもわかりません。」

 立っているところから門までの距離は10メル程である。

「カイルさんのいるところがギリギリ見えるぐらいです。」

「じゃ、しっかりと手を握っていないと迷子になっちゃうね。」

 そう言って、カイルはシェリーの手を握った。いや、正確には、腕を組んで歩きだした。
 シェリーは腕を外そうともがくが取れそうにない。

「シェリー、見えないのなら仕方がないよね。」

「っく。」

 正論はカイルの方にあるので、シェリーは口をつぐむしかなかった。

 横で歩くカイルは上機嫌である。
 しかし、第三者からみれば、笑顔のイケメンに死んだ目をした女が連行されて街の中央に向かって行っているのだ。警羅隊に通報しようか迷うところだ。

 中央に向かっているなかシェリーは大気の震えを感じ辺りを見渡す。黒い靄がどこかに移動しているのか徐々に視界が開けてきた。

「カイルさん、あっちの方向に急ぎましょう。」

 シェリーが指したところは奇しくも街の中央の方向だった。

「シェリー何かあったのか。」

 走りながらカイルは問う。中核都市なので中央付近まで3キロメルはあるだろう。

「わかりませんが、靄が移動しています。それも凄い速度です。大気も震えているのでとてつもなく大きな力が働きそうです。」

 シェリーの視界が完全にクリアになった。遮るものは何もない。
 目指している付近から大きな怒号が響き渡る、まわりの人々はいきなりの音に続き振動が辺りを揺らし腰を抜かしている人、慌てふためきパニックになる人も出ているようだ。
 目的地付近に近づくと強大な悪心の塊が出来ていた。まだ、間に合うかもしれない。シェリーは地面を蹴る力を強くする。もう少しで中央の広場にたどり着くというとき、空間が割れた。悪心の塊を取り込む様にヒビが入り黒い筋が縦に割れた。

「間に合わなかった。出てくる。」

「もしかしてこれが『次元の狭間』。聞いたことはあるが見たのは初めてだ。」

 ヒビ割れが大きく裂けた。そこから大きな黒い手が空の端を掴む。人々の叫び声が響き、中央の広場から人が逃げ惑う。

「シェリー何が出てくるかわかるか?」

 剣を抜き、臨戦体勢のカイルがたずねる。

「『次元の悪魔』」
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