上 下
48 / 121

48 凍りついた神殿

しおりを挟む
「神殿?」

 ジュウロウザが首を傾げて地図を見る。地図には何も記載はない。なぜなら、今では忘れられた神殿だからだ。

「冬の女神の神殿です。ここなら、神の加護があるので魔物が入ってきません」

「そういうことか、なら俺たちも出発しようか」

 いつの間にか広げていた料理器具が片付けられており、あとはベルーイに乗ればいいだけになっていた。
 おお、私が思考の海に没していた間にジュウロウザが片付けてくれていたようだ。

 私はジュウロウザにお礼を言って、ベルーイに近寄る。しかし、私も騎獣にぐらい一人で乗れるようになりたい。

 そして、ジュウロウザに抱えられベルーイに乗れば、『キュキュ』と見た目には合わない鳴き声を発したベルーイの青い炎で雪の壁を溶かして、雪の壁から外にでた。
 吹いてきた冷たい風にブルリと思わず震える。あの雪の壁は意味があったんだね。


 雪山を少し登ったところから、道を外れるように言い、雪の下の見えない山道沿いにベルーイを進めていく。
 私は時々道なき道をジュウロウザに指示していく。なぜなら、途中で雪の下にある道が崖の様に無くなっており、地面は存在せず、雪が積もっているだけの場所があるからだ。何があってそのような事になっているかわからないが、地面が無いところを進むのは不安があるので、崖の縁を進んで行った。

 魔物とは遭遇することもなく旧道を進んでいくこと2時間、目的の場所までたどり着いた。目的の場所と言っても一面雪しか無く、山側に雪の中から大きく突き出した岩があるだけだ。

「キトウさん。この辺りを進みたいのですけど」

 私はこのシュエーレン連峰の雪深い中、この辺りで唯一岩が見えている横を指し示す。雪が降り積もり、他の場所と何も変わらないように見えるが私の真眼を使えばその先に洞窟のような空洞が見える。

「了解した」 

 そうジュウロウザが言葉を発すると同時に、『キュキュ』というベルーイの鳴き声が聞こえ、青い炎が視界を占めた。
 雪が溶け出し奥へと続く岩肌が顕になった。そのまま炎を出しながら進んでいくベルーイ。凄い!
 ゲームでは確か偶然に見つけたんだよね。例のアレだ。雪華藤を発見したあとジュウロウザがパティーから抜け戦力が低下してしまった後のことだ。スノーベアー3体に囲まれながら、瀕死状態で逃げ一択だったときに、雪の窪地に落ちて、たどり着いたところだった。上から落ちたことでHPが残り1pになったけれどね。


 雪が完全に青い炎に溶かされ、暗闇がポッカリと口を開けて存在していた。鞄から魔道ランプを取り出し、光を灯す。しかし、前方は暗く確認できない。
 そのランプの周りしか明るくない空間を進むベルーイの足取りに迷いはない。やはり、人とは見える範囲が違うのだろうか。

 徐々に寒さが増してきた。保温機能がある衣服でも寒さが感じられるとは外気は相当寒いのだろう。

 洞窟の先が明るくなってきた。出口が近いのだろう。カポカポと進むベルーイの鬣に白い氷がまとわり付いてきた。よく見ると私が来ている外套も明らかに雪ではない白い結晶が覆ってきている。もしかして、選択肢を間違えた?
 しかし、ここまで来てしまった。魔物に命を脅かされるか。寒さに命を脅かされるかのどちらかだ。それなら、まだ私が対処しようのある寒さを取ったほうがいいだろう。

 光が満ちた空間にやっと出た。奥には白く美しい神殿がキラキラと輝き存在していた。手前には緩やかな階段があり、支柱が立ち並んだ外見に大きな屋根が上からの光に照らされ、ダイヤモンドダストが舞う中、美麗と表現していいのか、荘厳と表現していいのか。ただ、美しかった。
 上を見上げると建物の上にポッカリと光が入って来ている穴が大きく開いている。ゲームではあの穴から落ちたのだろう。しかし、少々高すぎないだろうか。よくそれで、生き残ったものだ。


 近づいていくと、白い建物は雪で出来ていると思われる。この大きさを雪で作れるのだろうか。氷像?いや、透明感が感じられないからやはり雪像といっていいだろう。

 階段の手前まで来て、ベルーイが立ち止まった。

「モナ殿。ここからどうするのだ?」

 確かにここまで寒いと大丈夫かという意味も込められているのだろう。それはもちろん、神殿の中に入るしかないでしょ。

「中に入ります。神殿の中央に祭壇があると思いますので、一晩の宿をお願いして、【瑞雪の間】という部屋を探しましょう」

 すると、ジュウロウザは私を抱えベルーイから下ろしてくれた。足元の雪は、雪というより氷と言っていいほど硬さがあった。これなら、私の足が埋もれることはないだろうと、右足を一歩踏み出すと、ズルリと右足が前に滑り、体が後ろに傾いた。ヤバイ!これはお尻を打つか、頭を打つ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。 父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。 そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。 しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。 ”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな” 失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。 実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。 オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。 その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...