上 下
16 / 121

16 その依頼キャンセルで

しおりを挟む
「モナちゃん。ちょっとこっちに来てくれない?」

 母さんがこっちを向いて手招きをしていた。しかし、私は首を横に振る。母さんの近くにフェリオさんがいる限り無理だ。

「モナちゃん。リアンに今度は何をされたのかな?」

 あまりにもの私の拒否具合にフェリオさんは疑問に思ったのだろう。だから、答えてあげた。

「ひと月前に肋骨にヒビが入りました」

 どういう状況でそうなったかと言えば、ひと月前、リアンと共にこのギルドに来ていた。前回は別の物を母さん達に送るために徹夜で作業していたことが祟って、ギルドに着いた時に荷馬車から降りようと立ち上がった。その時、立ちくらみがしたのだ。

 リアンは荷物をギルド方に持って行っていたので、目の前には居なかったはずなのだ。しかし、立ちくらみがし、体が傾いたところで、リアンの顔が目の前にあったのだ。

 そして、脇腹に唐突な痛みと目の前にリアンがいることで、パニックになる私。しかし、そこで暴れても怪我をするのは私の方なので深呼吸してなんとか落ち着いた。

 どうやらリアンは傾いた私の体を脇の下を持って支えてくれたみたいだった。これは、リアンの気づかいだと理解をし、お礼を言って荷馬車から下ろしてもらった。ただそれからも、家に帰ってからも、痛みが収まらず、ばぁちゃんに見てもらったら肋骨にヒビが入っていたのだ。

 勇者の力を舐めてはいけない。なぜ、私を支えただけで、骨にヒビが入るのか本当に意味がわからなかった。

「次はきっと肋骨が折れて、肺に突き刺さるんじゃない?実はそこのフェリオさんはリアンが化けていて、猛犬の様に突進してくるのではないの?と思ってしまう」

「モナちゃん。被害妄想が酷いわ」

 母さんが困ったような顔をして言うが、抵抗力のない私としては、生きるか死ぬかの問題だ。

 母さんは困ったわねと言いながら、フェリオさんから離れて、手招きをした。ビクビクしながら、ジュウロウザから離れ母さんのところに駆けていく。

「何?」

「これ、お小遣いね」

 そう言ってジャラジャラと音がするパンパンの革袋を渡してくれた。お小遣い?私は受け取りながら首を傾げる。

「リリーちゃんとキールくんの結婚式に出るのは諦めるわ。村に着いてモナちゃんがいないと分かれば、リアンくんも村に留まるのは諦めるでしょ?で、そのまま一旦王都に戻るわ」

 あ、うん。そうした方がいいと思う。あの三人は逃げ場が限られたダンジョンでは危険すぎる。

「騎獣だと、ここまで一日でなのよ。だから、モナちゃんがここにいるとリアンくんにまた遭遇するわけなの。それにまた村に寄りたいって言われそうだわ。
 だから、さっき言っていた王都に依頼を出しに行かない?路線馬車なら今から昼の便に間に合うわ。それで王都まで2日かかるからリアンくんに会うことないと思うのだけど?」

 私にはそれしか選択肢がないのだろうか。右手の重みのある革袋を見る。王都か。

「はぁ、わかったよ。リアンの仲間って言えばいいのかな?あのピンクの髪の人に回復魔術を使わせないのと、言うことを信じないでほしい。緑の髪の人は絶対に戦わせないで。それはフルプレートアーマーの人も同じ。」

 彼女達の活躍の場はここではない。村の周りは強い魔物はいないので、戦うことはないと思いたい。

「あら?あの少しだけで全員視たの?」

 母さんは私の真眼の事を言っているのだろうけど、残念ながら視てはいない。だけど、前世の記憶からなんて言えば、今より頭のおかしい子って思われるだろうから言葉を濁す。

「まあね。じゃ、私は武器を調達して王都に行くわ。絶対にリアンを王都で放逐しないでね!」

 そう母さんに言えば困ったような顔をされ、『何かあったらキトーさんを頼るのよ』と言って、母さん達はギルドを出ていった。え?なんでジュウロウザと一緒に行動する事が決まっているの?

 私の中ではジュウロウザを置いていくことは決まっている。

 王都に行くのに準備をしなければならない。踵を返して、依頼受付カウンターに向かう。

「すみません。先程渡した魔石を一部返却してもらうことは可能ですか?」

 王都で依頼をするのに良質な魔石は必要だ。

「ええ、大丈夫ですよ。まだ、依頼受領の手続きは終えていませんから。『翠玉の剣』と『金の弓』の方々ならこれぐらいでしょうか?」

 そう言って半分ほどの魔石を戻してくれた。『翠玉の剣』はSランクで『金の弓』はAランクの冒険者達なのだ。やはり、半分は必要か。

「ありがとうございます。因みに王都行きの路線馬車は何時に出ますか?」

「13時に出発ですね」

 そう言われ、ギルドの壁に掛かっている魔時計を見る。12時05分!一時間も無い!

 急いで依頼の受領手続きをしてもらい、近くの武器屋を教えてもらったので、そこに向かうためギルドを出る。

 何故か。なぜか隣にジュウロウザが歩いている。

「キトウさんは何故、私についてくるのですか?」

「モナ殿のお父上とフェリオ殿からモナ殿の護衛の依頼を受けた」

 何だって!!私が母さんと話していた時にそんな事をしていたの!

「その依頼キャンセルで」

「報酬は既に受け取ってしまったから無理じゃないだろうか?」

 ぐふっ!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。 父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。 そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。 しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。 ”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな” 失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。 実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。 オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。 その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...