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75 ダンジョンマスター

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「ダンジョンマスターに会いに来たんだが、会ってくれるか?」

 俺は神殿の入り口に向かって呼びかける。答えが返って来るとは思ってはないが、ここは正直に言った方がいいだろう。

『ああ、良いよ。』

 何処からともなく低い声が聞こえた。すると辺りの風景が変わり、何処かの屋敷の庭のように整えられた木々の壁が周りを囲んでおり、正面にはそこしか道がないと言わんばかりに開けていた。

『その道を来ると良い。』

 木々の間から聞こえる声の言われるまま足を前に踏み出そうとすれば、ルギアに抱えられてしまった。勝手に歩くなと、はぁ。また、歩かせてもらえないのか。

 ルギアに荷物のように運ばれながら進むと広い庭に出た。上を見上げると青い空が見える。ここは本当にダンジョンかと疑ってしまう風景だ。

『よく来た、小さな客人。』

 低い声がする方をみれば、緑の髪に金の目の男性がいたのだが、長い衣服の下から覗く足は無く、蛇の様な長い胴体と尾が地面を這っていた。ナーガか?

『座り給え。』

 指した先には庭にテーブルが置かれ、椅子が並べられていた。人数分の椅子と人数分の茶器。俺たちが来ることがわかっていた?

 俺の横にルギアが座り、俺の向い側にソルがその隣にジェームズが座った。そして、誕生日席にナーガのダンジョンマスターが席に着いた。

『さて、我に聞きたい事があるようだが?』

 やはり、なぜか俺たちがここに来た理由がわかるらしい。俺は会いに来たとは言ったが、質問があるとは言っていない。

「初めまして、俺はエンだ。聞きたいことは、ヤマタノオロチはこの世界に存在するのか?」

 横からルギアの視線を感じるが無視だ。

『そんな事が聞きたいのか?』

 ダンジョンマスターが金色の目を細めながら聞いてきた。

「色々だ。あんたは色々知っていそうだからな。」

『エンと言ったか。では、お前はその対価として我に何を差し出す?』

 ダンジョンマスターに話を聞くのに対価だ?何が欲しいのか見当もつかん。

「因みに黒髪のエルフはダンジョンを変更するのに何を差し出した?」

『とある物語だ。一人の女が生まれ死んでいった話だ。その女がいたところは想像もつかんところだった。金属の箱に乗って移動するだとか、高く聳え立つ建物が建ち並ぶ中、人々が暮していただとか、ワケの分からない話だったが、知らない世界を垣間見ることができてとても面白かった。』

 ああ、彼女の前世の話をしたのか。しかし、この世界に無いものを言葉で言い現すことは難しいだろう。

「じゃ、天津は何を対価にした?」

「「「え?」」」

 ルギアとソルとジェームズが驚くように声を上げ、俺を見る。ダンジョンマスターは面白そうに口を歪めた。

『我の知らない街を創り上げた。黒のエルフが言っている街はこの世界に合わないからと言って、別の国の街を実際に再現したと。』

 あのパリの街並みは対価だったのか、てっきり天津の趣味かと思っていた。ということは、この目の前にいるダンジョンマスターは知らない事を知ることを求めているのか。
 俺に干渉できるか?やってみるか。

「質問1つに対して、一つの情景を見せるというのはどうだ。例えばこのように。」

 俺はダンジョンマスターが作り上げている美しい庭に俺の魔力で干渉し、この世界に存在しないモノを魔術で描き出す。

「『空中楼閣の夢幻』」

 青い空はそのままだが狭く、多くのコンクリートで作られたビルに圧迫感を感じる。アスファルトの地面は忙しなく人々が行き交っており、その横には多くの車が通り抜けている。高架の上には幾度となく通勤に使用した環状線。毎日の様に目にした情景だ。

 皆一様に立ち上がり、周りを見渡している。しかし、幻影だが俺の体を人が通り抜けるのは気味が悪いな。人だけ見せないように出来ないか?そう思った瞬間、人々は消え去り、無人の都市が出来上がってしまった。これはこれで気持ち悪い。まぁ、情景だけだからこれでいいか。

「これが黒髪のエルフが言っていた世界だ。」

『素晴らしい。我はダンジョンから出られぬ身、ダンジョンの外に興味があるが、そんな事をすればこの身は朽ちてしまう。
 黒のエルフが言っている意味が分からなかったが、コレが聳え立つ建物。コレが金属の乗り物。素晴らしい。』

 俺は席に着き、あちらの紅茶と菓子をテーブルの上に並べだす。そして、皆に座る様に促し、まず前提条件を確認しよう。これは一番大切なことだ。これによりここに来た意味があったのか無かったのかがわかる。

「首都ミレーテはダンジョンか?」



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