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最終話 それぞれの幸せ
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「ねぇ、叔父上?明日晴れたら釣りに行きたいな?教えてくれる?」
「ああ、いいとも。何匹釣れるか競争しよう」
「えー、絶対負けるに決まってるよー」
「そんなのやってみないとわからないだろう?」
「…お姉様には勝ちたいな」
「よし!じゃあ頑張らないと!お姉様はいっぱい釣って帰ったぞ?」
「え?そうなの?えー、負けたくない!」
「はははっ、じゃあ早く寝て明日に備えよう。今日は何の本を読もうか?」
「えーとね……えっ…と…」
小さな男の子は沢山の絵本の前で選んでいるうちに眠ってしまった。
マクロスはその男の子を大切そうに抱えてベッドに運ぶ。
カイルとアイリスが初めての懐妊報告に来てから10年。
2人はニ男三女に恵まれ、入れ替わり立ち替わり子どもたちがフーラに乗せられてマクロスのところへ来ては、1週間ほど泊まって行く。
山暮らしを小さい頃からさせて精神力を鍛えてほしいなどと言われ、マクロスは体よく子守りを押し付けられている毎日だった。
しかし、マクロスはおかげで毎日賑やかな生活を送り、子どもたちも自然を知って延び延びと育っていた。
いずれその子どもたち5人のうちの誰かがジルコニア公爵家を継ぐことにしてくれるらしい。
(兄上、義姉上、本当にありがとう。僕は幸せだよ)
すやすや眠る子供の顔を見つめるマクロスの顔は本当の父親のように優しい顔をしていた。
「ねぇ、カイル?起きてる?」
「…ん?起きてるよ?アイリス眠ってなかった?」
カイルは眠そうにしながら、隣で横になっているアイリスにそう聞いた。
「変な夢見て起きちゃった」
「え?どんな?」
「木から落ちる夢」
「それは怖かったね」
そう言って、アイリスを優しく抱きしめた。
「それがね?小さなあなたが助けてくれるの。でも私怪我しちゃって、あなたがおぶってくれて、すごくかっこよくて大好きって思って、絶対結婚するーって叫んでるのよ?おかしいでしょ?もう結婚してるのにね?ふふふっ」
と、アイリスがおかしそうに笑った。
カイルは目を瞠る。
「その夢の中の怪我って左腕?」
「え?どっちかまでは覚えてないけど、ええ、腕だったわ?どうしてわかったの?」
カイルはアイリスの手を取って、袖を捲ると左腕の上の方を指差した。
「…⁉︎え?これって、…傷痕?」
「…その夢は僕と君が小さい頃体験した本当のことなんだよ。夢に記憶が出てきたんだね。
あの時は君を守りきれなくてごめん。傷なんか作ってしまって…」
「…この傷のおかげで、あなたはお嫁さんにしてくれるって言ってたわ。だから私は傷ができてよかったって思ったの。…それから結婚の約束をして…
これも本当のこと?」
「そうだよ?僕が10歳で君が6歳の時の事だから忘れて当然なのに、僕は間抜けにも真に受けてしまって…ほんとに馬鹿な男だろ?」
「カイル!」
アイリスはカイルに抱きついた。
「私ったらそんなことも忘れてあなたから逃げてたなんて、信じられない!ごめんね、本当にごめんなさい」
「いいんだよ。僕も記憶喪失になって、2人はあの出会いで良かったんだ。令嬢でも王子でもなく、ただの人間として愛し合えたんだから。君に出会えて本当によかった。…大好きだよ、アイリス」
2人はあの頃の狼と少女のように、寄り添って幸せな眠りについた。
fin
「ああ、いいとも。何匹釣れるか競争しよう」
「えー、絶対負けるに決まってるよー」
「そんなのやってみないとわからないだろう?」
「…お姉様には勝ちたいな」
「よし!じゃあ頑張らないと!お姉様はいっぱい釣って帰ったぞ?」
「え?そうなの?えー、負けたくない!」
「はははっ、じゃあ早く寝て明日に備えよう。今日は何の本を読もうか?」
「えーとね……えっ…と…」
小さな男の子は沢山の絵本の前で選んでいるうちに眠ってしまった。
マクロスはその男の子を大切そうに抱えてベッドに運ぶ。
カイルとアイリスが初めての懐妊報告に来てから10年。
2人はニ男三女に恵まれ、入れ替わり立ち替わり子どもたちがフーラに乗せられてマクロスのところへ来ては、1週間ほど泊まって行く。
山暮らしを小さい頃からさせて精神力を鍛えてほしいなどと言われ、マクロスは体よく子守りを押し付けられている毎日だった。
しかし、マクロスはおかげで毎日賑やかな生活を送り、子どもたちも自然を知って延び延びと育っていた。
いずれその子どもたち5人のうちの誰かがジルコニア公爵家を継ぐことにしてくれるらしい。
(兄上、義姉上、本当にありがとう。僕は幸せだよ)
すやすや眠る子供の顔を見つめるマクロスの顔は本当の父親のように優しい顔をしていた。
「ねぇ、カイル?起きてる?」
「…ん?起きてるよ?アイリス眠ってなかった?」
カイルは眠そうにしながら、隣で横になっているアイリスにそう聞いた。
「変な夢見て起きちゃった」
「え?どんな?」
「木から落ちる夢」
「それは怖かったね」
そう言って、アイリスを優しく抱きしめた。
「それがね?小さなあなたが助けてくれるの。でも私怪我しちゃって、あなたがおぶってくれて、すごくかっこよくて大好きって思って、絶対結婚するーって叫んでるのよ?おかしいでしょ?もう結婚してるのにね?ふふふっ」
と、アイリスがおかしそうに笑った。
カイルは目を瞠る。
「その夢の中の怪我って左腕?」
「え?どっちかまでは覚えてないけど、ええ、腕だったわ?どうしてわかったの?」
カイルはアイリスの手を取って、袖を捲ると左腕の上の方を指差した。
「…⁉︎え?これって、…傷痕?」
「…その夢は僕と君が小さい頃体験した本当のことなんだよ。夢に記憶が出てきたんだね。
あの時は君を守りきれなくてごめん。傷なんか作ってしまって…」
「…この傷のおかげで、あなたはお嫁さんにしてくれるって言ってたわ。だから私は傷ができてよかったって思ったの。…それから結婚の約束をして…
これも本当のこと?」
「そうだよ?僕が10歳で君が6歳の時の事だから忘れて当然なのに、僕は間抜けにも真に受けてしまって…ほんとに馬鹿な男だろ?」
「カイル!」
アイリスはカイルに抱きついた。
「私ったらそんなことも忘れてあなたから逃げてたなんて、信じられない!ごめんね、本当にごめんなさい」
「いいんだよ。僕も記憶喪失になって、2人はあの出会いで良かったんだ。令嬢でも王子でもなく、ただの人間として愛し合えたんだから。君に出会えて本当によかった。…大好きだよ、アイリス」
2人はあの頃の狼と少女のように、寄り添って幸せな眠りについた。
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はじめまして。
とても素晴らしいお話でした👍
特に山小屋での二人の生活はワクワクします
アイリスの父譲りな性格は
好ましく、父である公爵の子供の頃〜若い頃の
お話も読んでみたくなりました
フーラのお話もあるとよいなぁ。
勝手にTwitterにシェアしました
よろしかったでしょうか
他作も拝読したいと思います
GWに心地よいお話に出会えて
幸せです
ありがとうございました
そんな風に思ってくださって本当にありがとうございます‼︎
最近こんなことして何してるんだろう…と落ち込んでたのでf^_^;次作を出すのも迷っていましたが、とっても励みになりました٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
Twitterでシェアまでして頂いて、感謝しかありません(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
父やフーラのスピンオフ、確かに面白そうですねΣ(*゚∀゚*)
またいつか書いてみたい(≧∀≦)
小気味良い女主人公は今回が初めてだったので、他作はがっかりさせてしまうかもしれないと心配ですが、もし良ければご一読頂けると幸いです(*^▽^*)
最後までお読みくださり本当にありがとうございました!感謝m(_ _)m感謝
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最後までお読みくださり本当にありがとうございました(*≧∀≦*)
マリーサ……素直にマクロスの迎えを待っていれば、浮気癖さえ許してくれたのに…(T ^ T)
せっかく処刑を逃れたのになぁ…
でもマクロスはまぁまぁのヤンデレ気質なので、ずっと離れない墓標を眺めているだけで幸せなのです…:(;゙゚'ω゚'):
公爵と子どもたちのおかげで明るく過ごせて、歪みも矯正されそうで本当によかった…
子どもたちを送り込んでいるのは、もちろんカイルとアイリスの配慮というわけなのです(*´꒳`*)
フーラはもう
カイルよりアイリスの虜ですね( ̄▽ ̄)
きっとカイルが魂になってもアイリスから奪うことはないかもです(^_^)v
最後までお読みくださって本当にありがとうございました!沢山感想を頂けて大きな励みになりました╰(*´︶`*)╯♡
心より 感謝m(_ _)m感謝 申し上げます!