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56話 恐ろしい記憶

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「エレナ?大丈夫か?どうしたんだ⁇」

泣き止まないエレナを救護室のベッドに座らせ、アークも隣に座ると背中を撫でて落ち着かせようとした。

「ア、アークさまっ、私をっ、私をっ、嫌いにならないで!」

エレナは壊れたように泣き叫びながら、アークの胸にしがみついて離れない。

「エ、エレナ⁈どうしたんだ、一体。
どうして俺がエレナを嫌いになるんだよ?
こんなに好きなのに…エレナ、分かってないのか?俺の気持ち」

あまりのエレナの有り様にアークは動揺した。

「知ってます、よく知ってます。!
でもっ、でも!これから私を嫌いになってしまって、婚約まで辞めちゃうんです!変わってしまうんです……ぅっう…嫌、もう嫌、あんなこと…アーク様、アーク様、私っ、アーク様と結婚したかった…アーク様のそばにいたかったのに…ぇっえっくっぅっアーク様、アーク様、アーク様、私を捨てないで!」

子供のように嗚咽を上げて泣くエレナに、アークはただ事ではないと感じた。

「ちょ、ちょっと落ち着いて?エレナ?」

しがみついて離れないエレナに、冷静にわけを聞こうと引き剥がそうとした。

しかし、あまりに強く抱きついていて、絶対離さないようにしようとするエレナを、どうしてあげたらいいかわからなくなったアークは、

そっと抱きしめ返して、泣きじゃくって震えるその背中を撫でた。

「エレナ?大丈夫。俺は好きだよ?
エレナを大好きだ。死ぬまでずっと一緒だ。
絶対に変わらないよ。こんなに好きなのに」

アークがいくら愛を囁こうとエレナは首を横に振り続けた。


——コンコン

「すまないが取り込んでるんだ。緊急じゃなかったら少し待って貰えないか?」

アークは部屋の中からノックにそう返事をした。

「兄上、フェリスです!エレナが救護室に運ばれたと聞いて気になって。大丈夫でしょうか⁉︎」

「ああ、お前か、ちょっと待ってくれ」

焦ったようなフェリスの声に向かってそう言うと、小声でエレナに声をかける。

「フェリスを入れても大丈夫か?」

エレナは小さく頷いた。

「フェリス、入っていいぞ」

中に入ってきたフェリスは、幼い子のように泣きじゃくって、アークにしがみついて離れないエレナを見て、何事があったのかと激しく動揺した。

何故なら、

フェリスは前回と同じ入学時とまではいかなくても、せめて進級前には戻れるのかと思っていたら、

大魔女に渡す寿命が短くなっていたせいか、死に戻る期間が狭まり、あの一番あやしいカトリーナの入学初日に戻ってしまって、

どう対処すべきか焦っていたところに、もうこの始末だ。

嫌な汗が背中を伝う。

「兄上、エレナはどうしたの?」

「それが全くよくわからないんだが、さっきからこの調子で困ってるんだ。

俺がエレナを嫌いになるとか、捨てるとか、婚約解消するとか、そればかり繰り返してる。

どんなに俺の気持ちを伝えても、今はそうでも、もうすぐ変わるんだって言って聞いてくれない」

「エレナ⁉︎君、…覚えてるのかい?」

思わず言ってしまったフェリスの言葉を聞き逃さなかったエレナが、ガバっと振り向き、

あの夢を思い出したエレナは怯えた目でフェリスを見た。

「フェリス…あなたも…なの?」

フェリスは全て言うかどうか迷ったが、自分が死神だと伝えるのは混乱を招く気がして伏せておいた。

それにエレナが何周目のことを言っているのかもわからない。

まずは探ることにした。

「エレナは…何を知ってる?…最後だけ教えてくれないか?」

最後、と聞いて、エレナはフェリスが同じ事を知っているのだと確信して答えた。

「一つ前は婚約発表の会場で、たぶん毒を盛られて死んだわ。その前は処刑されて首を刎ねられて死んだ。…フェリスは…何を知ってるの?」

「…全部だよ」

恐る恐る尋ねるエレナに、フェリスは真面目な顔でそう言うと、エレナは驚いて目を瞠った。

2人が何を言っているのか検討もつかないアークは完全に置いてけぼりだった。
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