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71話 腕のいい側近
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ミラはベッドから降りていつものゲートを探したが、見当たらない。
…消されてる…
それに気づくと、どうしようもないことが分かり、その場に力なく座り込んでしまった。
そうしていると、アレスの悲し気な顔、寂しそうな顔、綺麗で優しい笑顔、色んなミラに見せてくれた顔が頭に思い浮かんで、ミラは涙が止まらなくなった。
そのミラの啜り泣く声を、扉の向こう側で聞いていたカーティスは、耳を手で押さえ去って行った。
———ガチャガチャ
しばらくして、扉の鍵が開けられる音が聞こえ、
カーティスが戻ってきたのかと、ミラは思った。
ガチャ
と、扉を開けて入って来たのは、リカルドだった。
ずっと、床のカーペットの上に座り込んだままのミラの前に、リカルドもそっと一緒にしゃがみ込み、ゆっくりとミラの背中をさすった。
「大丈夫ですか?ミラ様?」
可愛いらしい顔が心配そうな表情になって、ミラの顔を覗き込む。
「…すみません、私、…その、話を聞いてしまいまして。ミラ様、あちらの王子を好きになってしまわれたとか?」
どう答えていいかわからずに、ミラはリカルドを無表情で見た。
「…人間が死ぬまでの時間は、私たちにとってはほんの一瞬。…でも、一瞬で失われる命だからこそ、限られた時間を共に過ごしたいお気持ち…良く分かります」
少し悲しそうな顔をして、魔神なのにミラの気持ちを慮ってくれたリカルドに、ミラは目を瞠る。
「…行きたいですか?…その王子のところへ」
ミラは静かに頷いた。
「…あーあ、ほんとはカーティス様を裏切るようなこと、したくないんですけどね?」
と言いながら、リカルドは立ち上がる。
「せっかく明るくなっていたあなたが、またあの出会った頃の寂しそうな顔をしているのもどうかと思いますから…
気の済むようにされて、その後またこちらへ戻られればよろしいでしょう?」
そう言って優しく微笑むと、
リカルドは人間界へのゲートをミラの前に作って見せた。
「ふふっ、私もけっこう腕のある魔神ですからね?このくらい簡単なんですよ?さぁ、どうぞ、行ってらっしゃいませ」
リカルドはゲートの横で、ミラに礼をしながら言った。
ミラはふらふらと立ち上がり、リカルドに泣きながら、ありがとう、と言うと、急いでゲートに飛び込んだ。
…消されてる…
それに気づくと、どうしようもないことが分かり、その場に力なく座り込んでしまった。
そうしていると、アレスの悲し気な顔、寂しそうな顔、綺麗で優しい笑顔、色んなミラに見せてくれた顔が頭に思い浮かんで、ミラは涙が止まらなくなった。
そのミラの啜り泣く声を、扉の向こう側で聞いていたカーティスは、耳を手で押さえ去って行った。
———ガチャガチャ
しばらくして、扉の鍵が開けられる音が聞こえ、
カーティスが戻ってきたのかと、ミラは思った。
ガチャ
と、扉を開けて入って来たのは、リカルドだった。
ずっと、床のカーペットの上に座り込んだままのミラの前に、リカルドもそっと一緒にしゃがみ込み、ゆっくりとミラの背中をさすった。
「大丈夫ですか?ミラ様?」
可愛いらしい顔が心配そうな表情になって、ミラの顔を覗き込む。
「…すみません、私、…その、話を聞いてしまいまして。ミラ様、あちらの王子を好きになってしまわれたとか?」
どう答えていいかわからずに、ミラはリカルドを無表情で見た。
「…人間が死ぬまでの時間は、私たちにとってはほんの一瞬。…でも、一瞬で失われる命だからこそ、限られた時間を共に過ごしたいお気持ち…良く分かります」
少し悲しそうな顔をして、魔神なのにミラの気持ちを慮ってくれたリカルドに、ミラは目を瞠る。
「…行きたいですか?…その王子のところへ」
ミラは静かに頷いた。
「…あーあ、ほんとはカーティス様を裏切るようなこと、したくないんですけどね?」
と言いながら、リカルドは立ち上がる。
「せっかく明るくなっていたあなたが、またあの出会った頃の寂しそうな顔をしているのもどうかと思いますから…
気の済むようにされて、その後またこちらへ戻られればよろしいでしょう?」
そう言って優しく微笑むと、
リカルドは人間界へのゲートをミラの前に作って見せた。
「ふふっ、私もけっこう腕のある魔神ですからね?このくらい簡単なんですよ?さぁ、どうぞ、行ってらっしゃいませ」
リカルドはゲートの横で、ミラに礼をしながら言った。
ミラはふらふらと立ち上がり、リカルドに泣きながら、ありがとう、と言うと、急いでゲートに飛び込んだ。
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