【完結】魔女のおしごと

かまり

文字の大きさ
上 下
1 / 80

1話 魔女のおしごと

しおりを挟む


人間にとって家畜とは、牛さんや豚さん、それに鶏さんなんかが有名なのでしょうか?

私たち魔界人も、それを食べることはできますが、一番美味しいのは、やっぱり人間の放っているエネルギー。

それも極上なのは、ネガティブな感情がしっかりこもった、マイナスエネルギーですね。

ですが、ネガティブなエネルギーを出してくれる動物は本当に限られています。

なぜなら、知能がないと、怖がったり、苦しんだり、悪いことを考えたり、何かを強く欲しがったりしないでしょう?

だから、私たち魔界人にとって、一番大事な家畜は人間なのです。

大切に怖がらせて、大切に苦しめて、大切に欲望を掻き立たせないといけません。

数が減ったら困りますから、死なないように、大切に、ネガティブな感情を育てて、

そのエネルギーをおいしく頂きます。

魔界人には色々います。

魔王様に始まって、魔獣や人型をした魔女、姿を持たないエネルギーだけの存在。

でも食べる物はみんな同じ、マイナスエネルギー。

ただ、うまく人間から集めるには、人型でないとやりにくいので、

家畜を育てて、食材を集めるお仕事は魔女にしかできません。

だから、魔女は魔界の中でとても重宝され、たくさんのお給料を頂いています。

かく言う私もその1人。…でした。

魔女として存在してから、もうどれくらいになるのか…

初めてお仕事をしに行った時、人間たちは

人間の体の何十倍も大きい獣に、石のオノで立ち向かって行くような、無謀なことをしていましたね。

あの頃は、それくらいでは人間たちは怖いとも感じなくて、なかなか仕事が捗りませんでした。

それに、まだまだ数も少なくて、とてもじゃないけど、魔界人のお腹を満たすことができなくて、大変でしたね。

今思えば、あの頃の魔界人は食糧難でした。

でも、色んな魔女たちと会議して、とりあえず人間を長生きさせて、たくさん子どもを産めるように、

飼料になりそうな植物や魚、肉などが簡単に手に入るよう、家畜の近くにそっと誕生させて、

私たちの大切な家畜たちはどんどん数を増やして行きました。

だけど、数は増えたものの、飼料が手に入ると、急に人間たちは穏やかになってしまい、

数は足りているのにエネルギーが得られないというとんでもない事態に陥りました。

だけど、私は思いついたのです。

この増えた家畜たちにいっぺんに恐怖を与えてはどうかと。

そうすれば、莫大なエネルギーになるはず。

だから、私は家畜の中で一番ムダに偉そうにしていた

何匹かの、『王』という名の家畜のそばへ占い師の格好をして近寄り、

「あっちの王があなたを狙ってたよ」

「そっちの王とあっちの王が一緒になって、あなたのところへ攻めてくるらしいよ」

なんて、けしかけてあげた。

それだけで、本当に他愛もない家畜は大きな争いを始め、

莫大な恐怖と苦しみ、欲望のエネルギーが生まれました。

魔界人は大喜びで、魔界を救った魔女だと私は一躍有名魔女となりました。

噂では『奇跡の魔女』とも言われていたそうです。

しかし、喜んでいたのも束の間で…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

処理中です...