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25話 迷い

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 ルシファーは牢の中の硬いベッドの上で静かに目を閉じ、ラルフに言われたことを何度も反芻していた。

 最初の頃とは打って変わって、今は叫んだりしていない。

 別に牢生活で体調が優れないわけではなく、ルシファーはルシファーなりにラルフに言われたことについて考えていたのだ。

 あの言葉には敵ながら思わされるところがあり、あれから答えが出せないまま考えが堂々巡りしていた。

 自分の想いを貫こうと躍起になっていたが、その行動がエリーゼを不幸にしてしまうのかと思うと、こわかった。

「随分大人しくなったようだね?従者くん?ちょっとは反省したのかい?」

 ラルフの声が聞こえて、ルシファーはガバッと体を起こす。

 笑顔のラルフが牢の前に立っていた。

 ルシファーは急いでラルフの前までいくと、冷たい鉄柵の棒を握りしめて叫ぶ。

「ラルフっ!クソッ、いい加減ここから出せっ!」

「うーん…なかなか面倒なことになったんだよ。どうしようかと思ってね…
君をバリスタに返そうにも返せなくなったんだよね…」

 ラルフは腕組みをして困り顔で首を傾げた。

「どういうことだっ!」

「はぁ…うちの陛下は人格者なのはいいけど、お人好しが過ぎるんだよ。

君のことはね、バリスタに帰ったと報告してあるんだ。

けど陛下が、姫君が寂しそうだから君を呼び戻せって言うんだよ」

「じゃあ早く出せよ!それで問題解決じゃないか!」

「はぁ…そんなわけないでしょ?君たち2人をくっつけてどうするんだよ。そんなの問題だらけじゃないか」

「………」

 大人しく黙ったルシファーを見て、ラルフはニコリと笑顔になる。

「君も少しは分かってくれたようでよかったよ。じゃあ…できそうかな…?」

「…何をだ?」

「取り引きをだよ。
バリスタにも戻らない、姫君の前にも姿を現さない、事故で死んだということにすると約束してくれるなら、君の行き先、住まい、死ぬまで働かなくても贅沢して生きられるだけの金銭は補償しよう。

しかし、それが出来ないなら君には本当に消えてもらうしかない。

バリスタからここへ戻ってくる旅の途中で事故に遭ったとでも言えばなんとでもなる。

けどね、私も別に無駄に人の命を奪いたいと思うほど鬼畜じゃない。大人しく出て行ってさえくれれば、君のことを追ったりはしないよ。どうだい?」

「……少し、……考えさせてくれないか?」

「……本当は急いで貰いたいところだが、考えるようになっただけ進歩なのかな。  

…いいよ、わかった。  

バリスタに手紙が届くはずの日数と、そこから君が戻るのにかかるだろう日数、合わせて10日。これ以上は待てない」

「…わかった」

「じゃあ10日後に結果を聞きに来よう。まぁ、答えは決まってるだろうけどね。生か死か、2つに1つなんだから。それじゃ、手を汚さなくて済むことを期待して待ってるよ」

 ラルフはそう言って踵を返すと、後ろ手にひらひらと手を振って去って行った。

 その後ろ姿を見送ることなく、ルシファーは鉄柵にしがみついて頭をぶつけた。

「…クッソ…どうする…どうすれば…
…エリーゼのそばにいるのはそんなに悪いことなのか…ただ…そばにいて守ってやりたいだけなのに…」

 ルシファーは項垂れた。

 エリーゼのそばにいられないなら生きていることがあまりに無意味で、殺されるのも悪くないかとさえ思ってしまう。

 何が正しい選択なのか、結局すぐに答えは出せなかった…
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