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20話 初恋

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 フィリップはエリーゼを部屋に送ると、自分も執務室に戻っていた。

 相変わらず書類が山積みにされている。
 いつもならそれを手際よく捌いていくのだが、今日はなかなかその山が減っていかなかった。

「陛下…?時計と睨めっこしてどうしたんです?さっきから書類が全く進んでいないようですが?」

「別になんでもない」

 指摘されて自分がぼんやりしていたことに気付いたが、なんでもないフリをして書類に目をやった。

「…ふーん…そう言えば、ここからよくお庭が見えましたよ?楽しかったですか?」

 ラルフは窓の外を眺めながらしれっとした顔でそう言った。

「ラ、ラルフ!お前、見てたのか!」

 ガタンッと椅子から立ち上がり、フィリップは顔を真っ赤にして怒った。

「いやだなぁ、見えたんですよ、たまたま。まぁまぁ落ち着いてください。よかったじゃないですか。陛下がそんなに楽しそうなところを見るのは私も初めてなんですから、こんなに喜ばしいことはありません」

 ラルフはニコニコしてそう言うと、フィリップの肩を押さえつけて椅子に座らせた。

「はぁ…ラルフ、からかうのはやめてくれ。私も自分がよくわからないんだから…」

「つまり遅咲きの初恋というわけですね?」

「なっ⁉︎」

「だってそうでしょう?あんなに楽しそうに散歩して、戻ってきたと思ったらもうそわそわして時計を見て。早く会いたい証拠じゃないですか。それを恋と言わずに何と言うのです?」

「わ、私が恋?…4つも歳下のあの姫に…?」

 フィリップの目は動揺し狼狽えていた。

「恋に年齢など関係ないでしょう。よかったですね、初恋相手を正妃にお迎えすることができて」

 ラルフは満面の笑みでフィリップを見る。
 しかしフィリップは俯いて黙ってしまった。

「……」

(初恋相手が…正妃…恋…これが…)

「何です?嬉しくないんですか?」

「それは…その…もういい!ラルフ!少し一人にしてくれ!気が散って仕事が進まぬ!」

 いつも冷静なフィリップが珍しく声を荒らげた。

「はいはい。ではしっかりお仕事捗らせて、夕食には間に合わせてくださいね」

 それだけ言うと、ラルフはニコニコして部屋を出て行った。

「はぁ…たく、ラルフめ。…しかし…そうか…恋か…」

 言葉に出してみると、それは本当にそうであるように感じ、初めての感情に戸惑いながらも、恋とはこんなに華やいだ気持ちになるものなのかと、自分でも驚いた。

 ふと、さっきまでいた庭をぼんやり見つめながら、フィリップはエリーゼの残像を追った。
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