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拷問1日目 〜夜時間〜

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「…報告は以上で御座います。」
「うむ。ご苦労。」

リーモンから拷問の報告を聴き終えた魔王が姿勢を正す。

「本来ならば依頼をした当日に告げるべきだったが、貴様に忠告が3つある。」
「なんでしょうか。」
「ひとつ。殺すな。
彼奴は伝説の勇者の息子とはいえ脆弱な人間。
容赦は無用だが、あまりやり過ぎるな。
ふたつ。侮るな。
彼奴は虐げられる立場だが、実力は確かだ。
我が施した拘束を外したり、無断で牢の外へと出す等の行為は、貴様の死を意味するものと思え。
みっつ。絆されるな。
彼奴は勇者。我々魔族の敵だ。」
「はい。深く肝に銘じておきます。」
「うむ。拷問については以上だ。だが…」

言葉を途切れさせた魔王に、リーモンは首を捻る。

「貴様に客が来ている。
客室で待機させておるから、しもべどもに案内させるといい。」
「畏まりました。」

リーモンは更に首を捻った。

(客?誰だ?皆目見当付かねえ。)

曲者揃いの拷問吏の中でも特に変わり者であるリーモンは、親しい間柄の者が少ない。
ましてや面会のためだけに魔王陛下のお膝元にまで来訪する者など、予想がつくわけがない。
リーモンは半ばおっかなびっくりで扉を開けると、其処には見知った顔があった。

「…ああっ!!?」

思わず声を荒げてしまい、咳払いで誤魔化す。
急いで扉を閉め、椅子に座り、部屋の片隅で此方を監視するしもべに目を遣り、改めて来訪者に向き直る。

「一体どうしたんですか…師匠。」
「……」

リーモンに師匠と呼ばれたその男は、何処かの民族のそれのようなゆったりとした衣装を着ており、僅かに俯いていた頭を上げる。

「大役を任された弟子を懸念するのは、師として当然のこと。」
「気持ちはありがたいんですけど…もう何年も顔を見せてなかったのに。
それに陛下の依頼を何処で知ったんですか?」
「忘れたか?私には数多の『耳』があることを。」
「ああ…」

師匠は少し姿勢を崩す。

「調子はどうだ?」
「まだ初日ですが、見込みはあります。
彼奴に俺の拷問は有効でした。」
「ほう。たしか伝説の勇者の息子だったな。」
「はい。これまで数多くの拷問を受けても口を割らなかったようでしたが、師匠の教えを胸に尽力しました。」
「うむ。それを聞いて安心した。」

師匠はリーモンを見据えて、静かに口を開く。

「サディストにとって加虐は愛の行為。
加虐の真髄は相手のために行うこと。
真に有能で、真に誠実で、真に愛情深い者でなければ、真のサディストにはなり得ない。
私の教えをよく理解しているようだな。」
「はい。新米の頃から何度も聞いて、その度に頭に叩き込んできたことですから。」
「フッ…」

師匠は席から立ち上がる。

「また来よう。何かあったら遠慮なく相談するといい。
今日はもう遅い。明日に備えてよく睡眠を取れ。」
「はい。おやすみなさい。」

魔王城を出る師匠を見送ってから、リーモンは自室に帰った。
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