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27.魔法壁
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──撃たれる……!!
覚悟を決めた、その刹那。
不意に目の前に半透明の青い壁のようなものが出現し、弾丸が跳ね返された。
「ハンスさん! これって……」
「船の周囲に『魔法壁』を張ったんだ。ただ、この魔法壁を張れるのは一定時間だけだからな。対岸まで持ち堪えられるかどうかわかんねぇが……やるしかねぇよな」
ハンスは、自分に活を入れるようにそう言った。
「くっ……小癪な真似を! あなた達も、早く武器を取りなさい!」
焦燥感を露わにしつつも、セシル女王は周りにいる騎士達を鼓舞する。
騎士達はやがて彼女と同じように魔法銃を構えると、一斉に射撃してきた。
キィン! という音がしたかと思えば、魔法壁にぶつかった弾が次々と水面に落下していく。
対岸まで、あと半分ほど。世界でも有数の大きな川だけあって、渡り切るのに相当労力を要する。
「怯むな! 何としても、あの壁を壊すのだ!」
「うおおおおお!!」
騎士団長と思しき男が勇躍すると、一気に他の騎士達の士気が上がった。
暫く攻防戦を続けていると、やがて目の前の魔法壁に異変が起こる。
ピキッ、という小さな音が聞こえたかと思えば、僅かに表面に亀裂が入っているのが確認できた。
「魔法壁にひびが……!」
一秒でも長く持ち堪えてほしい。
けれど、そんな私の願いとは裏腹に亀裂は深くなり──ついに、パリンと大きな音を立てて魔法壁が破壊された。
「今です! 撃ちなさい!」
セシル女王の合図とともに、一斉に射撃が開始された。
……が、騎士達の様子が何かおかしい。成り行きを見守っていると、突然一人の騎士の魔法銃が爆音とともに爆発した。
──魔法銃が暴発した……?
騎士の両手は爆発ともに吹っ飛び、狼狽した彼はバランスを崩して川へと落ちた。
──それを皮切りに。次々と他の騎士達の銃も暴発を始めた。
苦痛のあまり自ら川に飛び込む者、即死した者、瀕死の状態で神へ許しを請う者──まさに、地獄絵図としかいいようがない光景が目の前に広がっていた。
「ハンスさん、これって……」
「魔法銃は、使い方を誤ると暴発を起こすんだ。つまり、乱射は禁物ってことだな。奴らは、それを知っていながら強引に押し切った──まあ、自業自得というやつだろう」
「それじゃあ、私達助かったのね!」
そんなやり取りをしつつ、私はセシル女王の方に視線を移す。
彼女は呆然とした様子で周りを見渡していたが、やがて何かに気づいた様子で手に持っていた銃を川に投げ捨てようとする。
だが、時すでに遅し。魔法銃は一際大きな音を立てて爆発し、その衝撃でセシル女王の華奢な体は川へと放り出された。
──ドボンッ!
一国の女王が川に落ちたというのに、助けようとする者は誰もいない。
いや、助ける余裕のある者など最早残っていないといった方が正しいだろうか。
「だ、誰か! 誰か私を助けなさい! 早く! う……がはぁっ……」
怪我の程度は定かではないが、恐らく重症を負っていて泳げる状況ではないのだろう。
抵抗も虚しく、セシル女王は藻掻きながらも川底へと沈んでいった。
ふと辺りを見渡してみれば、術の効果が切れたのかいつの間にか幻影達も姿を消していた。
「放っておけば、奴らはやがて全滅する。対岸まで急ぐぞ、二人とも!」
「おう!」
「ええ!」
私達三人が顔を見合わせて頷きあった次の瞬間。
ふと、背後に冷たい視線を感じて思わず振り返る。
「待ちなさい、アメリア!」
前世の両親──父トマと母マリアだった。
二人が乗っている船は、みるみるうちに私達が乗っている船との距離を詰めてくる。
向こうの船の方が性能が上なのか、スピードの差は歴然だった。
「なっ……!」
「おいおい、なんであの二人がここにいるんだよ!?」
操縦席にいるレオは、動揺しつつも追いつかれまいとスピードを上げる。
「陛下は、あなたの殺害に失敗した! だから、私達が陛下に代わってあなたを殺すしかないのよ!」
「まったく……そもそも、ギュスターヴの奴がしくじらなければこんなことにはならなかったというのに。まさか、私達が尻拭いをする羽目になるとはな!」
二人が乗っている船は、もうすぐ後ろまで迫っている。
ふとマリアの手元を見ると、彼女の手には一丁の魔法銃が握られていた。
マリアは手早く銃を構えると、狂気的な笑みを浮かべながら引き金を引いた。
覚悟を決めた、その刹那。
不意に目の前に半透明の青い壁のようなものが出現し、弾丸が跳ね返された。
「ハンスさん! これって……」
「船の周囲に『魔法壁』を張ったんだ。ただ、この魔法壁を張れるのは一定時間だけだからな。対岸まで持ち堪えられるかどうかわかんねぇが……やるしかねぇよな」
ハンスは、自分に活を入れるようにそう言った。
「くっ……小癪な真似を! あなた達も、早く武器を取りなさい!」
焦燥感を露わにしつつも、セシル女王は周りにいる騎士達を鼓舞する。
騎士達はやがて彼女と同じように魔法銃を構えると、一斉に射撃してきた。
キィン! という音がしたかと思えば、魔法壁にぶつかった弾が次々と水面に落下していく。
対岸まで、あと半分ほど。世界でも有数の大きな川だけあって、渡り切るのに相当労力を要する。
「怯むな! 何としても、あの壁を壊すのだ!」
「うおおおおお!!」
騎士団長と思しき男が勇躍すると、一気に他の騎士達の士気が上がった。
暫く攻防戦を続けていると、やがて目の前の魔法壁に異変が起こる。
ピキッ、という小さな音が聞こえたかと思えば、僅かに表面に亀裂が入っているのが確認できた。
「魔法壁にひびが……!」
一秒でも長く持ち堪えてほしい。
けれど、そんな私の願いとは裏腹に亀裂は深くなり──ついに、パリンと大きな音を立てて魔法壁が破壊された。
「今です! 撃ちなさい!」
セシル女王の合図とともに、一斉に射撃が開始された。
……が、騎士達の様子が何かおかしい。成り行きを見守っていると、突然一人の騎士の魔法銃が爆音とともに爆発した。
──魔法銃が暴発した……?
騎士の両手は爆発ともに吹っ飛び、狼狽した彼はバランスを崩して川へと落ちた。
──それを皮切りに。次々と他の騎士達の銃も暴発を始めた。
苦痛のあまり自ら川に飛び込む者、即死した者、瀕死の状態で神へ許しを請う者──まさに、地獄絵図としかいいようがない光景が目の前に広がっていた。
「ハンスさん、これって……」
「魔法銃は、使い方を誤ると暴発を起こすんだ。つまり、乱射は禁物ってことだな。奴らは、それを知っていながら強引に押し切った──まあ、自業自得というやつだろう」
「それじゃあ、私達助かったのね!」
そんなやり取りをしつつ、私はセシル女王の方に視線を移す。
彼女は呆然とした様子で周りを見渡していたが、やがて何かに気づいた様子で手に持っていた銃を川に投げ捨てようとする。
だが、時すでに遅し。魔法銃は一際大きな音を立てて爆発し、その衝撃でセシル女王の華奢な体は川へと放り出された。
──ドボンッ!
一国の女王が川に落ちたというのに、助けようとする者は誰もいない。
いや、助ける余裕のある者など最早残っていないといった方が正しいだろうか。
「だ、誰か! 誰か私を助けなさい! 早く! う……がはぁっ……」
怪我の程度は定かではないが、恐らく重症を負っていて泳げる状況ではないのだろう。
抵抗も虚しく、セシル女王は藻掻きながらも川底へと沈んでいった。
ふと辺りを見渡してみれば、術の効果が切れたのかいつの間にか幻影達も姿を消していた。
「放っておけば、奴らはやがて全滅する。対岸まで急ぐぞ、二人とも!」
「おう!」
「ええ!」
私達三人が顔を見合わせて頷きあった次の瞬間。
ふと、背後に冷たい視線を感じて思わず振り返る。
「待ちなさい、アメリア!」
前世の両親──父トマと母マリアだった。
二人が乗っている船は、みるみるうちに私達が乗っている船との距離を詰めてくる。
向こうの船の方が性能が上なのか、スピードの差は歴然だった。
「なっ……!」
「おいおい、なんであの二人がここにいるんだよ!?」
操縦席にいるレオは、動揺しつつも追いつかれまいとスピードを上げる。
「陛下は、あなたの殺害に失敗した! だから、私達が陛下に代わってあなたを殺すしかないのよ!」
「まったく……そもそも、ギュスターヴの奴がしくじらなければこんなことにはならなかったというのに。まさか、私達が尻拭いをする羽目になるとはな!」
二人が乗っている船は、もうすぐ後ろまで迫っている。
ふとマリアの手元を見ると、彼女の手には一丁の魔法銃が握られていた。
マリアは手早く銃を構えると、狂気的な笑みを浮かべながら引き金を引いた。
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