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第2話
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「久しぶり。元気だったか?」
「うん。じいちゃんのこと、残念だったね」
「……そうだな」
しんみりしながら、聡太と話をする。
「そういえば、円架。お前、学校はちゃんと行ってるのか?」
「え?」
祖母と同じことを聞かれ、私は一瞬言葉に詰まる。
「何言ってるの? とっくの昔に卒業して、今は社会人だよ」
「あー、そうだったか。なんかごめん、忘れてたわ……」
聡太はそう言って苦笑する。
その表情からは、本当に私の年齢を忘れているらしいことが伺える。
(仕方がないのかな……)
田舎から離れた人間に関する記憶は、次第に薄れてゆく。それは、仕方のないことなのだろう。
とはいえ、少し不可解だった。というのも、聡太は自分と同い年なのだ。小さい頃、一緒に遊んだこともある。
そんな彼から年齢を忘れられてしまっているのは、正直悲しかった。
──そして、火葬は無事終了し、祖父は骨となって戻ってきた。
「これで、じいちゃんもようやく落ち着けるね」
「あぁ……そうだな」
聡太はそう答えると、祖父の遺骨を見つめていた。
家に帰ると、祖母は居間で一人ぼんやりとしていた。その姿はまるで抜け殻のようだ。
無理もないだろう。長年連れ添った伴侶を失ったのだ。その悲しみは計り知れない。
夕食後、私は祖父の部屋へと向かった。
そこで、祖父の遺品を整理しようと思ったのだ。
本棚を整理していると、アルバムが出てきた。
「うわぁ……懐かしいなぁ」
写真に写っているのは、幼き日の自分と祖父。
そのままペラペラとページをめくっていくと、ふとあることに気づいた。
「あれ……? なんで中学生以降の写真がないんだろう?」
私の記憶が正しければ、祖父とは田舎を出る直前まで一緒に写真を撮っていたはずだ。
それなのに、どのアルバムを見ても中学生以降の写真はない。
「なんで……?」
首を傾げながらも、私は暫く遺品整理を続けた。
机の中を整理するために、引き出しを開ける。すると、日記らしきものが出てきた。
「じいちゃんの日記かな……? でも、人の日記を読むのは良くないよね」
一瞬躊躇ったが、結局好奇心に負けて読んでみることにした。
日記には、こんなことが書かれていた。
『円架。お前が生まれた時、わしは本当に嬉しかった。お前が生まれてからというもの、毎日が幸せだった。でも、お前はわしを置いて逝ってしまった。なぜだ? なぜ、わしより先に死んでしまったんだ?』
(え……?)
私は祖父の日記の内容に困惑する。
一体、どういうことなのだろうか。
次の瞬間、不意に祖母と従兄の言葉が頭をよぎる。
『お前、学校はちゃんと行っているのか?』
彼らは、まるで子供に話しかけるようにそう尋ねてきた。
最初はただ単に、しばらく帰っていないから年齢を忘れられているのかと思っていたけれど……。
そこまで思い至った瞬間、全てが繋がった。全身の血が一気に引いていくような感覚に襲われる。
(もしかして、私、死んでいるの……?)
もしそうなら、祖母や従兄が言っていた「学校はちゃんと行っているのか?」という言葉にも合点がいく。
仮に、彼らに幽霊になった私の姿が見えているのなら、きっと子供のままに見えているはずだ。
でも──私は確かに高校を卒業して、田舎を出て、都会で就職をした。もし自分が死んでいるのなら、今までの人生は一体何だったのだろうか。
(駄目だ、わからない……)
そんなことを考えていると、段々と具合が悪くなってきた。
「うっ……」
頭がくらくらする。意識が遠のいていく。
そして──私は、ついにその場に倒れた。
気が付くと、私は畳の上に横たわっていた。
「……?」
上半身を起こした途端、ふと周囲に違和感を覚える。
「牢屋……?」
私がいるのは、いわゆる座敷牢だった。
気づけば、捕らわれの身となっていたのだ。
「え? なんで……?」
わけがわからず、困惑する。
格子を手で掴んで揺すってみるが、びくともしない。
「誰か! 誰か、いませんか!?」
大声で叫んでみるも、返事はない。
どうやら、誰もいないようだ。
絶望に打ちひしがれていると、誰かが襖を開けて部屋に入ってきた。
「うん。じいちゃんのこと、残念だったね」
「……そうだな」
しんみりしながら、聡太と話をする。
「そういえば、円架。お前、学校はちゃんと行ってるのか?」
「え?」
祖母と同じことを聞かれ、私は一瞬言葉に詰まる。
「何言ってるの? とっくの昔に卒業して、今は社会人だよ」
「あー、そうだったか。なんかごめん、忘れてたわ……」
聡太はそう言って苦笑する。
その表情からは、本当に私の年齢を忘れているらしいことが伺える。
(仕方がないのかな……)
田舎から離れた人間に関する記憶は、次第に薄れてゆく。それは、仕方のないことなのだろう。
とはいえ、少し不可解だった。というのも、聡太は自分と同い年なのだ。小さい頃、一緒に遊んだこともある。
そんな彼から年齢を忘れられてしまっているのは、正直悲しかった。
──そして、火葬は無事終了し、祖父は骨となって戻ってきた。
「これで、じいちゃんもようやく落ち着けるね」
「あぁ……そうだな」
聡太はそう答えると、祖父の遺骨を見つめていた。
家に帰ると、祖母は居間で一人ぼんやりとしていた。その姿はまるで抜け殻のようだ。
無理もないだろう。長年連れ添った伴侶を失ったのだ。その悲しみは計り知れない。
夕食後、私は祖父の部屋へと向かった。
そこで、祖父の遺品を整理しようと思ったのだ。
本棚を整理していると、アルバムが出てきた。
「うわぁ……懐かしいなぁ」
写真に写っているのは、幼き日の自分と祖父。
そのままペラペラとページをめくっていくと、ふとあることに気づいた。
「あれ……? なんで中学生以降の写真がないんだろう?」
私の記憶が正しければ、祖父とは田舎を出る直前まで一緒に写真を撮っていたはずだ。
それなのに、どのアルバムを見ても中学生以降の写真はない。
「なんで……?」
首を傾げながらも、私は暫く遺品整理を続けた。
机の中を整理するために、引き出しを開ける。すると、日記らしきものが出てきた。
「じいちゃんの日記かな……? でも、人の日記を読むのは良くないよね」
一瞬躊躇ったが、結局好奇心に負けて読んでみることにした。
日記には、こんなことが書かれていた。
『円架。お前が生まれた時、わしは本当に嬉しかった。お前が生まれてからというもの、毎日が幸せだった。でも、お前はわしを置いて逝ってしまった。なぜだ? なぜ、わしより先に死んでしまったんだ?』
(え……?)
私は祖父の日記の内容に困惑する。
一体、どういうことなのだろうか。
次の瞬間、不意に祖母と従兄の言葉が頭をよぎる。
『お前、学校はちゃんと行っているのか?』
彼らは、まるで子供に話しかけるようにそう尋ねてきた。
最初はただ単に、しばらく帰っていないから年齢を忘れられているのかと思っていたけれど……。
そこまで思い至った瞬間、全てが繋がった。全身の血が一気に引いていくような感覚に襲われる。
(もしかして、私、死んでいるの……?)
もしそうなら、祖母や従兄が言っていた「学校はちゃんと行っているのか?」という言葉にも合点がいく。
仮に、彼らに幽霊になった私の姿が見えているのなら、きっと子供のままに見えているはずだ。
でも──私は確かに高校を卒業して、田舎を出て、都会で就職をした。もし自分が死んでいるのなら、今までの人生は一体何だったのだろうか。
(駄目だ、わからない……)
そんなことを考えていると、段々と具合が悪くなってきた。
「うっ……」
頭がくらくらする。意識が遠のいていく。
そして──私は、ついにその場に倒れた。
気が付くと、私は畳の上に横たわっていた。
「……?」
上半身を起こした途端、ふと周囲に違和感を覚える。
「牢屋……?」
私がいるのは、いわゆる座敷牢だった。
気づけば、捕らわれの身となっていたのだ。
「え? なんで……?」
わけがわからず、困惑する。
格子を手で掴んで揺すってみるが、びくともしない。
「誰か! 誰か、いませんか!?」
大声で叫んでみるも、返事はない。
どうやら、誰もいないようだ。
絶望に打ちひしがれていると、誰かが襖を開けて部屋に入ってきた。
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