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姫さま、黒子に遭遇したことを思い出します
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「サキチ、例の物は?」
「へい。ここに」
サキチが、ヒナギクに四角い箱を差し出す。
ヒナギクは、おそるおそるふたを開け、中身を確認する。
「ふっふっふっ。サキチ、お主も悪よのぅ」
「姫さまこそ」
「くくく……」
「はっはっはっ」
サキチと二人で笑い合う。
「ねー、その不毛な会話、いっっつもやってるけど必要なの?」
サスケが、物言いたげな目で訴えてくる。
「もちろん。通過儀礼よ!」
「それ絶対違う。使い方おかしいし」
「まあ、サスケったら焼きもち?寂しくなっちゃった?」
サスケをギュッと抱き締める。
「違うし!」
慌てて離れようとする様は、年相応で可愛らしい。
突然、ヒナギクの腹にたくましい腕が巻き付き、左肩に重みが加わった。
「俺も忘れないでくれ」
猫のように、頭をすりつけてくる彼の行動に、戸惑いを隠せない。
「ひ、ヒスイさん!?」
助けを求めて、サスケにしがみつけば、さらに彼の腕がお腹を締め付けてくる。若干、苦しい。
「はは、まるで団子状態だな」
サキチが他人事のように、からかいを含んだ目を向けてくる。おのれ、サキチめ。
「姫さま、いい加減離してよ!」
息苦しいのか、サスケの顔が赤い。
「だってだって……」
涙目になりながら、首を降る。
ここでサスケを離したら、何か大切なものを失う気がする。
怖くて、彼の目が見れない。見たら、負ける気がする。
「ヒスイ、そろそろ離してやれ。姫さまが限界だ。嫌われたくねぇんだろ?」
見かねて、サスケが助けてくれる。もうちょっと早く助けてほしかった。
「師匠が言うなら、仕方がない」
彼が手を離す。息苦しさから解放されて、大きく息を吸う。
あー、空気が美味しい。
「師匠?」
呼吸を整えて、気になったのでサキチに聞いてみた。
「こいつは俺が育てたようなもんだからな」
彼の頭を乱暴に撫でて、サキチが笑う。
明らかに不満げだが、彼はなにも言わない。
「サキチが育てたってことはーーもしかして暗部の?」
実はサキチは、元暗部の頭領だ。
暗殺や諜報活動を生業とし、国の中枢を担ってきた。
十年前に足に大怪我を負い、現役を退いたらしいが、父いわく、まだまだ充分通用する強さだとか。
父、コウヤから又聞きしたので、実際はサキチの強さを知らない。
記憶を掘り起こしても、和菓子職人の彼しか見たことがなかった。
「こいつが、今の頭領だ」
彼の見事な銀糸の髪が、ぐしゃぐしゃになっていく。彼は諦めたのか、自然に身を任せている。
ヒナギクは口に手を当てて、目を見開いた。
「え!ヒスイさんてそんなに強いの?」
「こいつはとにかく速い。気づいたら、相手の首が飛んでいる」
サキチは自慢げに言うが、想像するとなにげに怖い。
「そんな強い人が、なぜ私の護衛に立候補したの?」
さっぱり意味がわからない。彼に何かしたのだろうかーー
初対面だと思ったが、自信がなくなってきた。
「あ~、姫さまは覚えてなくても仕方ねぇか。初めて会ったのは、五歳ぐらいの時だし。そのあとこいつは……うん」
サキチが言葉を濁して、視線を横にずらす。
「別に隠していませんから、遠慮なくどうぞ」
彼が冷静に続きをうながす。サキチの方が焦っているぐらいだ。
「そうだな、姫さまとは直接会わず、よく木の上で、姫さまを観察していたな」
「それってストーカーってやつじゃ……」
サスケの顔が青白い。
「いや、違うぞ!こいつは姫さまが田んぼに落ちて、泥んこまみれになったときも、速攻で魔術を使って身綺麗にしたり、大福に気を取られて、顔面を殴打したときだって、すぐばあやの所に連れて行ってたし」
危険視する息子をなだめながら、サキチが必死でフォローする。
「あ!黒子さん!?」
黒装束に身を包む、彼を指差す。
「黒子さん?」
サスケが訝しげに、彼に目を向ける。
「ええ。小さい頃、ピンチに陥ったとき、颯爽と現れた黒子さんがいたの!すぐに消えたから、神様か何かだとずっと思っていたわ」
顔が分からなかったから、彼だと思わなかった。
「ヒスイさんだったのね。今まで助けてくれてありがとうございました!」
彼にお辞儀をする。父に聞いても分からなかった謎が解けて、気分が高揚する。
「気にするな。俺があんたを守りたかっただけだ」
ポンと、頭を撫でられる。顔を上げると、目尻を下げた翡翠の瞳とかち合う。
鼓動が早い。落ち着かないのに、しばらく目が離せなかった。
「何でそこまで姫さまと会おうとしなかったの?ストーカー気質だから?」
息子の危険な発言に、目が泳ぐサキチだが、疲れた顔で、追加の大福をヒナギクに渡す。
「詳しいことはコウヤ様に聞け。俺からはもうなにも言わん」
こうなると、頑固なサキチは口を割らない。
ヒナギクが彼を目視すれば、嬉しそうに笑う。大きなワンコに懐かれた気分。
ヒナギクから無言で箱を受け取り、片手で持つと、反対の手で指を絡めてきた。
「そろそろ昼食時だろう?行くか」
距離感がおかしいと感じるのは、私が間違っているのかしらーー
ヒナギクは疑問に思いながらも、嫌ではなかったので、そのままにした。
蒸し暑くなってきました。
皆さんも、お体に気をつけてくださいね。
よろしければ、お暇なときにでも感想お待ちしていますm(_ _)m
「へい。ここに」
サキチが、ヒナギクに四角い箱を差し出す。
ヒナギクは、おそるおそるふたを開け、中身を確認する。
「ふっふっふっ。サキチ、お主も悪よのぅ」
「姫さまこそ」
「くくく……」
「はっはっはっ」
サキチと二人で笑い合う。
「ねー、その不毛な会話、いっっつもやってるけど必要なの?」
サスケが、物言いたげな目で訴えてくる。
「もちろん。通過儀礼よ!」
「それ絶対違う。使い方おかしいし」
「まあ、サスケったら焼きもち?寂しくなっちゃった?」
サスケをギュッと抱き締める。
「違うし!」
慌てて離れようとする様は、年相応で可愛らしい。
突然、ヒナギクの腹にたくましい腕が巻き付き、左肩に重みが加わった。
「俺も忘れないでくれ」
猫のように、頭をすりつけてくる彼の行動に、戸惑いを隠せない。
「ひ、ヒスイさん!?」
助けを求めて、サスケにしがみつけば、さらに彼の腕がお腹を締め付けてくる。若干、苦しい。
「はは、まるで団子状態だな」
サキチが他人事のように、からかいを含んだ目を向けてくる。おのれ、サキチめ。
「姫さま、いい加減離してよ!」
息苦しいのか、サスケの顔が赤い。
「だってだって……」
涙目になりながら、首を降る。
ここでサスケを離したら、何か大切なものを失う気がする。
怖くて、彼の目が見れない。見たら、負ける気がする。
「ヒスイ、そろそろ離してやれ。姫さまが限界だ。嫌われたくねぇんだろ?」
見かねて、サスケが助けてくれる。もうちょっと早く助けてほしかった。
「師匠が言うなら、仕方がない」
彼が手を離す。息苦しさから解放されて、大きく息を吸う。
あー、空気が美味しい。
「師匠?」
呼吸を整えて、気になったのでサキチに聞いてみた。
「こいつは俺が育てたようなもんだからな」
彼の頭を乱暴に撫でて、サキチが笑う。
明らかに不満げだが、彼はなにも言わない。
「サキチが育てたってことはーーもしかして暗部の?」
実はサキチは、元暗部の頭領だ。
暗殺や諜報活動を生業とし、国の中枢を担ってきた。
十年前に足に大怪我を負い、現役を退いたらしいが、父いわく、まだまだ充分通用する強さだとか。
父、コウヤから又聞きしたので、実際はサキチの強さを知らない。
記憶を掘り起こしても、和菓子職人の彼しか見たことがなかった。
「こいつが、今の頭領だ」
彼の見事な銀糸の髪が、ぐしゃぐしゃになっていく。彼は諦めたのか、自然に身を任せている。
ヒナギクは口に手を当てて、目を見開いた。
「え!ヒスイさんてそんなに強いの?」
「こいつはとにかく速い。気づいたら、相手の首が飛んでいる」
サキチは自慢げに言うが、想像するとなにげに怖い。
「そんな強い人が、なぜ私の護衛に立候補したの?」
さっぱり意味がわからない。彼に何かしたのだろうかーー
初対面だと思ったが、自信がなくなってきた。
「あ~、姫さまは覚えてなくても仕方ねぇか。初めて会ったのは、五歳ぐらいの時だし。そのあとこいつは……うん」
サキチが言葉を濁して、視線を横にずらす。
「別に隠していませんから、遠慮なくどうぞ」
彼が冷静に続きをうながす。サキチの方が焦っているぐらいだ。
「そうだな、姫さまとは直接会わず、よく木の上で、姫さまを観察していたな」
「それってストーカーってやつじゃ……」
サスケの顔が青白い。
「いや、違うぞ!こいつは姫さまが田んぼに落ちて、泥んこまみれになったときも、速攻で魔術を使って身綺麗にしたり、大福に気を取られて、顔面を殴打したときだって、すぐばあやの所に連れて行ってたし」
危険視する息子をなだめながら、サキチが必死でフォローする。
「あ!黒子さん!?」
黒装束に身を包む、彼を指差す。
「黒子さん?」
サスケが訝しげに、彼に目を向ける。
「ええ。小さい頃、ピンチに陥ったとき、颯爽と現れた黒子さんがいたの!すぐに消えたから、神様か何かだとずっと思っていたわ」
顔が分からなかったから、彼だと思わなかった。
「ヒスイさんだったのね。今まで助けてくれてありがとうございました!」
彼にお辞儀をする。父に聞いても分からなかった謎が解けて、気分が高揚する。
「気にするな。俺があんたを守りたかっただけだ」
ポンと、頭を撫でられる。顔を上げると、目尻を下げた翡翠の瞳とかち合う。
鼓動が早い。落ち着かないのに、しばらく目が離せなかった。
「何でそこまで姫さまと会おうとしなかったの?ストーカー気質だから?」
息子の危険な発言に、目が泳ぐサキチだが、疲れた顔で、追加の大福をヒナギクに渡す。
「詳しいことはコウヤ様に聞け。俺からはもうなにも言わん」
こうなると、頑固なサキチは口を割らない。
ヒナギクが彼を目視すれば、嬉しそうに笑う。大きなワンコに懐かれた気分。
ヒナギクから無言で箱を受け取り、片手で持つと、反対の手で指を絡めてきた。
「そろそろ昼食時だろう?行くか」
距離感がおかしいと感じるのは、私が間違っているのかしらーー
ヒナギクは疑問に思いながらも、嫌ではなかったので、そのままにした。
蒸し暑くなってきました。
皆さんも、お体に気をつけてくださいね。
よろしければ、お暇なときにでも感想お待ちしていますm(_ _)m
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