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姫さま、モフモフたちとの日常です

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 ヒナギクの朝は早い。
日の出とともに起きて、猫たちのご飯の準備をする。

「みんな、ご飯よ~」

 たくさんのモフモフたちが現れる。

「あわてないで、ちゃんとあげるから」
「あ、こらダンゴ、がっついたら喉つまるわよ。ヨウカン、こっちにもあるから喧嘩しないの。ミタラシは相変わらずのんびりさんね~」

 サスケが眠そうに欠伸しながら、追加のご飯を持ってきてくれる。

「いつも思うけど、姫さまのネーミングセンス、どうかと思うよ」
「え、どこが?可愛いじゃない」
「もっと他にあったでしょ。ミケとかクロとかさ」

 ヒナギクが頬を膨らませる。その足にダイフクがすり寄る。ぽよ腹が当たって気持ちいい。

「サスケも安易だと思うわ」
「そうかな?姫さまより大分マシだよ」

 ダイフクが、他の子に混ざって、ご飯を食べようとするので、抱き上げて鼻先をくっつける。

「こーら、フクはさっき食べたばかりでしょ。他の子のご飯を横取りしちゃだめだよ」

 ぶにゃ~と、鳴きながら、ダイフクが頭突きをしてくる。
思ったよりも力強くて、バランスを崩す。

「きゃっ……」
「姫さま!!」

 サスケが慌てて手を伸ばすが、間に合わない。覚悟を決めて、目をつぶる。

「平気か?」

 気づけば、力強い腕が支えてくれていた。秀麗な顔立ちが思ったより近く、彼の瞳のなかにヒナギクが映り込む。まだ心臓がばくばくする。

「ヒスイさん、ありがとうございます。助かりましたーーでも、どこから?」

 周囲には猫たちとサスケしかいなかったはずだ。疑問に浮かぶ。

「ああ、上だ」

 彼が指差す方向には、大樹がある。七、八メートルぐらいはあるだろうか。

「いったい何時から……」

「昨晩からだな。あんたが来るのを待っていた」

「え、寒空のなかを!?」
 春とはいえ、夜はまだまだ肌寒い。

「なれているから、気にしなくていい」
「風邪を引いたらどうするのですか?」
「子供の頃以来、病気になったことがないから大丈夫だ」
「そういう問題じゃありません。私が気にします!」

「じゃあ、あんたの部屋で寝ていいか?」
 名案だといわんばかりに、彼がしきりに頷いている。

「それはダメだろ!」
 サスケがすかさず突っ込む。

「年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりなんて、何か間違いがあったら困るだろ!!」
「分かった。責任はとる」
「どんな責任だよ!」
  二人の言い合いに終わりがない。

「まあまあ、サスケお母さん」
 サスケを落ち着かせようと、軽く肩をたたく。

「いや、お母さんじゃねーし」
「ヒスイさんも。さすがに同室は無理です。いくら私でも、乙女の恥じらいぐらいはあるのです」
 腰に手を置き、胸を張る。

「そうか。ならもう少し仲よくなってからにしよう。あと、ヒスイでいい。敬語もいらない」

 彼の笑顔が眩しい。イケメンオーラが半端ない。

「わ、分かったわ。でもまだ知り合ったばかりだから、ヒスイさんで」

「初対面じゃないんだがな……」
 声が小さくて、よく聞こえなかった。

「承知した」

  不服そうだが、一応納得してくれたらしい。
ほっと胸を撫で下ろし、ヒナギクは手をたたいた。

「さて、猫たちの健康チェックといきましょうか。ヒスイさんも手伝って」

 猫たちを順番に触診する。逃げ出そうとするモフモフたちを、サスケと彼に捕獲してもらう。

 さすがに重い病気は治せないが、怪我なら治癒することができる。
目やには出ていないか、ダニ、ノミはいないか、怪我をしている子はいないか、入念にチェックしていく。

「あら、ダンゴ、右足少し引きずっているわね。今治すから」

 ダンゴの右足に優しく触れると、怪我が治るように祈る。暖かい淡い光がダンゴを包む。
気持ちいいのか、ヒナギクの手に頭をすり寄せた。

「よし、もう大丈夫ね!」

 再度、引きずってないか確認して、無事に猫たちの健康チェックを終えた。

「もう少し暖かくなったら、みんなを洗ってあげるわね」

 その言葉を皮切りに、皆、一目散に逃げ出した。気づけばダイフクの姿もない。

 ヒナギクは、無言で後ろを振りかえる。

「そのときは、二人とも手伝ってくれる?」

 逆らえない圧力に、二人は素直に頷いた。






 読んでくださっている方、ありがとうございます(  ;∀;)

 休みの日に書いているので、不定期投稿ですみません。
 頑張って、完結まで持っていく予定なので、お付き合いいただけると、幸いです(*^^*)
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