上 下
42 / 104

君の体をもう一度

しおりを挟む
窓際に座る少女の本が風によって何ページも捲れて行く。

「ちょっといいか…… こんなとこに居たのかシンディー。探したよ。

射撃の練習はしておいたほうがいい。もしもの時に使えないと命取りだ」

反応が無い。気付いてるはずなのに無視を続ける女。

仕方ない。ここは実力行使だ。

目の前まで行き存在を認識させる。

それでも無視を続けるので机を叩く。


ちょっと…… 耳を澄まさねば聞こえないぐらい幽かな声。

「お前がシンディーだろ。違うのか? 」

それでも無視を続ける強情な女。

「聞こえたか? 聞こえなくてもいい。銃の訓練だけはしておけ。分かったな? 」

「放っておいてください! あなたには何も分からない…… はずです」

ようやく口を開く気になった恥ずかしがり屋のお姫様。

怒りの感情が見え隠れする。

だがそれでも無理して抑えようとしてるのか冷たい視線を向けると読書に戻る。

ちっとも構ってくれようとしないシンディー。


「そんなこと言わずにほら射撃のやり方なら俺が教えてやるから」

反応が無い。再び自分の世界へ。

「シンディー! 」

「読書中です。お静かにお願いします」

「まずはだな…… 」

「やり方ですか? 幼い時から慣れてます。経験済み」

ようやく話す気になったらしい。だが本から目を離そうとはしない。

「分かったよ。そこまで言うんだったらもう何も言わない。

でも射撃の訓練はとても大事だ。

祭りの一演目として捉えるのではなく自分の身を守る為に。

獣や人ならざる者に立ち向かう道具としても使えるよう外出時は常に携帯すべきだ」

ちょと言い過ぎたかな。強制させるのは良くないがハッピー先生が甘やかすから。


「来たばかりのあなたに言われたくありません! 」

「俺は別に善意で…… 」

「お節介はおやめください! あなた何者なの? 」

まあそれはそうだろうな…… 俺を全力で排除しようとしている気がする。

正論を述べている気もする。即ち反論できない。

ただ感情は見られたのだから良かったと捉えるのも悪くない。


「俺はいい。それよりも皆やっている。お前も行くんだ! 」

あまりの態度につい熱くなる。誰も強制する権利はないが。

「分かってます。この島では銃の使用は認められてますからね。

なぜそうなったのかあなたには分からないでしょう? 」

俺をよそ者扱い。何も知らない愚か者と決めつけ相手にせず距離を取る。

せっかく仲良くしようとしたのに結果関係が悪化する。

これがただの学校でクラスメイトなら問題ない。

だが俺の目的は彼女たちの心を開き有益な情報を得ること。

ゆっくりなどしていられない。無理矢理にでも聞きだす必要がある。

俺はそこまで優しい人間ではない。目的のためには手段は選ばない。

「ご用件が済みましたらすみやかにグランドへお戻りください」

まるで挑発するかのように感情を込めずに囁く。


「ちょっと待ってくれ! さっきまでのは前置きに過ぎない」

「はあ…… 前置きですか。勝手にどうぞ」

もはや相手にされていない。

「実はその…… 今朝のことで謝りたくて…… 」

「ああそんなことですか。まさか脅迫する気ですか? 」

何を言ってるんだか良く分からない。

俺が脅迫? 謝罪だと言ってるのに。


「あなたが見ていようが見てなかろうが私にとってはどうでも良いことなんです。

あれは祭りの為の準備で体を清めることを目的にしてるんです」

拒絶反応は見せるがなぜか見られたことを気にしている様子はない。

どう言うことだ? 普通じゃない。

「しかし俺は君の体を見てしまった。決して許されることではない。

あの神聖な場に立ち入ると言う悪行を犯してしまった。恥ずべき行為だ」

「知らなかったんですか? 」

「ああ知っていれば俺だって…… 」

「嘘! あなたは知っていた。違いますか? 」

「それは…… 何となく…… 」

嘘だと? だが確かに知っていた気がする。いつだったか…… 

「それで謝罪を? 」

シンディーは読みかけの本を片付け机の上をきれいにする。

「そうだ。済まない。そして…… 」

「分かりました。あなたの気持ちは十分に伝わりました」

面倒臭そうに受け入れる。


「それから言いにくいんだけど…… 」

「まだ何か? 私、用があるんです」

呆れた表情を浮かべる。

「今朝の君の美しさが目に焼き付いてその君の体を…… 」

これ以上はいくら俺でも恥ずかしくて言えない。言っては何かが崩壊する。

言っては嫌われるどころか言い触らされて終わってしまう恐れも。

堪えたい。だがそうも言ってられない。


「早くしてください! 」

怒っている? だとすれば成功と言えるかもしれないな。

「もう一度…… 」

「はい? 」

「もう一度見せてくれないか。君の体を! 」

ついに言ってしまった。今朝の衝撃はそれほどのもの。

俺如きでは耐えられるはずがない。

彼女が気にしていない素振りを見せるあまりつい余計なことを口にしてしまう。

もちろん本心ではないとは言えないが。

ただ純粋な気持ちだ。

見て楽しむこともないし触ろうとも思わない。

ただもう一度だけ。

変な願望が俺の心を支配する。


「何てことを大河さん本気なんですか? 」

もはや直視できない。

もちろん断られるのは百も承知。

だが頼まざるを得ない衝動がある。

告白する勇気をかって欲しい。

「今は皆外で誰もいない。お願いだから俺の願いを聞いてくれないか! 」

「ふふふ…… ダメです」

笑顔が見られる。

あれ普通怒って拒否されるか。

恥ずかしがって拒否されるか。

喜んで受け入れるか。

恥ずかしがってOKかだが。

なぜか笑いながら断られる。


「済まない。冗談だ。忘れてくれ」

呆れて出て行くシンディー。

一言。

「失望しました。また夜にでも」

撃沈。

グランドへ戻るしかない。


                      続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女の顔に触りたい、月曜日

睡眠丸
ミステリー
多々良さん僕は、君の顔に触りたい。超絶ミステリアス美少女の多々良さんと一緒に、ありそうでなかなかない毎日を過ごしていく。自殺未遂、ストーカー、ヤンデレ、それから授業参観と校舎裏の告白。誰が多々良さんで、僕は誰―ーー? 小説家になろうにて改行なしで完結済み。

ヨハネの傲慢(上) 神の処刑

真波馨
ミステリー
K県立浜市で市議会議員の連続失踪事件が発生し、県警察本部は市議会から極秘依頼を受けて議員たちの護衛を任される。公安課に所属する新宮時也もその一端を担うことになった。謎めいた失踪が、やがて汚職事件や殺人へ発展するとは知る由もなく——。

無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~

天草一樹
ミステリー
ある館に集められた二十四人の男女。その館で、オオカミ使いと名乗る男から突然命を懸けたゲームに参加するように命じられる。生き残れば最低でも十億円という大金が得られるゲーム。一見して生き残ることは容易に思えたゲームだったが、徐々に仲間はオオカミ使いの魔の手にかけられていく…。最後は絶対ハッピーエンドで締めくくりたい作者が贈るサバイバルミステリー。

時ヲ震ワス鐘 ~美野川線列車脱線事故~

星野 未来
ミステリー
 『紬(つむぎ)』と『陸(りく)』は、美野川のほとりで結婚を約束し合った。しかし、4月12日に陸の乗った列車が、脱線事故を起こし、死傷者100名を超える大惨事となった。その列車の1両目に乗っていた陸は、鉄橋から落ち、美野川で遺体となって発見される。  大切な恋人を失ってしまった紬は、陸の眠っているお墓を訪ねると、そこで出会ったお寺の住職に、過去に戻れることを教えられた。半信半疑の紬だったが、過去に戻り彼をあの列車事故から救いたいという気持ちが勝り、時を震わす魔法の釣鐘で過去に戻る決断をする。  そして、あの列車事故のあった当日へ戻り、陸を助けようとするが……。  紬は、果たして陸を救い出すことができたのか……?  乗客を事故から救い出せたのか……?  紬と陸の思い出の場所を舞台にした『美野川線列車脱線事故』めぐる恋愛タイムスリップ・サスペンス。  もし、あなたが過去に戻って、大好きな人を救い出せるとしたら、歴史が変わったとしても戻りますか……。

ありふれた事件の舞台裏

ふじしろふみ
ミステリー
(短編・第2作目) 小林京華は、都内の京和女子大学に通う二十歳である。 そんな彼女には、人とは違う一つの趣味があった。 『毎日、昨日とは違うと思える行動をすること』。誰かといる時であっても、彼女はその趣味のために我を忘れる程夢中になる。 ある日、学友である向島美穂の惨殺死体が発見される。殺害の瞬間を目撃したこともあって、友人の神田紅葉と犯人を探すが… ★四万字程度の短編です。

『違う景色が見たかった』

神在琉葵(かみありるき)
ミステリー
私には書けない!と言っておきながら、なぜだか書いてしまいました。 ひっそりと開催されているミステリー祭りに、こっそりと参戦… ミステリー(推理)要素のうす~い、なんちゃってミステリーです。

Dreamin'

赤松帝
ミステリー
あなたは初めて遭遇する。六感を刺激する未体験の新感覚スリラー 「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。」 ニーチェ 善悪の彼岸より もしも夢の中で悪夢を視てしまったら永遠に目がさめることはないという。 そうして夢の中で悪夢を視た私はいまだに夢の中をさまよい続けている。 Dreamin'は、そんな私の深層の底にある精神世界から切り出して来た、スリルを愛する読者の皆様の五感をも刺激するスパイシーな新感覚スリラー小説です。 新米女性捜査官・橘栞を軸に、十人十色な主人公達が重層的に交錯するミステリアスな群像劇。 あなたを悪夢の迷宮へと誘う、想像の斜め上をいく予想外な驚天動地の多次元展開に興奮必至!こうご期待ください。 mixiアプリ『携帯小説』にて ミステリー・推理ランキング最高位第1位 総合ランキング最高位17位 アルファポリス ミステリーランキング最高位第1位(ありがとうごさいます!)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...