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山姥伝説

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一軒目とは明らかにグレードの下がったお家で一泊することに。
でも心配はいらない。その分恐怖のグレードが上がってる。
ほら震えてるだろう? 真夏に恐怖体験は付き物さ。
しかしこれだけ冷えてればそれも不要かとも思う。
ただ生徒たちも喜んでる訳で…… いや怯えてるや。

ははは…… 山姥などいるはずがない。
山姥伝説など気にするな。伝説は伝説。ただの伝説に過ぎない。
現実にはあり得ない絵空事。我々を縛りつける為に作られたお話さ。 
しかし二人はただ震えるばかりで大人しくなってしまった。
これ以上付き合わせても可哀想なので寝るように命じる。

「ありがとうございます。それから…… 」
「ちょっとあんたたち! まさか何か悪さすんのか? 」
ぬえさんに咎められる。
「失礼。我々は登山部の者で決して悪さしようなどと考えていません。ただ…… 」
「ウソ言うでないわ! まあよい。主らが何者か聞かんといてやるで」
「ウソ? いえ本当に学校の…… 」
「よいよい」
まあそこまで言うならまあいいか。
「それでこの辺りを二、三日ゆっくりしようと思いまして。
どこか紹介してくれたらなと考えております」
「ハイハイ」
まるっきり信じてない様子。当然疑わしいか。
だったらいっそのことポケットのブツについても聞いてみるかな。

イントを取り出す。
「あんたまさか…… 」
「ああこれは隣の西常冬町で配っていたレプリカで記念に貰ったんです。
どうやらこれ東へ行くと使えると聞いたのですが。
ここで使用可能でしょうか?
もちろん本物のイントは別に仕舞ってるんですがね。
せっかくなので思い出に使ってみようかなと。この地域では使えますか? 」
少々踏み込んだ質問をしてみる。
恐らくこのイントが使われてるのは旧東境村付近だろう。

「うーん困ったね。そう言うことかい。
使えないと答えたらどこで使えるのか? 
誰が知っているのか? 連れて行けと迫るんだろ? 」
どうやらすべてお見通しのようだ。
「へへへ…… まさかそんな失礼な言い方しませんよ」
言い方だけであって他は触れない。
「そうかいそれはまた立派だね」
感動したと手を叩く。
これは手強いな。いやもう諦めたのか?
取り敢えず核心に迫ってみるか。

「ぬえさん…… その…… 」
どうしても言葉が出てこない。やはり罪悪感がある。
「いいんよ。それ以上言わんでもな」
もう分かっている。我々の目的地が旧東境村だと。
ぬえさんもそれを知っていながら決して追及したりしない。
俺は一体どうしたらいい?
それでも何か言うべきだろうな。

「ぬえさん…… 俺! 実は…… 」
「本当にいいのさ。告白なんて聞きたくもないね。だからいいのさ。
じゃが聞いてくれ。これは仮定の話だよ。仮定だからね。分かったね? 」
納得しないと先に進んでくれない。
「はい! 仮定の話ですね」
「そうかい」
安心して語り出す。

夜遅くまでぬえさんの話を聞く。
主人はとっくに寝てしまったようで我々の存在には気づいてない。
まさか奥さんが不倫するなどとは夢にも思ってないだろうな。
もちろんそんなおかしな展開になることはないが。
いや本当に主人が存在するのかさえ疑わしい。

異世界探索部の二人も疲れたのか隣の部屋でイビキを掻いて寝ている。
恐怖で寝れないなんてことはないんだろうな。羨ましい限り。
試しに山姥が来たと叫んでみるか?
いや止めておこう。口を利いてくれなくなっては困るからな。
さすがに笑えないよな。待てよ…… 異世界探索部だからこれくらい守備範囲内か。
宇宙人も信じているぐらいだしな。

「あのなぜ山姥の真似など? 」
「ああサービスだよ。都会では流行ってるんだと」
何年前の情報だよ? 古すぎるだろうが!
山姥のメイクをした女性が活躍したのは何年前だろう? また流行ってるのか?
なぜか無性におむすびが食べたくなってきた。
「でも脅かし過ぎでしょう」
「ひひひ…… 良いでないかい。驚くところが見たいんだよ」
うわ演技力ある。俺も今夜辺りやられちまうのか?

それにしても眠い。今日は一日中歩いたからな。
眠くなって当然か。
「そうだ。あの話をしてやるよ…… 」
話を聞いてるのが辛いぐらいの眠気が迫って来た。
もうダメだ。目を開けてられない。

大事な話の前に不覚にも夢の世界へ。

              続く
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