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ブブンカ

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水曜日。
今日は銭湯の日だ。
毎日だともったいないからと遠慮する彼女。
無理に入らなくてもいいがもう夏も近い。
男の俺と違って臭くもないだろう。とは言えさすがに香しいとはならない。
銭湯日以外は体を拭くだけで済ます健気な彼女。
もったいないのは分かるがが少しは自分の体も労わって欲しい。

世間では一週間入らないで平気だと言う女性もいる。
でもそれは面倒臭かったり他のことに集中したりとほぼものぐさからくるもの。
または話題作りの一環かもしれない。それに監視してる訳でもなく本人の証言のみ。
真実を知る者はいない。とは言えそう見せる演技力があるのは確か。尊敬さえする。

彼女も同類ならどれだけ良かったか。
俺も彼女も決して貧しい訳ではない。それどころか彼女の実家は裕福なはずだ。
ただ新居の風呂がまだ使えてない現状。それがすべて。
彼女にも無理に居ないで元の家に戻れと言うが大丈夫もうすぐだからと譲らない。
今何時代だよって感じだが俺も頷くしかない。

もう少しだ。来月には風呂も使えるようになる。
彼女はその時を首を長くして待っている。ああ何と健気なんだろう。

そんな彼女を少々強引に銭湯に連れて行く。別に嫌がる素振りはない。
「待っててね」
さすがに女湯には入れない。
入ったら警察沙汰だ。それくらい分かってるが彼女のことが心配で堪らない。
彼女はここに来て日が浅い。近所の奥様ともまだ馴染めないようだし。
いつの間にこんなに口下手に。俺なんかよりももっとお喋りだったはず。
同棲すると見えてくる彼女の本当の姿。真実の彼女。
ああ美しいし可愛い。ただそれだけではダメらしい。
ご近所さんと打ち解けてくれたらいいんだけど。俺の為にも。

ブツブツ
ブツブツ
「へい! コンニチハゴザイマス! 」
片言の日本語を操る外人さんに話し掛けられる。
陽気なのはいいが前を隠そうよ。
タオルを持って来てないらしい。
あまりにも大胆だぜ。
この外人さんに誰か銭湯の入り方をレクチャーしてやれよ。
だが見回しても誰もいない。これは俺の役目?

「ソーリー」
こうすればもう話し掛けはしないだろう。
陽気な外人さんは対応に戸惑いを見せる。
「レッツラン! 」
いやいや誰に習ったか知らないが風呂場は滑りやすく危険。走るのはマナー違反。
「ソーリー」
「ドウシタンデスカ? アーユージャパニーズ? 」
ソーリーで押し通すつもりが上手く行かずにいつまでも話しかける陽気な彼。
そこに男が一人姿を見せる。

「ははは! あんたも大変だ。ブブンカ! クールダウン」
「オウ! イエス」
合ってるんだか間違ってるんだかの英語を駆使し黙らせるいつもの男。
名前覚えてないんだよね。
「マエダサーン レッツスイム! 」
そう言って体もロクに洗わずに湯船へ。
彼はブブンカと言う名前らしい。ついでに前田さん。

「ああブブンカ? 三日前に引っ越して来た外人さんだよ」
情報屋の前田から詳しい話を聞く。
「あれで緊張してるんだよ。しかし君もここが好きだね」
前回も会った。本当によく会うなこの人。

「前田さんは毎日? 」
「ははは! いや一日おきだよ。さすがに金が足りなくなるさ」
「一日おきでも十分に凄いですよ」
「いや…… そう言ってくれると通ってる甲斐があるね。
ここの風呂もいいけどやっぱりサウナが格別さ。早く再開して欲しいね」
諸事情により店はサウナを止めてしまってる。
「マエダさーんはサウナですか…… 」
ブブンカが興味を示す。サウナは初めてらしい。
「ああサウナと言ってもね…… 」
長くなりそうなので止めてブブンカについて聞いてみる。

ブブンカはハーフ。
詳しくは聞かないがアメリカとアジアのどこかのハーフだそう。
こんな片田舎にねえ。
だがよく見回せば職場にも近所にも見かける。
日本人とそれ以外で区別するつもりはないが確かに増えた気がする。
いつの間にこんなに海外からやって来たのだろう?
うちの会社が多いだけだと思っていたが。そうでもないらしい。

ソーリーで済ますのはコミニュケーションが難しいから。
それでも職場なら毎日顔を合わせる奴も居る。
だから多少の英語は使えるのだがブブンカは通りすがりの外国人だもんな。

「近所だからさ付き合う訳。根はいい奴だから君も友だちになってあげてよ」
意外にも面倒見の良い前田さん。
彼は俺の向かい。その前田さんの近所ならば俺の家からも近いはずだ。

                    続く
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