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オーナーの正体

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料理人の田中さんの告白は大変興味深いものだった。
ただ彼女が徹底的に調べ上げてることが不思議でならなかった。
どうしてここまで? 異常とも言える熱量。

「何で知ってるの? 」
空気を読まずに相棒が問い詰める。
「おい待てって! 無理矢理聞きだすなよな。失礼だぞ」
「いいんです。このツアーに不信感を抱いてましたから。
私、料理得意ですよ。ソムリエに調理師免許も。車の免許だってあります」
「それはすごい…… って当たり前か。料理人なんだから」
少々失礼だったかな? 気を悪くしなければいいが。

「そう当たり前なんですよ。これくらいの人は探せばいくらでも。
でも私に直接依頼が来たんです。どこも通さずにいきなりメールで。
しかも二泊三日の旅行気分でその上ボーナスもある。
怪しい臭いがプンプン。
この子と一緒にお客の世話をするだけで相場の十倍。おかしいと思うでしょう?
だから事前に色々調べてみたんです。
この仕事自体が詐欺の可能性もあると思い電話で本人にも問い質しました。
ですが詐欺はあり得ないと強く返されました。
否定するのは詐欺師の常套手段。
信用できない。だから本当に詐欺ではないのかと迫った。
しつこかったのでしょうね。
オーナーは詐欺師が私の中で一番許せない存在だと感情を露わに。
声は男性で若くもありませんでした」

料理人から貴重な情報を得る。
ただ彼女の話を真に受けたとしてもオーナーが今回の真犯人とは限らないが。
だが少なくても何らかの形で関わってるのは間違いない。
彼女の話から察するに冷静さを失うほどの何かが過去にあったと見ていい。
それは犯罪被害者の会の者とも重なる。

「誰だと思いますか? あなたも紛れ込んでるとお考えなのでしょう? 」
一歩踏み込んだ質問。オーナーの正体に迫る。
客を疑うことになる。答えようがないのだろう。
長い沈黙の後に一言。
「それは私にはちょっと…… 」
「ではガイドさんの意見も」
「オーナーですか? さあ…… でも参加者の中にいるとは思えないんですよね。
何となく違う気が。でもやっぱりいたような気が。どうも良く分からないんです。
一緒にいたようないなかったような。近くにいた気がするんですけどね」
料理人もガイドさんも本当に思い当たる節がないのかただ隠してるのか。
はっきり答えようとしない。でも考えて欲しい。事件が起きてからでは遅いのだ。
知っていることはすべて包み隠さずに教えてもらいたい。
とは言えオーナー犯人説は早計過ぎる。
それに仮にそうだとしても動けない。

話を切り上げ第一現場へ。
三〇一号室。
第一の被害者美術商の男。
辺りには破片が散乱したまま。血の跡もびっちり。
「撲殺で間違いないか? 」
念のためにもう一度相棒に確認を取る。
「傷跡からも間違いないと思う。でも確実にそうかと言われたら分からない。
鑑識が来ればそれこそ細かい所まで判明すると思うけど今のところ撲殺かな」

壺が所狭しと置かれている。
第二の事件後に私の指示によりすべての部屋から回収された。
それを一か所にまとめたところまではいい。
だがそれでも撲殺事件は収まらなかった。
動けば動くほど真犯人に追い詰められていく気がする。

うーん。やっぱり怖いんですけど。
ちょっとでも気を抜くと恨めしそうに睨みつけてる気がしてゾッとする。
覆いを被せてるのに捜査の邪魔だからと取ってしまう相棒。
どう言う神経してるのか?
龍牙ではないが震えて仕方がない。さすがに覆いはそのままでもいいのでは?

「死体が死体が…… 」
「何してるんだよ! 動く訳ないだろ! 」
相棒が立ち会った。生きてるはずがない。
「なあいくら何でも遺体をそのままってのはまずいんじゃないか? 」
「動揺して! 言ったろ警察が来るまでなるべくそのままで現場保存するって」
相棒の言うことはもっともだが臭いも凄いことになってる。
いつまでも放置するのはどうだろう?
死者を冒涜している気がして落ち着かない。

「ビニールシートで覆うとかさ」
「どこにあるって言うんだよ? 勝手に動かせないって」
相棒と立場が逆転した。
「あのもういいですか? 」
ガイドは口元をハンカチで押さえている。
臭いも強烈で記憶が蘇ると俯く
だがそれでは余計に遺体に視線が行くことに。
ここは下ではなく上を向くべきだ。

これ以上ガイドさんに無理させられない。
第一の被害者美術商の男の部屋を後にする。

続いて三号室。ミサさんのお部屋へ。

                    続く
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