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ガイドさんの見解

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第一の事件は美術商の男。
彼もまた犯罪集団の一味。
「名前は確か海老沢さんでしたっけ」
「はいそうです。六十代のお年を召した方で確か美術商だったと伺っています」
彼女としては個人情報なので無闇やたらに教えられないのだろう。
しかし事件解決にはどうしても必要なこと。

「海老沢さんについて他にありますか? 何でも構いません。見た目でも性格でも」
「そうですね…… 随分とせっかちな人だなと思いました。
バスから降りたらすぐにホテルに向かいましたから。
バス旅行ですから多少なりとも景色を楽しんだりお喋りしながらゆっくりするはず。
お年ですしさほど足の速い方でもありません。どちらかと言えば若い人の方が。
特に若い男性の方が多いかと思います」

ガイドさんは若い方と言うがこの中で一番若いのは彼女のはず。
まだ二十代前半のはず。それともミサさんのように若作りしてるのか?
「ちなみにガイドさんはお幾つですか? 」
「それでしたらパンフレットに載ってますのでご確認ください」
自分の口からは言いたくないらしい。
「ではパンフレットを一枚」
「申し訳ありません。今切らしておりまして…… 」
一部は持ってきたが紛失したと言い張るガイドさん。
「それでは身分証…… 」
「話を戻しますね。自然に興味ない若い人がどんどん先に行く傾向にあります」
ガイドさんはわざとなのか私の話を遮り強引に元に戻す。
「若い男性? この中では千田さんが当てはまりますよね」
「はい。でも彼は体調を崩しておりそのような状況にはなかったんです。
見た目とは違い随分と神経質な方」
海老沢に続き千田のこともよく記憶してるようだ。
これは頼もしい。他の人のことも聞いてみるか。でもまずは海老沢だ。

「よく見てますね」
「これくらい当然ですよ。嫌でも目に入ってきますから」
お客様をサポートする身としては当然と言い張るが洞察力は確かなもの。
「それで海老沢さんはなぜ殺されたと思いますか? 」
彼が詐欺師集団の一味だとまだ話してない。だから彼女の見解は貴重。
しかしお客様の悪口は言いたくないのか求めていたものとはかけ離れたものに。
「分かりません。何となく一番先にホテルに着いたから殺された気がします」
せっかち故に殺されたことになる。そんなことがあり得るのか?
ユニークな考えの持ち主。さすがにその意見は採用できない。

「ちょっと待って。では被害者は誰でも良かったと言うのですか? 」
いい加減な上に滅茶苦茶ではないか。相棒なら言いそうだが。
「その…… これが連続殺人だとして誰かはどうでも良かったかと」
「まさか…… ある一定の条件が揃った者なら順番はどうでもいいと?
ただ一番早く来たから殺された? そんな馬鹿な! 」
あまりにもふざけている。そんなことで殺されるなんてどれだけ理不尽か。
だが…… その考えにも一理ある。興味深い意見ではある。

「はい。たぶん犯人はあらかじめ当たりを着けていたのかなって」
「ではもしターゲット以外が最初に着いたら? 」
せっかちな爺さんが一番となったのはやはり偶然でしかない。
他の者。特にターゲット以外が最初だった場合はどうするつもりだったのだろう。
その疑問が消えない限り真相に辿り着けない。
「うーん。それは…… 例えば順番はどうでもいいとか」
「ええっ? どう言うことですか? 」
話に着いて行けない。順番がどうでもいいはずがない。

ガイドさんは見てきた訳だから貴重な目撃者。
我々は二日目からしか参加出来なかった。それ故どうしても情報が不足する。
頼りのガイドさんも意味不明では事件の解明は遠のくばかり。
「済みません探偵さん。すべて私の浅はかな考えによるもの。
本気になさらないようにお願いします」
第一の事件はここまででいいか。
第二の事件に移る。

確か三○三号室の山田ミサさんが撲殺体で見つかった。
あの時も密室で細工の形跡も見られなかった。
被害者は全裸にされると言う辱めを受けた。
これは犯人の凶暴性を示すものでもあるが何かを隠そうと捉えることもできる。
何かとは即ち返り血だろう。後は…… 傷とか?
とにかく現場に戻る。

「ちょっといいんですか? すぐに警察が来ますよ」
現場保存の徹底を求めるガイドさん。
まさかこの探偵をまだ信用してないのか?
いくら明後日探偵とは言えそれは現場に辿り着くまでの話。
現場を荒らす訳がないじゃないか。

三号室へ。

                   続く
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