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天の恵み

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慣れない旅の上に初めてのことばかり。
昼から何も食べておらず当然お腹が空いている。もう限界。
「ああごめん。この辺には食べられるものがないんだ」
セピユロスの非情な一言が胸に刺さる。
「そんな…… 」
「雑草なら生えてるけど。食べたらお腹壊すし食料も尽きたよ」
緊急事態に言葉も出ない。

どうしたんですセピユロス。食事の用意はあなたの役目でしょう?
私はお食事をするのが役目。これでは役目が果たせない。
セピユロスを責めても仕方ない。受け入れなくては。
逃避行では食料の確保が難しい。
目立つ行動をしたくないものだからつい我慢してしまう。
テキュサー駅でも警戒されて動きが取れずに馬車へ。
ズルズルとここまで来てしまった。

「ごめん。明日まで我慢して。もう寝よう」
寝ようと言うがどこにもベットが見当たらない。
「どうやって寝ればいいの? ベットはどこ? 」
「いやここにはベットはないよ。それどころか布団さえない。
あるのはこの毛布一枚だけ。一緒に寝ようディーテ」
セピユロスはこれが普通だと言いますけど私には我慢しがたい。
「分かりました。少々お待ちください」
「トイレなら奥だよ」
もう寝る気らしい。まったく困った人。
私だってもう寝たい。でもお腹が空いて寝れない。
どうにかして食料を調達しなくてはいけません。
これが今私たちに課された試練。
二人で乗り越えるべき。
やる気もなく諦めの早いセピユロスに代わって私が何とかしなければ。

月の光を頼りに食料調達開始。
うーん。冷える。
外は思ったより肌寒い。もう一枚着てくるべきでしたね。
小さい頃は暑いや寒いと感じることも。
お屋敷で過ごしてるうちにあまり気にならなくなった。
これはいいこと? 
暑いだって寒いだって決して喜ばしいものではない。
できるなら耐えることはしたくない。
ワガママだとお思いでしょう? 
でもそれがご主人様。幼き頃はお嬢様。
ちょっとぐらいのワガママな振る舞いは当然のように許された。
セピユロスはそのことを理解できてないと見える。
だから私に苦を強いてしまう。

もちろん今は逃避行の身。我慢は仕方がない。
でもその中でも努力し改善して行こうとするのは尊いことでしょう?
セピユロスみたいに最初から諦めていては何事も上手く行かない。
現実を知るのも理想を求めるのも気持ちの問題でどちらだって大差ない。
だったら理想を追求したい。快適な環境を自分たちの手で。
まずは空腹を満たすことから始めましょう。
諦めて寝るのはいつでもできる。

食べ物を求めて彷徨い歩く。
もちろん迷わないようにコテージの周りを見て回る。
ああどこかに食べ物はないかしら。
妙に明るい光。明かりに照らされて浮かび上がる果実。
これは天の思し召し。
いつの間にか走り出していた。
うん? リンゴが一つとバナナが二つ落ちていた。
これは天の恵み? そうに違いない。でもこの辺りに木は見当たらないんですがね。
細かいことはこの際。とにかく持って帰るとしましょう。

セピユロスと分け合う。
「美味しい! 」
久しぶりの食事に感動を覚える。ふふふ…… 大げさよね。
「ああこれはいくらでも食べられる」
セピユロスには近所の方からの頂き物と言ってある。
さすがに落ちていたでは恥ずかしい。
うんこれで元気回復。さあ明日も早いですから寝るとしましょう。
一緒の毛布に包まる。
あー何と情けないのでしょう。
なぜかセピユロスは上機嫌ですが。
これが楽しいでしょうか?
おやすみなさい。

翌朝。
いい天気。さあ今日も良いことがあるといいですが。
毎日のお祈りが伝わり恵みを得た。
今日も出来ればお願いしたい。
そんな風に前向きなのもここまで。
そんな呑気な状況ではありません。

「おはようディーテ。早いね」
良く寝てよく食べたセピユロスは元気そのもの。
私などもう動く気力さえ残っていないのに。
疲れが取れずに体調はあまりよろしくない。
だからなのか元気が出ない。

逃避行二日目で後悔が押し寄せてくる。
所詮はご主人様。多くの人の助けがなくては生きてはいけない。
限界を悟る。
「さあ行こう! 」 
「ちょっと待ってよセピユロス」

ついに目的地へ。


                  続く
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