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お屋敷からの脱出

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セピユロスへの疑惑。
「たとえセピユロスがボノを殺害したとしても私は彼と一緒になるつもりです」
もう決意したこと。彼が白か黒かなどどうでもいい。
「そんなご主人様…… 私たちはどうすればいいのでしょう? 」
主人あって存在する者たち。執事にしろメイドにしろ迷惑が掛るのは百も承知。
特に影のメイドは私が居なくなれば存在できなくなる。

「ヴィーナが私の後を引き継ぐことになっています」
セピユロスを奪いその上ヴィーナに後を継がせようなど虫が良すぎるでしょう。
それでもこの屋敷やメイドたちを守る為にはヴィーナを捧げるしかない。
もう私にはセピユロスしかいない。
セピユロスと離れ離れになってようやく決心がついた。
彼は軽いですが情熱溢れる人。信用することから始めようと思う。

「そうですか。ご主人様の意志が固いのは良く分かりました。
この話をヴィーナ様にもそれとなく。セピユロス様を救出しましょうと。
ですが彼女は本気ではなかった。迷いに迷って私に選択させた。
ご主人様とはえらい違いでした。とても残念です」

まだヴィーナには未来がある。セピユロスは素敵な男性の一人。
喧嘩ばかりですがきっと愛し合っているのだと。
だがセピユロスの言からも分かるように二人にはそれほどの絆は無かった。
私が入り込む余地が充分にあった。
ヴィーナがしっかり彼を捕まえていたらこんな事態には陥っていなかった。
セピユロスもフラフラせずヴィーナを愛し続けていたら幸せになっていたでしょう。
結局運命が二人を分かつことになった。
その結果私がセピユロスと結ばれてしまった。
この屋敷に来るまで予想もし得なかった事態。
私がしっかりしていればこうはならなかったでしょうが。
ボノとの関係が上手く行ってなかったのも少なからず影響している。

「ご主人様? 」
「私はセピユロスの為に生きようと思う。彼が受け入れるかは分かりませんが。
夫が行方不明だと言うのに何を狂ったことをと思うでしょうね。
それでもセピユロスのことが忘れられない」
「分かりました。この鍵はメイド館の一室の鍵となっております。
そこは嵌め殺しの窓。外からのみ開錠可能になっています。
この鍵がなければ出入りできません。
ご主人様の想像する牢屋でなくてもただ閉じ込めておくにはこれで充分なのです。
さあお急ぎください。夜明けまでがタイムリミットです」
影のメイドから鍵を預かる。

さあ出発だ。
もう後戻りはできない。
仮にセピユロスを救出しても待っているのは地獄かもしれない。
でも彼を放っておけない。
それはこの屋敷の主人としての責任でも娘の婚約者を気遣う意味でもない。
セピユロスを失いたくない。ただそれだけなのです。
「それではお気をつけください」
影のメイドに見送られ部屋を後にする。

さあまずは屋敷を抜け出さなくては。
ここで役に立つのがチャウチャウ。
大好物のチキンをちらつかせる。
これはチャウチャウのおやつにとっておいたもの。
晩餐会でも出されていたがチャウチャウは食い意地が張るものだからお腹一杯。
チキンに見向きもせずに満足そうに出て行ったっけ。
その余ったチキンをチャウチャウの為に取っておいた。

真っ暗な中ライトを頼りに外へ。
チキンの匂いを餌にチャウチャウを誘き寄せる。
暗闇から獣が姿を見せる。
目を光らせた化け物。チャウチャウだった。
「もうチャウチャウったら。ほら急いで食べて! 」
お腹を満たしたチャウチャウは掛けていく。
鈴の音を頼りに急いでチャウチャウの後を追いかける。

どっちに行ったの?
正面出口から突破は不可能。
それはチャウチャウも心得てる。
ただ庭から行くには危険が一杯。
どこに何が居るか分かったものではありません。
夜行性の肉食動物が今目を覚ましたところ。
窓から顔を覗かせるだけでも危険。
なぜこのように仕掛かと言うとひとえに侵入者から身を守る為。
こうしておけば仮に賊が入り込もうが正面突破しない限り餌食になる。
それは脱出する側も同じ。

チャウチャウは階段を駆け上がると左の部屋に入った。
さあ連れて行ってね。
チャウチャウは窓に走っていくと迷いなく少し開いた小窓から一気にジャンプ。
どうやら毎晩ここから脱走してたらしい。
柿の木に飛び移ったチャウチャウ。
窓を全開にしてチャウチャウを真似て勢いをつけジャンプ。
運悪く柿の木まで届かずにお尻から地面に着地。

お屋敷からの脱出に成功。


               続く
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