上 下
95 / 125

おもてなし

しおりを挟む
「失礼します」
ヴィーナが姿を見せた。
「おお、ヴィーナではないか。また大きくなって。何年振りかしれぬ」
国王様のもう一つの目的。ヴィーナとの再会。
実は国王様はヴィーナの名づけの親。
名前を頂戴するのはめったにないこと。
たまたまお越しになった時に生まれたばかりのヴィーナを見て名づけの親に。

あの頃はまだ影の薄い国王様で威厳はないに等しかった。
生まれたばかりの忙しくて不安な時にのこのこやって来た空気の読めない国王様。
こちらは疲れ切っているのに笑って歓迎しなくてはならない。苦い思い出。
あの当時はボノも優しかったしお母様もいたのでどうにでもなりましたが。
名前だって決めてあったのに酔った勢いでつけるものですからまったく。
国王様の手前受け入れざるを得なかった。本当に苦い思い出。
あの時の記憶が蘇ってくる。ああ、本当に困ったお方。
それからは毎年ヴィーナの顔を見に来られたっけ。
ヴィーナも懐いていたのでいいんですが。ただ勝手にお菓子を寄越すから苦労した。
とは言えいつも国王様にはヴィーナを大変をかわいがってもらっていた。

「国王様。お久しぶりでございます」
「ヴィーナよ。国王様などではなくバキーと呼んでくれ」
バキーは小さい頃にヴィーナが勝手につけたあだ名。
由来を聞いたら国王様はお怒りになるだろうな。
メイドの誰かが口が悪いものだから馬鹿国王と陰で呼んでいた。
それをヴィーナが聞いてしまいそのまま言いそうになったのでバキーに直す。
それ以降国王様はバキーと呼ばれるようになった。
「バキー。私もう子供じゃない」
「ははは…… いいではないか。さあ一緒に遊ぼう」

ヴィーナは遊んでられる状況ではない。
ボノは行方不明。お供が銃殺されてるところから決して楽観視できない。
セピユロスもボノ殺しの疑いで捕えられている。
私は彼女の精神状態も考えてお供の件は知らせないことにした。
すべてが解決してから話すことに。
だからなぜセピユロスが捕えられているのかも理解できてない。
こうして国王様との楽しい一時は過ぎて行く。

国王様の為に盛大な晩餐会を開催する。
この日の為にマグロを仕入れていた。
セピユロスが釣り上げたサーモンも燻しお皿に乗せる。
それから海の幸をふんだんに使った一品。
新鮮なイカを一杯。
イカ尽くしも用意した。
ただどこでも供されるだろうから趣向を変えて刺激的なものにする。

イカには海の神アニーサが宿っている。
アニーサの言い伝えはいくらか。その一つに心の綺麗な者には悪さしないがある。
ただ心が穢れていると腹痛や下痢、嘔吐などの症状が現れると言われている。
国王様は間違えなく綺麗な心の持ち主。症状が現れることはないでしょう。
それから山の幸も楽しんでもらおう。
赤緑黄色の鮮やかなキノコを使ったキノコ汁。
国王様だけに特別に作らせた一品となっている。
それからエイドリアスの郷土料理の虫の姿焼きとドライバグ。
味見は遠慮しましたがかなり刺激的だとか。
さあこれで国王様をおもてなし出来る。
受け取って欲しい。
お食事はすべて国王様の為に作られた。

「国王様こちらもどうぞ」
アニーサ尽くしを勧める。
「いや何か動いてる気がしてのう不気味なんじゃが」
「気のせいでございます。それでしたらこのドライバグなどはいかがですか? 」
「うぐぐ…… 喰わんといかんか? 」
明らかに嫌な顔をする国王様。
「一口でもお召し上がりください」
「おええ…… とても食えたものではないわ」
「そうおっしゃらずに。これなどいかがですか? 」
毒…… ではなくキノコ汁を押し付ける。
「美味ではあるが痺れる。うむこれが新世界? 」
もはや国王様は我を失っている。

仕上げにデザート。
「アップルパイでございます」
「おう熱々じゃな。うん? こんな味であったかな? 」
「はい肥満気味の国王様の体を気遣いまして砂糖の代わりに塩を使いました」
「うむ。通りで甘くない訳じゃな」
もう呆れ気味の国王様。
これくらい刺激的な歓迎であれば国王様の記憶に残るでしょう。
「では儂はそろそろ寝るとしよう」
「まだお残しになられてますが」
「ひえええ! 」
逃げるようにお部屋に戻られた。

晩餐会はお開き。
果たして心からのおもてなしは国王様に届いたでしょうか?
満足したのならよろしいのですが。

             続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

えっと、幼馴染が私の婚約者と朝チュンしました。ドン引きなんですけど……

百谷シカ
恋愛
カメロン侯爵家で開かれた舞踏会。 楽しい夜が明けて、うららかな朝、幼馴染モイラの部屋を訪ねたら…… 「えっ!?」 「え?」 「あ」 モイラのベッドに、私の婚約者レニー・ストックウィンが寝ていた。 ふたりとも裸で、衣服が散乱している酷い状態。 「どういう事なの!?」 楽しかった舞踏会も台無し。 しかも、モイラの部屋で泣き喚く私を、モイラとレニーが宥める始末。 「触らないで! 気持ち悪い!!」 その瞬間、私は幼馴染と婚約者を失ったのだと気づいた。 愛していたはずのふたりは、裏切り者だ。 私は部屋を飛び出した。 そして、少し頭を冷やそうと散歩に出て、美しい橋でたそがれていた時。 「待て待て待てぇッ!!」 人生を悲観し絶望のあまり人生の幕を引こうとしている……と勘違いされたらしい。 髪を振り乱し突進してくるのは、恋多き貴公子と噂の麗しいアスター伯爵だった。 「早まるな! オリヴィア・レンフィールド!!」 「!?」 私は、とりあえず猛ダッシュで逃げた。 だって、失恋したばかりの私には、刺激が強すぎる人だったから…… ♡内気な傷心令嬢とフェロモン伯爵の優しいラブストーリー♡

愛情のない夫婦生活でしたので離婚も仕方ない。

ララ
恋愛
愛情のない夫婦生活でした。 お互いの感情を偽り、抱き合う日々。 しかし、ある日夫は突然に消えて……

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

妹が私の婚約者を奪うのはこれで九度目のことですが、父も私も特に気にしていません。なぜならば……

オコムラナオ
恋愛
「お前なんてもういらないから。別れてくれ。 代わりに俺は、レピアさんと婚約する」 妹のレピアに婚約者を奪われたレフィー侯爵令嬢は、「ああ、またか」と思った。 これまでにも、何度も妹に婚約者を奪われてきた。 しかしレフィー侯爵令嬢が、そのことを深く思い悩む様子はない。 彼女は胸のうちに、ある秘密を抱えていた。

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【R18】オトメゲームの〈バグ〉令嬢は〈攻略対象外〉貴公子に花街で溺愛される

幽八花あかね・朧星ここね
恋愛
とあるR18乙女ゲーム世界で繰り広げられる、悪役王子×ヒロインのお話と、ヒーロー×悪役令嬢のお話。 ヒロイン編【初恋執着〈悪役王子〉と娼婦に堕ちた魔術師〈ヒロイン〉が結ばれるまで】 学院の卒業パーティーで敵に嵌められ、冤罪をかけられ、娼館に送られた貴族令嬢・アリシア。 彼女の初めての相手として水揚げの儀に現れたのは、最愛の婚約者である王太子・フィリップだった。 「きみが他の男に抱かれるなんて耐えられない」という彼が考えた作戦は、アリシアを王都に帰らせる手配が整うまで、自分が毎晩〝他の男に変身〟して彼女のもとへ通うというもので――? オトメゲームの呪い(と呼ばれる強制力)を引き起こす精霊を欺くため、攻略対象(騎士様、魔法士様、富豪様、魔王様)のふりをして娼館を訪れる彼に、一線を越えないまま、アリシアは焦らされ愛される。 そんな花街での一週間と、王都に帰った後のすれ違いを乗り越えて。波乱の末に結ばれるふたりのお話。 悪役令嬢編【花街暮らしの〈悪役令嬢〉が〈ヒーロー〉兄騎士様の子を孕むまで】 ゲームのエンディング後、追放され、花街の青楼に身を置いていた転生令嬢シシリーは、実兄騎士のユースタスに初夜を買われる。 逃げようとしても、冷たくしても、彼は諦めずに何度も青楼を訪れて……。 前世の記憶から、兄を受け入れ難い、素直になれない悪役令嬢を、ヒーローが全力の愛で堕とすまで。近親相姦のお話。 ★→R18回 ☆→R15回 いろいろいっぱい激しめ・ファンタジーな特殊行為有。なんでもござれの方向けです! ムーンライトノベルズにも掲載しています。朧星ここね名義作

処理中です...