上 下
91 / 125

疑いの目

しおりを挟む
ボノが行方不明。疑いの目がセピユロス向けられるのは明白。
だが本人にはその自覚なし。
「落ち着いてください。私がボノをどうにかする訳ないでしょう? 」
セピユロスが見つめる。
その目は真実を語る目。信用していい。
「本当ですね。信じますよ? 」
念を押す。信じたいがどうしても疑いが晴れない。
このまま受け入れていいものか?

「もちろん嘘など…… それにボノにはお付の者が一名。
きっと二人は行動を共にしてます。心配無用ですディーテ。
何らかのアクシデントがあったにせよ問題ありません」
セピユロスは随分と楽観的。まるでふざけてるように見えるから判断がつかない。
「分かりました。今はそう言うことにしましょう」
無駄に騒ぎ立てても意味がない。ここは大人の対応が求められる。

「大丈夫ですかディーテ? 」
優しく抱きしめてくれる。でも耐えられない。
「止めて! 今はそんな気分じゃない! 」
腕を振りほどき睨みつける。
ああつい感情的になってしまった。ここまでするつもりはなかったのに。
「怒ってるんですねディーテ? 」
「違うの。そうじゃない。ただ気分が優れないだけ」
言い訳にもならない言い訳を並べ立て彼を困らせる。
ああ失望してしまったかしら。それはそれで仕方ないこと。
今回のセピユロスには大胆さがある。ただもう少し慎重であって欲しい。
状況判断できるお方だと思ったが違ったらしい。

「心配性ですねディーテも。大丈夫。朝早くから捜索を手伝いますから。
任せてください。きっとこの手でボノを連れ戻して見せます」
胸を張るがどうも当てにならない。
彼は何をそんなに楽観視しているのだろう?
足を怪我し動けないとしてもお付の者が報せに来るはず。
それさえないのだからこれは一大事に違いない。
ただ怒りに任せセピユロスを叱り飛ばすのも違う。

「私には分からない…… 」
「何が分からないと言うのです? 」
「本当にボノが戻って来て欲しいと思うの?
あなたとの関係を続けるにはボノは邪魔な存在。それでもいいと? 」
身勝手極まりないただの願望でしかなかったものが現実となり始める。
でもそれが私の考えるものよりも大きくなってしまった。
膨張した現実が予想をはるかに超えたものにならないか恐れている。
「構いません。ボノとは決闘を申し込めばいい。そう思っています」
若いセピユロス。若すぎる。彼のそう言う真っ直ぐなところが魅力的。
でもそこが弱点にもなり得る。決闘などしてくれるものですか。
ボノはどんな手を使ってもセピユロスを追い出すことでしょう。
これもすべてボノが無事に戻って来た仮定の話。虚しい限り。

詳細を知るであろうセピユロスはこれから降りかかる災難をどう振り払うつもり? 
私はこの屋敷の主人として振舞う。セピユロスに肩入れは出来ない。
はっきり言ってセピユロスを切ることになるかもしれない。
私が望もうとそうでなかろうと関係ない。もうすぐにまで近づいている破滅。
ひしひしと感じ取れる破滅の足音。

「どうしましたディーテ。難しい顔して。心配してくれるのですか? 
きっと明日にはすべて解決するでしょう」
「もういい。考え過ぎだと思う…… 」 
ではそろそろ本題に入るとしましょうか。
「それからセピユロス。残念ですがあなた監視されてるわよ」
「ははは…… 冗談でしょう? 誰がそのようなことを言ったのです? 」
笑っているがその表情には余裕がない。内心かなり焦ってるのが感じ取れる。
「知りたいですか? 後悔することになりますよ」
脅しを掛ける。彼の興味が薄れるのを願って。

「ディーテ。我々の密会がばれたと? 」
激しく動揺する。顔がみるみる青くなっていく。
二人の秘密。二人だけの秘密。逢瀬。
「ええヴィーナが教えてくれました」
「ヴィーナが? だとすれば我々はもう? 」
「それは問題ありません。まだ噂レベルですしヴィーナも確証がないはず」
「ならば今夜も危険では? 」
「大丈夫。今夜は本当にボノの件を問い質しただけですから」

「では今夜はこれくらいで」
セピユロスはそう言うとお別れのキスをして出て行った。
さすがに密会の噂が立つことは無いだろう。
単純に話を聞きたかっただけなのにセピユロスが勘違いしてしまった。
これは大いに反省すべき点。
夜な夜な通うところを見られるのも失態。
やはりセピユロスには任せておけない。

                  続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】完結:虚弱少女は【淫愛】に囚われる ~麗しの義兄と貴族令息の愛が重くて息ができない~

べらる@R18アカ
恋愛
 見目麗しい男二人から、ドロドロに愛され執着され、歪んだ独占欲を向けられる主人公ユフィの話。 【あらすじ】  常に魔力を消費するユフィは、他人から魔力を貰うと性的な快感を得てしまう特異な体質だった。そんなユフィに魔力を与えているのが、彼女に執着する義兄のアゼルと、彼女の愛に飢えている貴族令息のランブルト。  彼らはお互いに牽制し合いながらも、魔力を与える治療行為という大義名分のもと、ユフィと体を重ね続けていた。  だがその均衡も限界が来てしまい……。    執着心強めハーフヴァンパイアの義兄×虚弱少女×ユフィを女神と崇め心酔する貴族令息  三人が繰り広げる愛と執着と嫉妬の物語。 ※別作「ハーフヴァンパイアは虚弱義妹を逃がさない ~虚弱体質の元貴族令嬢は義兄の執着愛に囚われる~」の三角関係をメインに書いたIFストーリーです。本編よりヒーローのヤンデレ感強め。本作だけでも読めるようにしています。一応。 ※攻め両方とも愛激重で強制/無理やり表現です ※全編エロ

貧乏男爵令嬢のシンデレラストーリー

光子
恋愛
 私の家は、貧乏な男爵家だった。  ツギハギだらけの服、履き潰した靴、穴の空いた靴下、一日一食しか出ない食事……でも、私は優しい義両親と、笑顔の可愛い義弟に囲まれて、幸せだった。  ――――たとえ、家の為に働きに出ている勤め先で、どんな理不尽な目に合おうと、私は家族のために一生懸命働いていた。  貧乏でも、不幸だと思ったことなんて無い。  本当の両親を失い、孤独になった私を引き取ってくれた優しい義両親や義弟に囲まれて、私は幸せ。だけど……ほんの少しだけ、悔しいと……思ってしまった。  見返したい……誰か、助けて欲しい。なんて、思ってしまったの。  まさかその願いが、現実に叶うとは思いもしなかったのに――  いかにも高級で綺麗なドレスは、私だけに作られた一点もの。シンデレラのガラスの靴のような光輝く靴に、身につけるのはどれも希少で珍しい宝石達で作られたアクセサリー。  いつもと違う私の装いを見たご令嬢は、目を丸くして、体を震わせていた。 「な……なんなんですか、その格好は……!どうして、キアナが……貴女なんて、ただの、貧乏男爵令嬢だったのに―――!」  そうですね。以前までの私は、確かに貧乏男爵令嬢でした。  でも、今は違います。 「今日ここに、我が息子フィンと、エメラルド公爵令嬢キアナの婚約を発表する!」  貧乏な男爵令嬢は、エメラルド公爵令嬢、そして、この国の第二王子であるフィン殿下の婚約者になって、貴方達とは住む世界が違ってしまいました。  どうぞ、私には二度と関わらないで下さい。  そして――――罪を認め、心から反省して下さい。  私はこのまま、華麗なシンデレラストーリーを歩んでいきます。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。魔法も使います。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

ごめんなさい。わたくし、お義父様のほうが……

黄札
恋愛
実家が借金まみれのことを暴かれ、婚約破棄される地味眼鏡ルイーザ。しかし、ルイーザが関心を持っているのは婚約者ではなく、その父。 だって、わたくしオジ専なんです。禁断の愛?? いいえ、これは真っ当な純愛です。 大好きなチェスが運命を変えてしまう物語。 ……からの、チェスドラマです。 舞台はその十年後。 元婚約者の私生児、ローランを引き取ることになったルイーザは困惑していた。問題児ローランは息子との折り合いも悪く、トラブル続き…… 心を閉ざす彼が興味を保ったのはチェス! 金髪碧眼の美ショタ、ローランの継母となったルイーザの奮闘が始まる。 ※この小説は「小説家になろう」でも公開しています。

妹に彼氏を寝取られ傷心していた地味女の私がナンパしてきた年下イケメンと一夜を共にしたら、驚く程に甘い溺愛が待っていました【完】

夏目萌
恋愛
昔から姉の物を欲しがり必ず自分の物にしていく妹の事が大嫌いな亜夢は、大学進学と共に家を出て以降家族とは疎遠になった。 ようやく訪れた平穏な日々。 社会人になって、彼氏も出来て、順風満帆な毎日を送っていたある日、妹の有紗は突如姿を現した。 それを合図に亜夢の平穏な日常は崩れ去り、ついには彼氏を寝取られてしまう。 幸せを奪われ、傷心していた亜夢の元へ一人の青年が声を掛けられ、多少の迷いはあったものの、亜夢はその青年の誘いに乗って一夜を共にしてしまう。 当初は一夜限りだと思っていたのに、自分を見てくれる彼に惹かれてしまった亜夢は告白を受けてそのまま交際に発展するのだけど…… 実は、この出来事は全て、ある人物によって仕組まれていた事だった――。 ※他サイトにも掲載

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

処理中です...