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礼拝

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朝の礼拝。
幼い頃からの習慣で欠かしたことは無い。
誰に強制された訳でもなくただお婆様の後をついて行くうちにいつの間にか。
この時ばかりは主人もメイドも関係ない。皆、神の僕でしかない。
ここで問題なのは誰が取り仕切るか。
お婆様の頃はお婆様が。お母様の頃はお母様が。
メイドからすれば雲の上の二人。
私にとっても畏怖の対象でしかない。
小さい頃から厳しく躾けられて疑いもしなかった。
もちろん厳しいだけではなく優しい一面を覗かせることも。
ただメイドが見てる前では決して威厳を損なうような真似はしなかった。
それは私も大いに見習うべきところですが時代が時代ですからね。
ヴィーナがいかに甘やかされているかが分かると言うもの。
おっと脱線してしまった。

私の代では皆、神の僕に変わりないとして交代制に。
ただ今日は彼女の番ではないはず。
ならば一体何が?
「実は今日はお嬢様の番なのですが…… 」
「ヴィーナの番? 」
もちろんヴィーナも礼拝には参加している。
「それで今ヴィーナ様は憔悴しきっておりまして…… 」
メイドの言いたいことは分かった。
確かに今のヴィーナでは難しいでしょうね。誰かが代わるしかない。
「分かりました。今日は私が」
ヴィーナの代理をする。この程度のことでメイドに負担は掛けられない。
問題はヴィーナの精神状態。
彼女こそ神に祈りを捧げ己を見つめ直すべき時。
少々突き放した物言いですがこれもヴィーナの為。
セピユロスに続きお姉様とまで別れ落ち込む気持ちも分からなくもありませんが。
それでも心を強く持ち立ち向かわなければ余計に心が擦り切れてしまう。
そうなる前に立ち直らせる必要がある。

礼拝室。
「では皆さん。神に祈りを捧げましょう。
このロウソクが消えるまで無心に祈り続けるのです。
さすれば幸せが訪れる。祈るのです。祈り続けるのです。さあ皆さんご一緒に」
ロウソクが消えることはまずない。風でも吹かなくては無理だ。
五分ほどたったところでロウソクを吹く。
これで完了。
すぐに朝食に取り掛かる。

朝の礼拝は神に祈りを捧げるもの。
決して誰かに強制されることはない。
ここでは主人もメイドもない。
だからもちろん参加は自由。
私は日課なので行くがボノは参加した試しがない。

「おはようございますお母様」
不参加だったヴィーナが朝食の席には姿を見せた。
化粧っ気がないせいかやつれてるように見える。
体重も減っただろう。
これは早く先生に相談しなくてはなりません。
メイド館の隣が医者一家で母の代から懇意にしている。
まあ実際は無理に頼み込んで引っ越してきてもらったのだが。
家の隣が診療所となっておりメイドたちもお世話になっている。
私も定期的に往診に来てもらっている。
ただそこではさすがに心の病までは治せない。
だから専門医を連れてくる必要がある。
それくらい危険な状態。

その危険な状態のヴィーナを私は傷つけようとしている。
自覚がある。だから辛い。
もっと何も考えないで居られたらどれだけ良かったか。
ヴィーナを地獄のどん底に突き落とそうとしている。
それは決して許されないことで。罪深いこと。
たとえ神に祈りを捧げようとも許されないだろう。

もう心の中では決めたこと。
どんなに取り繕っても意味がない。
これは戦いなのですから。
セピユロスを巡っての女と女の戦い。
勝負は最後の最後まで分からない。
たとえこれで地獄に堕ちようとも構いません。
それだけセピユロスは魅力的。
私もいつの間にか彼に骨抜きにされてしまった。
これが彼の狙いだとしたら私たちはとんでもない罠に嵌ったことになる。

セピユロスによる混乱は我が一族の危機。
団結すべき時に団結せずに皆バラバラ。
ヴィーナにしろボノにしろ心が離れて行ってしまっている。
セピユロスによる混乱は混沌となり滅亡へ。
もう時間がない。決断の時迫る。
セピユロスが帰還する前にきちんと話し合うべきだ。
それにはもちろんすべてを白日の下に晒す覚悟がいる。

朝食を済ますと読書へ移る。

                  続く
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