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思い出

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夕方。
屋敷に戻る。
「どう変わったことは? 」
「いえ特には。ああそうだセピユロス様がお戻りになってますが」
「そう」
もう遅いか。夕食後に来るように伝える。

さあ今日もいつものように練習。
気は乗らないが仕方ない。習慣だと思って割り切るしかない。
それにしても当日までにこの恥ずかしさを克服できるかしら。
「先生! 」
「ディーテ君。昨日の続きだ。基礎からだよ」

小さい頃お母様とお父様が嗜んでいた大人の遊び。
幼い私が目の前で見ていると危険だから近づくなと止められた。
上品なお母様といつも優しいお父様が真剣な表情で鞭の振り合いっこしていた。
お庭でやればいいのに恥ずかしいのか決して人を近づかせなかった。
もちろん先生の指導のもとどんどん上達する姿は誇らしい。

私が真似ようとするとお父様が教えてくれた。
しかしお母様がダメですと言って取り上げてしまう。
そうかまだ早いかなどと笑っているとお母様がお怒りなってついには喧嘩に発展。
私はそのたびに大声を上げて泣くものだからメイドたちが駆けつけてくれた。
二人とも恥ずかしさのあまりその場に立ち尽くすものだから笑ってしまう。

ふふふ……
「こらディーテ」
お母様は誰彼構わず怒鳴り散らす。
そうすると私もメイドたちも泣き出す。
お父様が宥めるが誰もお母様に逆らえない。
そんなことが何度も続くとさすがに追い出されてしまう。
あんな格好で子供の教育にはよろしくありませんと出入り禁止に。
その後も外から様子を窺おうとするもメイドたちに捕まってしまう。
そのうち興味を失い近づかなくなった。

今思えば良い思い出。
親子三人だけの特別な時間。
でもこれをヴィーナに見せるかと言ったらとんでもない。
全力で阻止する。
近づいてきても怒鳴り散らしてお終い。これではお母様と変わらないか。
せめてこの派手な衣装と鞭さえなければどうにか取り繕えるけど。
秘密にするしかない。
ヴィーナだってもう大人だしこれくらい理解してくれるだろうが威厳と尊敬を失ってはいけない。
こんな情けない格好を見せようものなら笑い飛ばすでしょう。
それならまだいい方。失望させてしまうかもしれない。
でもねヴィーナ。あなたもいつかこれを受け継ぐ時が来る。
私だってこれが嫌でお母様の跡を継ぐの渋っていた記憶があるぐらい。
ヴィーナだってあと十年もすれば引く継ぐことになる。
拒否はできない。

古くからの伝統で国王様にお見せする儀。
その一つに組み込まれた。
国王様がお喜びになれば我が一族も安泰。

生誕祭が間もなく盛大に行われる。
その前に何としても形にしなくてはいけない。
二人一組だからボノの協力も不可欠。
昨年まではお母様とお父様が。
今年から私とボノが後を継ぐことになった。
ボノは意外にも何度か経験があるようで練習に参加することは無い。
こちらとしてもまだ恥ずかしいので助かっている。
ボノはボノで生誕祭には間に合わせてくるでしょう。
噂では実践だとかでメイドの協力を得て夜な夜なプレーしてるとか。
私も早くボノに追いつき二人でやれるよう精進しなくてはいけません。

「ほら角度が甘い。もう少し顎を引いて」
「はいこうですか? 」
「違うって言ってるじゃない」
激高するとおかしな口調になる。怖くはないですけど…… いえ怖いです。
「次は鞭の使い方。ほら私をパートナーと見立ててやって見なさい」
ビシビシ
ビシビシ
「どうしてゆっくりなの? それでは効果がありません」
もっと早くもっと強くと迫るが私はどうしていいか分からずに泣きだしそうになる。
でも私はこの屋敷の主人だ。しっかりしなくてはだめ。
ああボノとこんなことまでするの。
いくら国王様の機嫌の為、我が一族の安泰の為とは言え本当に嫌になってしまう。

「はい今日はこれくらいにしましょうね」
専属の先生。祖母の代からの付き合いでよく遊んでもらったっけ。
でも今はただの怖い先生。

                  続く
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