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滞在

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『ディーテ』か。新鮮な感覚。
若いセピユロスさんにそう呼ばれると不思議と自分まで若返った気がする。
本当にいい加減でどうしようもない私。自分が嫌になってくる。

ボノはただのよそ者。おっとこれは母の口癖。
その母もあなたとしか呼ばず私は辛かった。
名前で呼んでくれたのは姉とボノぐらいなもの。
今はその生活にも慣れて何も感じなくなっている。

そこに新しい風が吹く。
西の方より吹き荒れる風。セピユロス。
彼は何を思って名前で呼ぼうなどと思ったのだろう?
自分でも言っていたように彼の故郷エイドリアスは山奥の田舎。
想像ではとても名前で呼び合うような一家には思えない。
意外にもフレンドリーに、より都会的に?
でもそぐわない場面もあるでしょう。
危険な賭けだとは思わないのかしら。

「うん。よしセピユロス君の好きにするといい。
それでメイドたちはどう呼ぶつもりだ? 」
ボノが意地悪をする。
使用人だったりメイドだったりいちいち一人ずつ覚えてられない。
名前で呼ばずにただあなただ。酷い時にはそことなる。
どうにか覚えられて仲のいい者か昔からの者、腹心の者。それとメイド頭程度。

「出来るだけ名前で呼びたいと思っております」
誠実な若者に心が動かれそうになる。
だめよ。そんな甘い考え方ではヴィーナにまで害が及ぶ。
あなたにはもっと非情になって欲しい。
ボノのように優しく振る舞って隠れて裏切るそんな人間にはなって欲しくない。
あら…… これではまるで夫の悪口を永遠に言う悪妻でしかない。
ふふふ…… セピユロスさんは違うわね。純朴な村の若者だもの。

「それでここにはどれほど滞在する気だい? 」
ボノが話を変える。実は私もそのことが気になっていた。
早ければ明日にはここを立つことも考えられる。
反抗的なヴィーナは別に構いませんがせっかく来てくれた彼には出来るだけ楽しんでもらいたい。
それがこの屋敷の主人としての願い。
これからのこともあるので多くの時間を過ごし良好な関係を築きたい。

「そうですね…… 」
「決めてないのか? 」
ボノも必死だ。自分でメイドの話をして墓穴を掘る。それをどうにかしようと話を変えるところまでは良かった。
でも焦り過ぎてセピユロスさんを困らせている。
たぶんメイドの件をこれ以上追及されたくない心理からでしょう。
ボノはメイドには慕われていると聞く。
それもそうよね。彼にとって夜のお相手ですものね。
優しく親切にそれこそ紳士的な振る舞い。
私にも同じように振る舞うので文句ありませんがあーあ困ったボノ。

「そうですね。ヴィーナと相談してから決めるつもりですが十日ほど厄介になろうかと思います」
まだはっきり決めてないんですけどねと付け加える。
あら十日…… 意外と長いのね。
「ご自由になさってください。ただ出かける時と帰る時は知らせてね」
「そうだぞ。自分の家だと思って寛ぐといい」
恐縮ですと頭を掻く。

それからは故郷エイドリアスの話。
都会での話。
出会った時の話と延々に聞かされる。
ははは……
それでそれで。
「これはねえっと…… 」
「うわ何ですか? 」
ボノが旅行で手に入れた珍品や年代物の時計に服。
いわゆるお宝自慢が始まったので退散して部屋に戻ることになった。
こうなると二時間はかかる。
ごめんなさいねセピユロスさん。眠いでしょうけどお付き合い頼みます。
これもあなたの為よ。頑張ってね。

結局ヴィーナが戻って来ることはなかった。
まったくあの子ったら先に寝てしまったのね。
本当に何を考えてるのかしら。
お仕置きしなくては。

                 続く
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